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Microsoft共同創業者ポール・アレンが世界最大の飛行機を開発!その正体は?

6/15(木) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 全長117mもの長大な翼をもつ”世界最大の飛行機”が、6月1日に米国カリフォルニア州にある空港でお披露目された。

⇒【画像】まるで2機の飛行機が並んでいるような形をした「ロック」

 その名は「ロック」。この巨大な飛行機を飛ばすのは、ビル・ゲイツ氏とともにマイクロソフトを立ち上げたことで知られる、ポール・アレン氏が創業した「ストラトローンチ・システムズ」という企業である。

 世界最大の飛行機というと、これまではソ連・ウクライナのAn-225「ムリーヤ」がその記録をもっていた。最大で150トンもの物資を運べる能力を活かし、巨大な建設機械、発電所や工場などの資材をはじめ、災害対応でも活躍。東日本大震災のときには日本にも飛来し、支援物資を送り届けている。

 しかし、ロックはムリーヤとは違い、人や貨物を運ぶことを目的としていない。運ぶのはロケット、それも宇宙へ向けて運ぶのである。

◆世界最大の飛行機のひとつ

 ロックはその大きさもさることながら、「双胴機」と呼ばれる胴体が2つあるタイプの飛行機で、その変わった形でとりわけ人目を引く。その2つの胴体をつらぬくように長い主翼が走っており、真ん中で折れないかとちょっとばかり心配になるほどである。

 この主翼の端から端までは、実に117mもある。ムリーヤは88.4mなので、圧倒的な長さである。ちなみに歴史を振り返れば、かの実業家ハワード・ヒューズが開発したH-4「ハーキュリーズ」という飛行機が97.5mという記録をもっているが、ロックはこれすらも超える。

 もっとも全長は73mであり、ムリーヤの84mよりは短い。そのため厳密に言えば、世界最大の飛行機のひとつ、と呼ぶのが正しい。

 ロックの離陸時の質量は600トン近くにもなる。これだけ巨大で重い機体を持ち上げる以上はエンジンも強力なものが必要になるため、ジャンボジェット機などに使われているエンジンを6基も装備している。

◆運ぶのは「宇宙ロケット」

 これほど巨大な飛行機だが、運ぶのは乗客でも荷物でもなく、宇宙ロケットである。それもただ運ぶだけでなく、ロケットを空中発射させるための母機になる。

 ロケットはロックの主翼の真ん中付近に吊り下げられ、ロックとともに離陸。そして上空まで飛行し、ロケットを切り離す。ロケットはその直後にエンジンに点火して宇宙へ向けて駆け上がり、一方のロックは飛行場に着陸。整備や燃料の補給などを行い、次の飛行にそなえる。

 ロケットは、米国のロケットやミサイルの名門企業オービタルATKが製造している「ペガサス」というロケットを使う。ペガサスは小型のロケットで、約500kgの衛星を地球を回る軌道へ打ち上げられる能力をもつ。

 オービタルATKはすでに、自社で保有する中古の旅客機を使い、ペガサスで人工衛星を打ち上げるビジネスを行っており、これまでに43機のペガサスが打ち上げられている。

 ロックは機体が大きいため、1度に3機のペガサスを運んで発射することができる。この3機は、同じ軌道に乗せることも、あるいは1機ごとに機体の向きを変えるなどして、それぞれ異なる軌道に飛ばすこともできるという。

 現在のところ、今後しばらくは、ロックの最終組み立てや試験など、飛行機として完成させることを目指した開発が続く予定となっている。そして、2019年にロケットの試験打ち上げを行い、その後本格的な打ち上げに入りたいとしている。

◆空中発射ロケットの利点と欠点

 こうした空中発射ロケットは、通常の地上から発射する形態のロケットと比べ、いくつかの利点がある。

 たとえば地上に専用の発射台を造る必要がないため、建設費や運用費を抑えることができる。ロケットの打ち上げごとに発射台を整備する必要もないため、打ち上げの頻度も増やせる。まさに飛行機が空港から飛び立つように、宇宙へロケットを打ち上げることができる。

 また、上空は大気がやや薄くなるため、ロケットを効率よく飛ばすことができる。たとえば同じ性能のロケットでもより重い衛星を飛ばせるし、同じ重さの衛星なら、より小型のロケットで打ち上げることができるようになる。

