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「難民収容枠」への東欧3カ国の抵抗 --- 長谷川 良

6/16(金) 16:37配信

アゴラ

独週刊誌シュピーゲル(電子版)が13日報じたところによると、欧州連合(EU)の政策執行機関、欧州委員会のディミトリス・アプラモプロス移民・内務・市民権担当委員はハンガリー、ポーランド、チェコの東欧3カ国の加盟国に対し、「EUの条約義務不履行を調査し、状況次第では制裁など提訴手続きに入る」と表明した。具体的には、2015年秋、北アフリカ・中東からの難民約16万人の収容分担枠に対し、同3カ国はEU加盟国としての義務を果たさなかったというのだ。例えば、チェコは2691人の分担枠だが、これまで12人しか受け入れていない。

東欧3カ国がブリュッセルの難民収容分担枠に強く反発してきたことは周知のことだ。ハンガリーに割り当てられた難民数は1292人だが、収容した難民はこれまで皆無だ。

例えば、ハンガリーはなぜ難民受け入れを拒むのか。考えられる理由としては、

(1)共産政権時代、旧東欧諸国は外国人といわれる存在は皆無だった。東欧諸国の国民には異民族と共存した経験がほとんどない。だから、民族、宗教、文化が全く異なる中東・北アフリカの難民・移民の受け入れに対し極端に不安を覚えること。

(2)歴史的な理由。難民・移民のほとんどがイスラム教徒だ。ハンガリーは約150年間(1541~1699年)、オスマン帝国の支配下にあった。イスラム教徒への潜在的恐れがある。そのイスラム教徒が自国の国境線に迫ってきたのだ。オルバン政権は一種のパニック状況に陥り、有刺鉄線と高さ4mのフェンスを設置していった。同国の大多数の国民は政府の対応を支持している。

スロバキアのフィツォ首相も、「わが国はキリスト信者の難民だけを受け入れる」と言明しているほどだ。カトリック国ポーランドの立場もオルバン首相の主張に近いだろう(「なぜハンガリーは難民を拒むか」(http://agora-web.jp/archives/1655451.html)2015年9月20日参考)。

2015年の難民殺到について、オルバン首相は「難民問題はドイツ問題だ」とはっきりと言い切った。なぜならば、北アフリア・中東からの難民殺到の背後には、ドイツのメルケル首相の難民ウエルカム政策の影響があることは間違いないからだ。

それに対し、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員長は、「加盟国は決定事項に対し、履行の義務を課せられている。加盟国は結束し、連帯感を示すべきだ」と主張してきた。

ところで、欧州に殺到した難民・移民の中にイスラム過激派テログループのメンバーが潜入していたことが明らかになり、難民歓迎政策を標榜してきたドイツのメルケル首相は難民政策を修正せざるを得なくなった。ハンガリーら東欧加盟国の主張はもはや“異端児の声”ではなく、「正論だった」と受け取られだしている。

実際、オーストリアのクルツ外相は、「北アフリカから殺到する難民はアフリカ国内で難民審査を実施し、中東からの難民はEU域内入国前に審査すべきだ」と強調し、国境警備の強化を訴え、加盟国の支持を得ているぐらいだ。

看過できない点は難民の権利だ。ジュネーブ難民条項に合致する難民(人種、宗教、国籍 もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受ける おそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する)は収容され、保護を受ける権利がある。同時に、難民にも希望があるだろう。彼らの多くは旧東欧諸国ではなく、経済大国のドイツに住むことを希望しているという事実だ。だから、ブリュッセルが一方的に、「君はドイツに、あなたはブルガリアに」といって収容先を決定する権利はない。収容される国の経済力、言語問題もある。難民にも定着する国を選択する権利があるという考えだ(経済難民はここでは言及しない)。

なお、ハンガリーなど東欧加盟国はルクセンブルクの欧州司法裁判所に難民収容分担枠の強制義務化を不法として訴えている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』(http://blog.livedoor.jp/wien2006/)をご覧ください。

長谷川 良

最終更新:6/16(金) 16:37
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