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“カタール断交問題”、サッカー界への余波。どうなるPSG? 2022年W杯開催は?

6/16(金) 7:22配信

フットボールチャンネル

 サウジアラビアやUAEなどの中東諸国がカタールとの国交を断絶すると発表した。カタールは2022年W杯の開催国になることが決まっているが、この政治的事件はサッカー界に何か影響を及ぼすのだろうか。また、影響があるとすればどのようなことが考えられるだろうか。(取材・文:小川由紀子【フランス】)

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●カタールの資金援助を受けるパリ・サンジェルマンは?

 6月5日、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などの湾岸諸国は、カタールとの国交を断絶すると発表した。『ISなどのテロ組織を支援している』ことが要因だという。

 これらの国々は、陸海空路においてカタールとの行き来を閉鎖、それぞれの国に居住するカタール国民に退去勧告を出すなど、早々に実質的な手段にも着手していて、輸入がストップして物資がなくなるのではないかと危惧した現地の人々がスーパーに買いだめに走る姿などもニュースで報じられている。

 事態が長期化すれば、世界的にも影響が広がっていくと思われるが、とくに対岸の火事とは言っていられないのがフランスのサッカー界だ。

 カタール国家による資金援助をうけて欧州屈指のビッグクラブにのし上がったパリ・サンジェルマン。彼らの株は現在100%、QSI(カタール・スポーツインベストメント)が保有している。QSIは、カタール王国が運営する投資機関QIA(カタール・インベストメント・オーソリティ)の一部門で、いわばPSGは、カタール国によって運営されているともいえる。

 メインスポンサーにはユニフォームを提供するナイキや、胸ロゴになっているエミレーツ航空など他国の企業もあるが、オーレドゥというカタールの電話会社や、QNB(カタール・ナショナル銀行)など、カタールとのパイプなくしては現在のレベルでのクラブ運営はまったく立ち行かない。

●胸スポンサーのエミレーツ航空はUAE資本だが…

 デロイト社の調べでは、14-15シーズンのパリSGの収益は約4億8000万ユーロで、レアル・マドリー、FCバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドに次いで欧州の4番手にのし上がった。

 そのうちのおよそ2億ユーロは、QTA(カタール・ツーリスト・オーソリティ)なる同国の観光振興部門からのスポンサーマネーによるものだ。またしても“Q“がつくことで察しがつくように、これもカタール国家の息がかかった機関だが、UEFAのファイナンシャルフェアプレーではオーナーがポケットマネーから資金を補填することを禁じているため、別の機関からの純粋なスポンサー料であるという体裁をとっている。

 パリの玄関シャルルドゴール空港には、PSGの選手たちがモデルとなったカタール観光誘致のポスターなども貼られて、それらしい活動も行われていることをアピールしている。

 また、2019-20シーズンからの始動を目指し、パリ郊外のポワシーにある74ヘクタールという広大な敷地に、ピッチ14面を備えた世界最先端レベルのトレーニング施設を現在建設中だが、3億ユーロにも上ると言われる総工費もカタール国家の懐から捻出されるものだ。

 よってカタールの経済状況は、PSGの運命を左右する重大事項。クラブ側は、国交断絶のニュースが流れた翌日、フランスのメディアに対し「外交・政治的な問題は、PSGとの長期的な提携についてはなんら問題を及ばさない」と発表。

 前述の胸ロゴスポンサーはボイコット国の一つであるUAEのエミレーツ航空だが、今のところ、2019年まで年間2500万ユーロ、という彼らとの契約が打ち切るになる可能性も低いという。だが提携を継続する気は変わらないとしても、それが現実的に可能かどうか、先々のことについては彼ら自身不透明なのではないかと思う。

●BeINスポーツが支払っているリーグ1の放映権料

 カタールという巨大船が座礁したら困るのはパリSGだけではない。

 2011年にPSGを買収したカタール勢は、QIAの傘下にあるスポーツメディア、BeINスポーツをもフランスサッカー界に送り込んできた。これまでフランスのカナルプリュスが独占していたリーグ1の放映権に割って入り、“ジョイント放映”という形で放映権料をリーグに注いでいる。

 2014年に更新された2016-20シーズンの年間放映権料は史上最高額の約7億4850万ユーロ。その週の最注目マッチを放映する権利をゲットしたカナルプリュスが4分の3ほどを負担することになった。

 カナルプリュスから人気コメンテーターを引き抜いたり、いつでも解約可能のうえ月額契約料はカナルの3分の1以下といった柔軟なシステムを導入したりしてどんどんシェアを広げているBeINが、これまで放映権を独占してあぐらをかいていたカナルプリュスの本気心に火をつけた形だ。

 PSG、そしてBeINはいまやフランスのサッカー界に欠かせない存在となっているから、彼らが衰退すれば、少なからずリーグにも影響は及ぶ。

 サッカー界だけではない。カタールからフランスへの投資は、年間120億ユーロにも上るといわれている。2008年に当時の大統領ニコラ・サルコジがおもに不動産投資にまつわるカタールの関税に特例措置を設けたことでカタールマネーの流入は加速し、ペニンシュラやロイヤル・モンソーといった名だたるラグジュアリーホテルの多くがカタールの手に渡った。

●カタールW杯への影響は?

 そういえばPSGのアル・ケライフィ会長と最初にインタビューを行ったときに指定された場所がシャンゼリゼからそう遠くない瀟洒なエリアにあるロイヤル・モンソーホテルだった。

 中東諸国の名産物であるオイル漬けのオリープやでっかいナッツなどを会長の側近たちがボリボリ頬張っていたのを見たときに、パリではなく、彼らのテリトリーにいるような錯覚を感じたのを覚えている。(ちなみにこの税金優遇措置は「この先も続くことは考え難い」と、マクロン大統領のもと新司法大臣に任命されたフランソワ・バイルー氏が国交断絶の発表後間もなくコメントしている)。

 そしてもうひとつの懸念事項である2022年のカタールでのワールドカップ開催についてだが、世界各国での憶測を鎮めるかのようにFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長が6月11日、スイスの日曜紙(『Le Matin Dimanche』紙と『Sonntagszeitung』紙)に、会長自身は今から5年半先の大会時には外交事情も平常化しているだろうと期待しており、FIFAとしては「カタールでの開催が暗礁に乗り上げるのでは?」といった憶測に同調する気は一切ないこと、そしてFIFAはあくまでも「フットボールを通じて世界と交流を図る機関であり、地政学にまつわる問題に関与することはない」とコメントした。

 たしかに5年半後のことはどうなっているかわからない。今のように、毎朝のようにニュースを開けばどこかの街でテロ事件が起きている、というようなことも、5年半前にはなかったことなのだから。

 インファンティーノ会長が言うように、フットボールは外交や政治問題とは関係のない場所にあるべきものだが、マネーの動きや治安問題なども含めて、いまやまったく影響がないとはいえない世の中になってきている。

(取材・文:小川由紀子【フランス】)

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