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決定力不足は脳内で起きている「脳の中で成功イメージを作り出せれば、現実は後からついてくる」

6/19(月) 19:31配信

footballista

イタリアナンバー1メンタルコーチが明かす「メンタル改革」の成功例

2部や3部リーグでくすぶっていた選手が、わずか数年後にセリエAでブレイクを果たす――レスター奇跡の優勝の立役者、ジェイミー・バーディーを思い出させるそんなシンデレラストーリーをいくつも実現させ、イタリアナンバー1 のメンタルコーチと呼ばれるのがロベルト・チビタレーゼだ。「サッカーの世界では今までなかった仕事なので、保守的な人々は受け入れたがらない」という、謎に包まれた専門領域の中身を語ってもらった。



インタビュー・文 片野道郎


ポジティブなイメージを作る
脳の中では、視覚映像と想像で作り出した映像の区別はない



──まず、メンタルコーチという仕事の概要から聞かせてください。

「一つ明確にしておく必要があるのは、心理学とコーチングは異なるということです。心理学は1つの学問として法的に認定され定義され、組織されている領域です。心理学者はカウンセリングという治療行為を行うことができますが、それには資格が必要です。それに対してコーチングは、ライフ、ビジネス、スポーツなど様々な分野をカバーしていますが、そのどれも制度化されていないし明確な領域として確立されているわけでもない。誰でも自由にコーチを名乗り、コーチングを行うことができます。

 最も大きな違いを挙げるならば、心理学者は現在の状況からスタートして過去にさかのぼり、何がそれをもたらしたのかという原因とメカニズムを明らかにすることによって、問題を解決しようというアプローチを取ります。しかしメンタルコーチは、同じように現在からスタートしますが、まず未来に達成すべき目標を明確に設定し、プレーヤーがそこに達成するための戦略とメソッドを立案し伝授します。私はそのために独自のプロトコル、すなわち規格化されたコーチングの体系を確立しました。ベースになっているのはNLP(神経言語プログラミング)というメソッドです」


──それがプロトコルのベースになっているわけですね。

「その通りです。具体的にどういうことか説明しましょう。我われの脳は3つの機能を果たしています。まず『受容』。今あなたは、私が発する言葉を耳から聞いて脳の中に受容していますよね。次の機能は『解釈』。受容した情報を識別し意味づけするプロセスです。最後の機能は『反応』。処理した内容に応じて何らかの反応をアウトプットする。第1のプロセスである受容について、我われにできることはありません。私が発する言葉をあなたが変えることはできない。そして第3のプロセスである反応も、あくまで第2のプロセスである解釈の結果としてのアウトプットです。となれば、何らかの形で介入できるプロセスは解釈、すなわち受容した情報をどのように識別し意味づけするかという部分だけです。この3つのプロセス全体を、私は心的構造(メンタル・ストラクチャー)と呼んでいます。メンタルコーチとしての私の仕事は、目標達成に向かわせる心的構造を確立するためのメソッドを提供することです」


──サッカー選手が直面する典型的な困難は何でしょう?

「1つは、ゴールを決められないストライカー、もう1つはレギュラー落ちしてしまった選手でしょうね。この2つは非常によくある典型的なケースです。最初のケースからいきましょうか。試合には出ているけれど、ゴールを決められない。そういう状況にあるストライカーに対して私はどんなアプローチを取るか。スタートは常に目標の設定です。ストライカーが私に『ゴールが決められないんです』と言ったら、私はまず『今シーズンは何ゴール決めるんだい』と訊ねます。そこがスタートです。目標は常に計測可能で刺激的でポジティブな言葉を使ったものでなければならない。2つ目は、なぜそれだけゴールを決めたいのか、という問いです。そこには強い理由、モチベーションがなければならない。そして3つ目は、その目標に到達するために自らを捧げる覚悟を持たなければならない。私が彼にゴールを決めさせるわけではありません。主体は常に自分自身だということを理解しなければならない。これがスタートとなる3つの要素です。それをベースにして、彼が今置かれている状況について質問し対話する中で、私は彼が今持っている心的構造はどのようなものかを把握します」


──具体的にはどのような質問をするのでしょう?

「ゴール前でボールがやって来た時に、自分の中ではどんなことを考えているのか、どんなことを自問自答しているのかということですね。するとかなりの確率でこんな答えが返ってきます。『バーの上に蹴っちゃいけない』『ミスをしちゃいけない』。そこで使われている言葉は常にネガティブなニュアンスを持っています。ゴールを決めるイメージを自分の中に作り出さない。むしろ外すイメージを積極的に作り出す。ここまでずっとゴールを決めていないだけに、決まらないことの方にむしろ説得力を感じてしまうのです。

 本当にごく最近、あるストライカーが私に語ってくれたのは『俺はこのボールをトラップし損なうだろう』という言葉でした。実際その選手は見事にトラップをミスしてシュートできなかった。また最近、別のストライカーはこんなことを言っていました。『俺は途中交代で入るとゴールを決められない。スタメンじゃないと得点できないんだ』。シュートチャンスがやって来た時、スタメンで出ていたか途中から入ったかで技術的にやるべきことが変わるわけではありませんよね。当たり前のことです。つまりすべてはメンタルなレベルに規定されている。私がその選手に、途中出場でピッチに入る時に何を考えていた、と聞くと、『チームが勝っていて残り10分だから守らなければならない、間違いなくシュートチャンスはやって来ないだろうと考えていた』と言うのです。もしそう考えていたならば、たとえ彼にシュートチャンスがやって来たとしても、ゴールを決めることはできません。それを想定してすらいないからです」


──そういうメンタル的な状況を解決してゴールという目標を実現させるために、メンタルコーチは何をするのでしょう?

