ここから本文です

現役鉄道マンによる明治開化もの+ミステリー

6/15(木) 6:45配信

Book Bang

 明治開化期を背景に実在の著名人をちりばめて描いた奇談調のミステリーといえば、坂口安吾が種をまき山田風太郎が耕した明治開化もの。本書はそこにさらに鉄道という題材を加味した長篇ミステリーだ。

 一八七九年(明治一二年)夏、工部省鉄道局技手見習の小野寺乙松は局長・井上勝の命で元八丁堀同心・草壁賢吾のもとを訪れる。京都・大津間に建設中の逢坂山トンネルの工事現場で測量記録の改ざんや落石事故など不審な出来事が相次いでいた。長州閥の井上は薩摩閥の警察を信用しておらず、さりとて外国人抜きでの鉄道建設を失敗させるわけにもいかない。窮余の策として、切れ者の草壁を捜査に雇おうとしたのだ。

 数日後、井上同道で現場を訪れた草壁と小野寺は、工事の請負会社・藤田商店の江口が列車から転落死したことを知らされる。警察は事故扱いしたが、真相は不明。その夜、現場の線路工夫を束ねる稲村や掘削に携わる生野銀山の坑夫頭・植木が様子うかがいに現れる。地元には鉄道開通を喜ばぬ者もいれば、工夫と坑夫の対立も顕在化していたが、翌日転落事故のあった客車を調べた草壁は出血の痕跡を発見、江口が殺されたことを示唆する。

 日本に鉄道が開通して七年、さらに日本初の山岳鉄道トンネル工事現場で事件が起きるという着想に拍手。黎明期のことゆえ、奇抜な仕掛けが駆使されるわけではないが、時の権力抗争や鉄道反対運動を織り込んだ社会派タッチは興味深いし、火薬樽が消えたり現れたりする趣向は古典的な優雅ささえ感じさせる。草壁と小野寺は典型的なホームズ&ワトソン型のコンビだが、真価を発揮するのはこれからだろう。現役鉄道マン作家らしい温故知新系の鉄道ミステリーの登場だ。

 なおこの当時の京都・大津間のルートは南廻りで、現在とは異なっていた。巻頭に周辺地図があるといいと思うので、文庫化の際はぜひ。

[レビュアー]香山二三郎(コラムニスト)
かやま・ふみろう

新潮社 週刊新潮 2017年6月15日号 掲載

新潮社

最終更新:6/15(木) 6:45
Book Bang

記事提供社からのご案内(外部サイト)