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創造という秘密の行為[田坂広志の深き思索、静かな気づき]

6/16(金) 17:00配信

Forbes JAPAN

若き日に、ビジネスパーソンとして仕事をしていた時代、上司から注意を受けた。

「競合企業もいる会議の場では、大切なアイデアを話すな。アイデアを盗まれるぞ……」



この上司の忠告は、ビジネスや人生における処世の知恵としては、正しいアドバイスであり、自分のことを思って言ってくれた上司には感謝している。

しかし、一方で、内心、この「盗まれるぞ……」という言葉には抵抗を感じていた。

なぜなら、この言葉と発想には、一つの落とし穴があると思っていたからである。

すなわち、我々が「アイデアを盗まれる」という感覚を持つとき、その心のすぐ奥に、「自分が思いつくアイデアの数には、限りがある。だから、盗まれないようにしなければ」という無意識の自己限定が生じているからだ。そして、我々の潜在意識が、こうした自己限定を抱くとき、恐ろしいほどに、アイデアが出なくなってしまうからだ。

永年、シンクタンクの道を歩み、企画プロフェッショナルの世界を歩んできた一人の人間として、自身の経験に即して言えば、アイデアとは、むしろオープンに語れば語るほど、心の奥深くから湧き上がってくるものである。逆に、「アイデアを盗まれる」という強迫観念を持つと、生まれてくるアイデアにも限界があり、新たなアイデアが次々と湧き上がってくるという状況にはならない。

もし、世の中に「創造性のマネジメント」というものがあるならば、その要諦は、ブレーン・ストーミングやアイデア・フラッシュのやり方といった表層的な技法ではなく、自身の中にある「無意識の自己限定」を、いかに取り払うかという「潜在意識のマネジメント」なのであろう。しかし、残念ながら、世の中で、そのことを深く論じている著書には、あまりお目にかからない。

アイデアがどこかから降りてくる

では、「自分の考えつくアイデアの数には限りがある」「アイデアが枯渇してしまう」といった無意識の自己限定を外し、「自分の中から、アイデアは、泉のように湧き上がってくる」という感覚で潜在意識を満たすには、どうすれば良いのか。

誤解を恐れずに言えば、そのためには、一つの信念を心に抱くことであろう。

「アイデアとは、自分という小さな存在が生み出すものではなく、大いなる何かから降りてくるものである」

もし、我々が、そうした感覚を心の奥深くに信念として抱くことができたならば、アイデアは、不思議なほど、降りてくる。

これは、決して、何か神秘主義的なことを述べているのではない。実際に、そうした「大いなる何か」が存在するか否かは、誰も証明できない。

しかし、古今東西の才能に溢れ、創造性に溢れた思想家、学者、芸術家、発明家、実業家などの発想法を調べてみると、その多くが、「アイデアが、どこかから降りてくる」という感覚を持っていたことは、密やかな事実である。

筆者は、それほどの才能に恵まれた者ではないが、ささやかながら、20年間に80冊余りの著書を上梓し、テーマも、未来予測と社会動向、資本主義と経営戦略、情報革命と知識社会、働き方と生き方など、多岐にわたって様々なメッセージを語ってきた。しかし、いま、これらの著書を手に取って見るとき、「これは、自分が書いた本なのだろうか」という不思議な感覚に包まれる。

それらの著書は、いずれも、核となるアイデアが降りてきた瞬間に、必要な情報が自然に集まり、編集者との対話が深まり、そこに書物としての構成が創発的に生まれてきたものである。

では、創造性のマネジメントにおいて、「アイデアが、大いなる何かから降りてくる」という感覚が大切であるとするならば、我々は、どのようにして、そうした感覚を研ぎ澄ましていくことができるのか。

その答えを示唆する一つの言葉が、かつて、板画家、棟方志功が語った言葉であろう。

「我が業は、我が為すにあらず」

しかり。いま自分が成し遂げようとしている仕事は、実は、自分が成し遂げようとしている仕事ではない。大いなる何かが、自分という存在を通じて、世の中のために、成し遂げようとしている。

その感覚を心に抱くとき、不思議なほど、様々なアイデアや発想が、心に浮かんでくる。

そして、その小さな個を超えた感覚こそが、古くから、「使命感」と呼ばれてきたものであろう。

田坂広志の連載「深き思索、静かな気づき」
過去記事はこちら>>

田坂 広志

最終更新:6/16(金) 17:00
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