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無名の大学生からアジア屈指の強豪クラブへ。UAE移籍、塩谷司のサクセスストーリー

6/16(金) 11:46配信

フットボールチャンネル

 昨夏のリオデジャネイロ五輪にオーバーエイジ枠で出場した、サンフレッチェ広島のDF塩谷司がUAE(アラブ首長国連邦)の強豪アル・アインへ完全移籍することが決まった。J2の水戸ホーリーホックからはいあがるサクセスストーリーを描いてきた苦労人は、日本人には馴染みの薄い中東の地でプレーする「海外組」として心技体でさらなる成長を果たし、29歳で迎える来年のワールドカップ・ロシア大会の舞台に立つ夢をかなえる。(取材・文:藤江直人)

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●サッカー人生で最大の決断。アジア屈指の強豪クラブへ

 ヨーロッパだけが、いわゆる海外組の対象ではない。日本代表復帰へ。まだ見ぬワールドカップの舞台に立つ夢をかなえるために。DF塩谷司(サンフレッチェ広島)が、サッカー人生で最大の決断を下した。

 15日に発表されたUAE(アラブ首長国連邦)の強豪、アル・アインへの完全移籍。サンフレッチェの公式ホームページ上で、塩谷は愛着深いチームを去るに至った偽らざる心境を綴っている。

「チームが苦しい状況のなか、移籍についてはたくさん迷いました。ただし、一人のサッカー選手として後悔しないように、成長できるようにと考え、決断しました」

 UAEでプレーする日本人選手は、塩谷で3人目になる。まずはFW森本貴幸(現川崎フロンターレ)が、2013年1月にアル・ナスルへ移籍。UAEを含めた中東全体でも、初めての日本人選手となった。

 このときは、当時所属していたセリエA・カターニアからの期限付き移籍だった。ジェフユナイテッド千葉へ完全移籍するまでの約半年間で、かつてカターニアを率いたワルテル・ゼンガ監督のもと、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)を含めた公式戦で10ゴールをあげた。

 そして、今年1月には鹿島アントラーズやモンテディオ山形、大宮アルディージャでプレーしたMF増田誓志が韓国Kリーグ・蔚山現代からアル・シャールジャへ完全移籍。終わったばかりの2016‐17シーズンで11試合に出場して、1ゴールをあげている。

 塩谷が7月から加入するアル・アインは、1973年に創設されたアラビアン・ガルフ・リーグで最多となる12回の優勝を誇る屈指の強豪。ワールドカップ・アジア最終予選を通じて日本でもお馴染みとなった、司令塔オマル・アブドゥルラフマンがキャプテンを務める。

 フォワード陣には2015シーズンに21ゴールをあげたサンフレッチェの元チームメイト、ドウグラスが所属。2014シーズンのJリーグベストヤングプレーヤー賞を受賞し、一時は日本国籍取得も検討していたカイオ(鹿島アントラーズ)も昨年7月からプレーしている。

●チーム再建に向け、塩谷が必要とされた理由

 2016‐17シーズンのアル・アインは4位に甘んじた。12月にUAEで開催されるFIFAクラブワールドカップ2017の開催国枠を優勝したアル・ジャジーラに奪われたばかりか、2018シーズンのACL出場権をも逃す非常事態に、クラブ側は危機感を募らせていたのだろう。

 2位のアル・ワスルとの勝ち点差は2、3位のアル・アハリとのそれはわずか1しかなかった。26試合で喫した37失点は、アル・ジャジーラの15失点と比べればいかに多いかがわかる。ちなみにアル・ワスルは26失点、アル・アハリも18失点とアル・アインより少ない。

 チームの再建を目指すうえで、最終ラインを含めた守備陣の強化は必要不可欠。昨夏のリオデジャネイロ五輪にオーバーエイジ枠で出場し、ハビエル・アギーレ前監督時代には日本代表として2つのキャップも獲得している塩谷にかけられる期待は大きい。

 J2の水戸ホーリーホックから、2012年8月にサンフレッチェ広島へ完全移籍。そのシーズンを含めて3度のJ1制覇を達成した強豪で、3バックで組む最終ラインの右における存在感を不動のものとしながら、塩谷は日本代表への憧憬の念を膨らませていった。

 徳島商業高校、国士舘大学を通じて、塩谷は年代別の日本代表と無縁だった。リオデジャネイロ五輪の代表に選出された昨年6月。五輪開催中も中断されないJ1戦線を留守にする心残りを、日の丸を背負って初めて臨む国際大会への熱い思いが上回った末の決断だったと明かしている。