 さらに地上から発射する場合、飛行経路の下に人家などを避けるように飛ばす必要があり、迂回することでロケットの打ち上げ能力が落ちたり、あるいはそもそも打ち上げられない方角が生まれる。しかし空中発射であれば基本的にはどの角度へも自由に打てる。

 しかし、なぜこれほどまでにいいことずくめなのに、空中発射ロケットは世界の主流にならないのかといえば、これらの利点を帳消しにするような欠点があるからである。

 たとえば飛行機に積む関係上、あまり大きなロケットは打ち上げらず、それこそロックのような規格外の巨大な飛行機が必要になる。また、いくら発射台は必要ないとはいえ、ロケットや衛星を整備するための施設は必要になる。ましてやロックのような巨大飛行機であれば、なおのことその規模は大きくなり、結局発射台を造るのと大して変わらない。

 また、ロケットは基本的に危険物なので、取り扱いが難しく、その辺にあるような空港では運用できない。さらに発射前のロケットや搭載された衛星には、発射直前まで電力や空調を供給する必要があり、飛行機に地上の発射台と同じ機能をもたせるような手間もかかる。

 つまるところ、こうしたさまざまな利点と欠点を総合的に考えれば、空中発射にそれほど大きな旨味はない、というのが実際のところである。

◆ストラトローンチ社の未来は?

 同社は巨大飛行機からの空中発射というやり方を「地球低軌道への衛星打ち上げを当たり前のことにするため」と語る。しかし、ストラトローンチがビジネスとして成功するかどうかは、空中発射の利点を最大限に活かし、なおかつ欠点を最小限に抑えられるかにかかっている。ただ、残念ながらその未来はあまり明るくないようにみえる。

 たとえば、地上から発射される他のライバルとなるロケットが、空中発射の長所を奪う可能性もある。たとえば大きく海が開けた場所に発射台があれば、飛ばす方角の問題は解決されるし、ミサイルのような移動式の発射台から打ち上げられるようにすれば、なおのこと自由が効く。

 結局のところストラトローンチには、ストラトローンチにしかできない、あるいはストラトローンチならではの、何か唯一無二の売りがあるわけではない。口さがない人は「彼(ポール・アレン)は単に、世界最大の飛行機を造りたかっただけなのではないか」と言うなど、金持ちの道楽扱いするほどである。

 ストラトローンチはもともと、イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業「スペースX」と共同でビジネス展開をしようと考えていた。スペースXが運用している「ファルコン9」を改造して、ロックから空中発射しようとしていたのである。しかし、両社の考えが合わないことから破談に終わっている。つまりマスク氏にとって、空中発射はあまりよくないアイディアだったようである。

 その後、ペガサスを製造しているオービタルATKと協力することになった際も、当初は新しい中型ロケットを開発して、それをロックから発射するという計画もあったが、これも流れ、結局は既存のペガサスを積んで発射するという、現在の計画に行き着いた。

 しかし、そもそもペガサスすら1年に1~2機程度しか打ち上げられておらず、商業的に成功したロケットとは言い難い。それを世界最大の飛行機から発射したたところで、何かが大きく変わることはない。

 同社はまた「ロックはさまざまなロケットの発射に使える。載せられるロケットを広く探している」と語っているが、それは現時点で、ストラトローンチにどのような規模、性能のロケットを載せ、どのくらいの頻度で飛ばせばよいのか、という明確なビジョンがないということもであろう。

 幸いにも近年、ペガサスで打ち上げられるような質量数百kgほどの小型衛星の需要は増えている。ロックが完成し、打ち上げができるようになれば、それなりの受注は得られるかもしれない。しかし、スペースXなどの他の宇宙企業が目指すような、宇宙ビジネスにおける革命が起こせるかどうかは未知数である。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・Stratolaunch News – Stratolaunch Aircraft Makes First Rollout To Begin Fueling Tests 5/31/2017(http://www.stratolaunch.com/news/FirstRollout.html)

・Stratolaunch News – Orbital ATK and Stratolaunch Partner to Offer Competitive Space Launch Opportunities 10/06/2016(http://www.stratolaunch.com/news/OrbitalATK.html)

・Stratolaunch Aircraft Makes First Rollout to Begin Fueling Tests | Paul Allen(https://www.paulallen.com/stratolaunch-aircraft-makes-first-rollout-to-begin-fueling-tests/#stratolaunch-aircraft-makes-first-rollout-to-begin-fueling-tests)

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