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“風刺”イタリア寓話小説 『まっぷたつの子爵』ほか

6/17(土) 11:30配信

Book Bang

 二〇世紀のイタリアを代表する作家の一人、カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』(河島英昭訳)が文庫化された。子どもでも楽しめる寓話的小説だが、社会や人間への深い風刺が込められた一作だ。

 戦争で敵軍の大砲を受けてまっぷたつに吹っ飛ばされたメダルド子爵。半身になっても生き残った彼は故郷に戻り、人が変わったように悪業を繰り返して人々を苦しめる。その後、子爵のもう片方の半身も戻り、友好的な態度を見せる。彼の体は〈善〉と〈悪〉に引き裂かれていたのだった。

 最初は歓迎された善き半身も、独善的な理想論を主張して煙たがられるようになる。そんな折、善き半身との縁談を持ちかけられた娘が一計を案じる。

 本作が発表されたのは一九五二年。善悪だけでなく、極論に二分化した争いの絶えないこの世界への批判も感じられる中篇だ。

 風刺の効いた作風のイタリア人作家といえばブッツァーティもいる。短篇集『神を見た犬』(関口英子訳、光文社古典新訳文庫)の表題作は小さな村が舞台。信仰心を忘れた人々に相手にされずにいた隠修士が亡くなった後、彼が飼っていたとおぼしき犬が村をうろつくようになる。村人たちの間には次第に、その“神を見た犬”に自分たちが見られている、という意識が生まれていく。信心を捨てたはずなのに何か怖い、怖いけれど信じたくない、といった幾層にも織りなす心理を描き出して見事。そして最後に人々が見るのは、なんとも皮肉な光景である。

 一九三四年にノーベル文学賞を受賞したシチリア出身のピランデッロも、笑いと苦みのある作品を書く。短篇集『月を見つけたチャウラ』(関口英子訳、光文社古典新訳文庫)には自分が息を吹きかけると人が死ぬと気づいた青年の狼狽を描く「ひと吹き」のような幻想譚もあれば、オリーブオイル保管用の大きな甕の内側に入って修理していたところ外に出られなくなった親方と、横暴な甕の持ち主との駆け引きが二転三転する「甕」といった滑稽譚も。人間と人生への深い洞察に唸る、粒ぞろいの作品集だ。

[レビュアー]瀧井朝世(ライター)
たきい・あさよ

新潮社 週刊新潮 2017年6月15日号 掲載

新潮社

最終更新:6/17(土) 11:30
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