「僕はアジアカップに行っても試合に出られなかった。五輪へオーバーエイジで行くということは、中心としてやらなきゃいけないということ。経験したくてできることではないし、出たくても出られる場所でもない。五輪に対する思いというのは非常に強い」

●「A代表でもレギュラーを張れる選手だと思っている」(森保一)

 アギーレ前監督のもと、準々決勝でUAE代表に苦杯をなめたアジアカップ2015では、ともにワールドカップ・ブラジル大会にも出場している吉田麻也(サウサンプトン)、森重真人(FC東京)が築くセンターバックの壁を越えられなかった。

 直後のアギーレ前監督の解任を受けて、急きょ発足したヴァイッド・ハリルホジッチ体制では、国際Aマッチ出場どころか日本代表へ招集すらされなくなった。塩谷のオーバーエイジ枠での招集を喜びながらも、サンフレッチェの森保一監督はこんな言葉をつけ加えることも忘れなかった。

「日本代表になる選手という期待とともに、水戸の監督だった柱谷哲二さんから塩谷を託されました。A代表でもレギュラーを張れる選手だと僕自身も思っているし、そこは目を向けてほしいところですよね。メディアの皆さんにも、そういう発信をしていただければ」

 森保監督がちょっぴり皮肉っぽく指摘したのは、海外組という肩書が偏重されるハリルホジッチ監督の代表選考に他ならない。ワールドカップ・アジア最終予選が大詰めを迎えたいま現在も変わらないなかで、塩谷が海外組の仲間入りを果たすことが決まった。

 おりしもハリルジャパンのセンターバック陣は、再編の時期を迎えている。6月シリーズでは常連だった森重が選外となり、それまで獲得キャップ数がわずか「2」だった24歳の昌子源(鹿島アントラーズ)が吉田とコンビを組んだ。

 リザーブに名前を連ねていたのは、左サイドバックでの招集が多かった槙野智章(浦和レッズ)と、代表初招集でリオデジャネイロ世代でもある22歳の三浦弦太(ガンバ大阪)。捲土重来を期す森重を含めて、新たな選手が割り込む余地は決して小さくはない。

 しかも塩谷には、ハリルホジッチ監督を振り向かすことのできる舞台が残されている。決勝トーナメント1回戦を終えた今シーズンのACLで、アル・アインはベスト8へ進出。8月21日にはアル・ヒラル(サウジアラビア)との準々決勝ファーストレグに臨む。

●29歳で迎えるロシアW杯へ。明確な青写真

 アル・アインは2003シーズンのACLを制し、全北現代(韓国)に敗れたものの、昨シーズンも決勝戦に進出している。日本勢で勝ち残っている、浦和レッズもしくは川崎フロンターレと決勝で対戦することになれば否が応でも注目されるだろう。

 そしてACLで2度目の優勝を果たせば、アジアサッカー連盟(AFC)代表としてFIFAクラブワールドカップ2017に出場できる。加えて、最新のAFCにおけるランキングで、アラビアン・ガルフ・リーグはトップに選出されている。

 アジアでも屈指のレベルを誇るリーグでプレーし、心技体でさらなる成長を果たし、29歳で迎えるワールドカップ・ロシア大会の舞台に立つ。明確な青写真を描くことができたからこそ、今シーズンから新たに5年契約を結んだサンフレッチェから旅立つ決意を固めた。

 開幕から苦戦を強いられてきたサンフレッチェは、いまもJ2降格圏の16位にあえいでいる。ここまで全14試合に先発してきた塩谷は、150万ドル(約1億6500万円)とされる違約金を置き土産にしながら、愛するサンフレッチェの浮上にエールを送っている。

「サンフレッチェ広島での5年間は僕の宝物であり、誇りであり、最高の思い出です。チームは今の状況から抜け出せると信じていますし、これから先、サンフレッチェ広島はもっともっと強くなるチームだと思っています」

 2010年のワールドカップ南アフリカ大会を、プロになる夢すら描けなかった塩谷は「サポーターのような感覚で応援していた」と苦笑しながら振り返る。実はその直前に、母校・国士舘大学のコーチを務めていた元日本代表DFの柱谷氏に、センターバックとしての潜在能力を見込まれボランチから転向していた。

 翌2011シーズンからホーリーホック監督に就任した柱谷氏に誘われ、現役時代は「闘将」と呼ばれた男の薫陶を受けながら幕を開けたサクセスストーリー。日本サッカー界にボランチという呼称を広めた森保監督のもとで飛躍を遂げた塩谷の挑戦は、日本人には馴染みの薄い中東の地で新たな章へと突入する。

(取材・文:藤江直人)

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