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痴漢冤罪に巻き込まれたらどうなる――シャバに戻れたからといって事件が終わったわけではない!

6/16(金) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 今年に入って首都圏では痴漢の疑いを掛けられて逃亡を図り、ホームから線路に飛び降りる暴挙に出るケースが続出している。被害者に手首を掴まれた後、具体的にどんな手順で刑事手続きが進むのか。筆者は痴漢の疑いを掛けられ、写真撮影や指紋採取までされたことがある。

 これまで第1回は駅員室から警察の取調室に連れて行かれるまで、第2回は指紋採取や留置所内での出来事、第3回目は勾留中から起訴・不起訴処分が下るまでを記した。

 今回はそれ以降の展開について説明したい。これは筆者の体験や取材に基づく事実である。本稿では、ただ事実を淡々と説明するにとどまる。法的なアドバイスについては専門家の意見を参考にしていただきたい。

◆「身柄事件」と「在宅事件」

 近年、首都圏で発生する痴漢事件は、仮に被疑者が容疑を否認していても身柄を拘束される時間は最長72時間で、それ以上の身柄拘束を強いられる「勾留」は裁判所によって却下される。

 とはいえ、これはいわゆる身柄を拘束されて刑事手続きが進む「身柄事件」から、被疑者がシャバにいながら事件捜査の進む「在宅事件」になっただけの話である。在宅事件の場合、被疑者の身柄が拘束されているわけではないので事実上、タイムリミットが存在しない。

 検察の検事が被疑者を起訴するか、不起訴にするかという判断は「身柄事件」だと勾留満期までに決定しなければならないのに対して、「在宅事件」はルール上は「公訴時効」になる前に決定すればよいことになっている。

 一般に公訴時効というのは痴漢の場合、強制わいせつ罪だと7年間、迷惑防止条例違反だと3年間だ。

 「在宅事件」は「身柄事件」に比べて、捜査期間が長くなるため、数週間から1~2か月間隔で警察や検察から連絡があり、指定された時間と場所に出頭して取調べを受ける。

◆取調べの日時はほぼ100%平日昼間

 取調べに指定される日時はほぼ100%平日昼間になる。ごくまれに夜の時間帯が指定されることもあるらしいが、検察への出頭はまず間違いなく平日昼間オンリーで、仕事を途中で抜けるか会社を休む必要が出てくる。そして、不起訴で済めば事件はそれで終わりだが、起訴されてしまえば、今度は裁判のためやはり平日昼間、裁判所へ行くのだ。

 とはいえ、身柄事件として留置場や拘置所にブチ込まれ、外部との連絡もとれないまま刑事手続きが進むことを考えれば、在宅捜査による刑事手続きは天国のようである。警察や検察、および裁判所に指定された出頭要請を守れば、今までと変わらない生活が送れるし、身柄事件にくらべて捜査のテンポが遅い分、弁護士と対応策を練ることもできる。

◆有罪判決を食らった場合は最悪、刑務所行き!?

 不幸にも起訴され、さらに有罪判決をくらった場合、初犯であれば下される判決は人生を終わらせるほど重いものではない。痴漢といわれる犯罪には強制わいせつ罪と迷惑防止条例だが、初犯で否認事件だと下される判決の量刑は、

強制わいせつ:懲役6か月~2年 執行猶予(4年)

迷惑防止条例:罰金30万~50万円

 といったところである。

 強制わいせつ罪で訴えられる痴漢事件などというのは相当悪質なケースだ。そのうえ、無実を争って、起訴容疑を否認しているわけなので、有罪認定されると「被告人は反省していない」と、裁判官に言われてしまうのである。そうなるといくら初犯であっても、いきなり実刑という最悪の事態もあり得る。

 とはいえ、大部分の痴漢事件は迷惑防止条例違反だ。こちらも一応、懲役刑が設定されているが、初犯でいきなり懲役刑が科せられるケースはまずない。迷惑防止条例違反の初犯は罰金30万円くらいが相場だが、容疑を否認した状態だと、やっぱり迷惑防止条例違反の初犯の罰金最高額である50万円の支払いを命令されることもある。

◆覚えておきたい「当番弁護士」という制度

 さて、ここまで痴漢冤罪に巻き込まれた場合に想定される事態について述べてきた。痴漢に間違われてしまって、ヘタに逃亡してホームから線路に飛び込んだりするなどしない限り、これ以上の処分や刑罰を警察や検察、あるいは裁判所から受けることはないだろう。

 また、日本の刑事事件には「当番弁護士」という制度がある。これは刑訴法に関して知識のない一般人が、初期段階で警察に変な言質をとられて、不利な立場に陥ってしまうのを防ぐため、全国の弁護士会が身柄拘束をされてしまった被疑者を対象に1回だけ無料で接見(面会)に来て相談に乗ってくれる制度だ。

 逮捕・勾留というのは身柄の自由を奪われるだけでなく、外部と連絡をとることにも大きな制限を受ける。本来、こうした身柄の拘束は住所不定の被疑者が逃亡を図ったり、用意周到な知能犯が証拠隠滅をしないようにする措置である。

 とはいえ、身元もしっかりしているサラリーマンが逃亡するなんてことはまずありえないし、衝動的な犯罪である痴漢事件で隠滅するべき証拠などない。近年はその点を理解して勾留を却下する裁判所も増えてたが、それでも100%ないとはいえない。ただ、そんな身柄拘束に抗議して、身柄の解放を要求する法的手続きも実在するので、頭に入れておきたい。

 痴漢冤罪は都市部で通勤通学をする人にとっては、常にその身に降りかかる怖れのあるものである。冤罪ならば当然初犯扱いになるわけで、であれば、予想される刑罰は数十万円の罰金である。痴漢の疑いを掛けられただけで、本当に人生が終わってしまうようなことはない。くれぐれを冷静さを失わず、慎重に対応しよう。

<文/ごとうさとき>

【ごとうさとき】

フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『逮捕されたらこうなります!』、『痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中

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