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ろう者の母の声は、世界で私と弟だけが聞き取れるもの――コーダの世界(3)

6/15(木) 17:00配信

文春オンライン

コーダの世界(2)より続く 

 ろう者やコーダ(Children Of Deaf Adultsの略で、聞こえない親をもつ聞こえる子供のこと)を描く、という共通項を持つ二人のクリエーター。『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)の著者・丸山正樹さんと、公開中のドキュメンタリー映画『きらめく拍手の音』のイギル・ボラ監督の対談、最終回。

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それぞれにとってのデフ・ヴォイス

丸山 私の方はタイトルにもしていますし、ボラさんの映画の中にも、何度か印象的にご両親の声=「デフ・ヴォイス」が出てきます。

ボラ 私にとって、両親のデフ・ヴォイスはとっても大切なものです。子供の頃の話ですが、両親が商売をしていて、母が一人で店に出ていた時があったんです。その時、私は家にいたんですが、急に母が電話をかけてきて、「ボーア、ホーハーハー、ハーハーハー」って言ったんです。

丸山 ろう者の出す声は独特で、聞きなれない人には聞き取りづらいことが多いですね。

ボラ はい。でももちろん、私にはすぐに母だと分かりました。何と言っているかも分かった。「ボラ、お弁当持ってきて」。そう言っていたんです。こういう母の声は、世界で私と弟だけが聞き取れるものなんだと思いました。そんな記憶があって、だから私にとって「デフ・ヴォイス」、母の声はとても大切なものなんです。

 丸山さんの小説でも、とても大事な場面でデフ・ヴォイスが登場しますよね。それに対してのコーダの感情を本当に正確に表現していて、驚きました。

丸山 デフ・ヴォイスという言葉は、日本でも一般的ではないんですが、いくつかの書籍に出てきて、ハッとしました。実は、ずっと以前に、町の中でろう者が声を発しているのを聞いたことがあったんです。正直言うと、聞いてはいけないものを聞いたような気がしました。小説の中で、子供を呼ぶろう者の母親と、それを遠巻きにする通行人が出てくるんですが、いわば私はその通行人だった。しかし、「ろう者」や「コーダ」について深く知っていくうちに、そういう通行人であった自分を恥ずかしいと思い、むしろデフ・ヴォイスを誇るような気持になった。これをタイトルにしようと決めました。

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最終更新:6/15(木) 17:00
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