「最初のポイントは言葉です。ボールがやって来た時、シュートをふかさないようにとかトラップをミスしないようにとか、そういうネガティブな言葉ではなく、よし、これでゴールが決められる、というポジティブな言葉を自分に語りかけることが必要なのです。次のポイントは、イメージを頭の中に作り出す技術です。ストライカーはシュートをふかしたりトラップをミスしたりする映像ではなく、ゴールを決める映像を頭の中に描かなければならない。ボールが来ることはゴールを決めることだというイメージの連関を作るのです。脳の中では、視覚から入ってきた映像と自分が想像で作り出した映像の区別はありません。イメージはイメージでしかないのです。ですから、ボールが来た時頭の中にシュートを決めるイメージを作り出すことができれば、現実はそれに従って後からついてきます。それを事実として実感できるエクササイズもあります。前回ボールが来た時にはトラップをミスしてしまった。しかし次にボールが来た時にはその記憶を思い出すのではなく、うまくトラップしてゴールを決めるというイメージを上書きする必要があります。私はその手法を選手に伝授します。それを繰り返して、ゴールを決めるというイメージを常に頭の中に描けるようになれば、ゴールが決められるようになるのです」


──かつてフィリッポ・インザーギと何度か話をしたことがあるのですが、自分がゴールを決めるんだ、ゴールを決めたいんだという欲望と執念は特別なものがありました。彼はテクニックがあるわけじゃないしフィジカル能力に優れているわけでもない。でもゴールを決める。シュートをミスしてもそれがゴールネットを揺らしてしまう選手でした。

「私はこの1月にジェノアからナポリ移籍したパボレッティと仕事をしていました。当時彼はレガ・プロ(3部)でも試合に出られずにいた。『ミステル(監督)が信頼してくれない、5分間しかチャンスをくれない』と嘆いてばかりいた。私は彼にこう言いました。『自分に集中して、ボールが来たらゴールを決める、それだけを考えろ。そういうプレーヤーとして自分をプログラムしなければならない、そのやり方は私が教えてあげるから』。彼はそのプログラミングに成功してから、見違えるほどゴールを決めるようになりました」


──今季アタランタでブレイクして代表に呼ばれたペターニャもあなたの顧客ですよね。

「私が彼と知り合ったのは2年前の1月にセリエBのビチェンツァに移籍した時です。ミランからレンタルでセリエBのラティーナに行ったけれどいい結果が出せず、冬のメルカートでチームを移った。しかしそのビチェンツァでも結果が出せず、夏には大きな壁にぶつかった。セリエBはもちろんレガ・プロですら、彼を欲しいというチームが現れなかったのです。そこで私は言いました。『今どこに行くかは大きな問題ではない。3年後にどこに行きたいか、どこでプレーしたいか。それをはっきりさせて、そこに向かって動き始めるんだ』とね。アスコリへのレンタル移籍が決まったのはメルカートが閉まる直前でした。しかしその半年後には、彼のプレーを見たアタランタがミランから保有権を買い取っていた。ほんの半年間で人生ががらっと変わったんです」


──ペターニャの場合も目標はゴール数でしたか?

「彼の場合は違いました。彼はゴールを決めるためだけにプレーするFWではありません。ポストプレーやプレッシングを通してチームに貢献することも彼の大きな仕事です。ペターニャは、トップレベルのチームでプレーしたい、ビッグクラブの一員として戦いたいという強い気持ちを持っている。私たちが設定した目標はそれでした。しかしもちろん、ゴールを決めることもそこに近づく一歩です。昨年秋のナポリ戦の前、彼と話していたら、『ゴールを決める予感がする』と言うのです。『絶対に決められる、間違いない』と私は言いました。実際彼はその試合で開始から10分もしないうちに、2度目か3度目に触ったボールをゴールにねじ込んで、アタランタは1-0でナポリに勝ちました。自分の中にそういうメカニズムをプログラムできるようになったのです」


──彼のように、キャリア上の到達点を目標に設定する選手も多そうですね。

「そうですね。その場合重要なのはなぜそれを望むのかという理由、モチベーションです。そのモチベーションは本人の価値観とリンクしている必要がある。なぜゴールを決めたいのか、なぜビッグクラブでプレーしたいのか。それは綺麗な女性に囲まれたいから、フェラーリを買いたいから、と言う選手もいる。しかし私が本当にそれが目的なのか、もし宝くじが当たってフェラーリを買い、女性が寄ってきたら、もう次の日からサッカーはしなくていいのか、と訊くと、必ずいやそんなことはない、という返事が返ってきます。じゃあ本当はどうしてなのか、と掘り下げていく対話を通して、彼自身も自分の本当の目標、本当のモチベーションを見出すのです」


──具体的には?

「今シーズンで契約が切れるけれど契約を延長してここに残りたい、と答えた選手もいれば、セリエBからセリエAにステップアップしたい、と答えた選手もいます。今まで一度も2ケタゴールを決めたことがないので一度実現したい、という選手もいました。家族が自分のために大きな犠牲を払ってきたので、それに報いたい、家を買って楽な暮らしをさせてあげたい、という選手もいました。目標とモチベーションは個人的なものであり、私はその是非を判断する立場にはありません。重要なのは本人を突き動かす力になるかどうかということだけです。ただそれを掘り起こすために、対話の中で心の深いところまで入って行くことはあります。というよりもそうしなければならない。その過程で泣き出す選手もいます。しかしそれも自らの目標を見出し、それに向かって突き進む力を引き出すためには必要なプロセスなのです」

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最終更新:6/19(月) 19:31
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