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迷走ブレグジット、英国の未来は「元気印のレズビアン」に委ねられた - 木村正人 欧州インサイドReport

6/14(水) 18:15配信

ニューズウィーク日本版

<「勝者なき英総選挙」のなかで「大勝利」を収めたのがスコットランド保守党党首のルース・デービッドソン。同党の13議席がなければメイは首相の座に留まれなかった。今後の政局のカギを握るキーパーソンだ>

よもやの過半数割れ

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉の行方を占う総選挙が6月8日に行われ、首相テリーザ・メイは目論んだ圧倒的過半数を獲得できず、よもやの過半数割れを喫した。イギリスの有権者は離脱交渉の舵取りをメイに任せたものの、与党・保守党の強硬派が主導してきたハード・ブレグジット(単一市場と関税同盟からも離脱)に難色を示した、と結果論を語るのは簡単だ。

【参考記事】英総選挙で大激震、保守党の過半数割れを招いたメイの誤算
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投票の1週間前、英世論調査協議会会長のストラスクライド大学教授ジョン・カーティスと元内閣府首席エコノミストのキングス・カレッジ・ロンドン教授ジョナサン・ポルトに「最大野党・労働党党首ジェレミー・コービンの人気が急上昇しているのは有権者がソフト・ブレグジット(単一市場と関税同盟へのアクセスをできるだけ残す)を望んでいるからか」と水を向けると、「選挙キャンペーン、マニフェスト(政権公約)、教育や医療など内政問題が大きい」という分析だった。

【参考記事】「認知症税」導入で躓いた英首相メイ 支持率5ポイント差まで迫った労働党はハード・ブレグジットを食い止められるか

EU離脱を党是とする英国独立党(UKIP)の分析で高い評価を受けていたケント大学教授マシュー・グッドウィンに至っては5月下旬「コービン党首の下で労働党が得票率38%に達するようなことがあれば、ブレグジットに関する自分の新著を食べる」とまで豪語していた。総選挙でコービン労働党の得票率は40%となり、グッドウィンが新著をムシャムシャ食べる姿が全国に放送された。メイやコービンだけでなく、その筋の専門家もイギリスの世論を読めていなかった。

勝者は誰?

一体、この総選挙の勝者は誰なのか。主な政党の内情を見てみよう。

【メイ保守党】13議席減、地滑り的勝利を確信して早期解散に踏み切ったものの、過半数割れして、これまでのハード・ブレグジット路線を見直し

【コービン労働党】30議席増、若者を中心にコービン人気を巻き起こしたが、政権奪取にはまだまだ遠いことが浮き彫りになった

【スコットランド民族党(SNP)】21議席減、前党首アレックス・サモンドが落選。2回目のスコットランド独立住民投票に大きなブレーキ

【自由民主党】4議席増、EU残留を選択肢の一つとする国民投票の再実施を掲げるも、元党首ニック・クレッグが落選するなど、得票率はダウン

【UKIP】唯一の議席を失う。得票率は12.6%から1.8%に激減。党首交代

【民主統一党(DUP)】北アイルランドのプロテスタント強硬派政党、2議席増。メイ政権の過半数維持のため閣外協力を約束するも、プロテスタント系とカトリック系の合意による北アイルランド和平が綻ぶ恐れも



「保守党不毛の地」で生まれた勝者

勝者なき今回の総選挙で一躍、脚光を浴びた政治家がいる。「キックボクシングを愛好するレズビアン」(英大衆紙デーリー・メール)こと、スコットランド保守党党首のルース・デービッドソン(38)だ。保守党の首相マーガレット・サッチャーが1980年代に炭鉱閉鎖、労働組合潰しの大ナタを振るってから、深刻な経済的ダメージを受けたスコットランドはずっと「保守党不毛の地」と呼ばれ続けてきた。1997年総選挙で議席をすべて失ったあと、1議席を死守するのがやっとだった。


スコットランド保守党党首ルース・デービッドソン Masato Kimura

それが今回12議席増の13議席。昨年のスコットランド議会選で議席を倍増、今年5月の統一地方選でも躍進を遂げていたとは言え、予想を上回る「大勝利」だった。2014年の住民投票で否決されたにもかかわらず、独立に突き進むSNPへの批判票がスコットランド保守党に集まったからだ。

元BBC記者のデービッドソンが同性愛のパートナーと公の場に姿を現し、メディアの前で戦車の主砲にまたがったり、民族楽器バグパイプを吹いて見せたりする「元気印」をアピールしていなければ、スコットランド保守党の復活はあり得なかった。総選挙でもステージに飛び上がり、隣のメイがそれを真似した場面が印象的だった。

スコットランドの13議席のおかげでメイは首相の座から滑り落ちずに済んだ。総選挙後の閣議に出席したデービッドソンは「大切なのは、我が国の経済を最優先にブレグジットを進めるということだ。保守党はそれを実行すると信じている」とハード・ブレグジットからソフト・ブレグジットに舵を切るよう要求した。中絶や同性婚に反対するDUPとの閣外協力についても、デービッドソンはメイから同性愛者の権利は守るとの言質を得た。

ソーシャル・コンサーバティブの色彩を強める保守党とは一線を画す開放的なデービッドソンの周囲では「次の保守党党首に」という声が早くも上がっているが、本人はSNP党首ニコラ・スタージョンからスコットランド自治政府首相の座を奪うことに焦点を定めている。

木村正人

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