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柴崎岳がテネリフェのヒーローになった夜。日出ずる国の司令塔が灯した希望の光

6/19(月) 12:05配信

フットボールチャンネル

 現地時間18日、スペイン2部の1部昇格プレーオフ準決勝2ndレグが行われ、テネリフェがホームにカディスを迎えた。1stレグを落としていたテネリフェは本拠地の大声援を得て奮闘。そして柴崎岳が試合を決めた。(文:舩木渉)

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●柴崎が島のヒーローになった日

 期待はずれだったはずの新戦力が一瞬にして街のヒーローになった。

 現地時間18日に行われたスペイン2部の1部昇格プレーオフ準決勝2ndレグ、本土から遠く離れたテネリフェ島が歓喜に沸いた。

 アウェイでの1stレグを0-1で落としていたテネリフェは、ホームに戻ってカディスとの大一番に臨んだ。2010年を最後に1部の舞台から遠ざかり、3部でどん底を経験。ここ3年間は2部で二桁順位に沈んでいた離島のクラブにとって、待ちに待った大チャンス。選手たちにとっても意地の見せどころだ。

 テネリフェの本拠地エスタディオ・エリオドロ・ロドリゲス・ロペスの選手・関係者用ゲートは一般道に面した場所にある。故に一般的なスタジアムに見られるようなファンと選手を遠ざけるような柵などはなく、両者は非常に近い距離でふれあうことができる。

 特に15日の試合前は、いつも以上の盛り上がりがうかがえた。大勢のファンがスタジアム入りする選手たちを花道で出迎え、肩を叩き、鼓舞する。これだけのサポートを受けた選手たちが燃えないはずはない。

 失意の1stレグからスタメンを2人変更したテネリフェは、リーガ最終節で負傷していたアンソニー・ロザーノが先発復帰。そして地元出身の主将スソ・サンタナが先発メンバーに名を連ねた。

 もちろん柴崎岳も先発出場。ボランチに始まり、インサイドハーフや2列目のサイドなど試合中にコロコロ役割が変わって持ち味を発揮できなかった1stレグとは違い、試合開始時から左サイドMFとしてプレーした。

 アウェイでの1stレグは、ホームの大声援をバックに猛烈なプレッシャーをかけてきたカディスに押され、ほとんど何もさせてもらえずに敗れたテネリフェ。その試合から中2日でメンバーを入れ替え、どのように修正してくるかにも注目が集まった。

●成功した柴崎のサイドハーフ起用。貴重な先制弾

 結果的にメンバー変更は成功。カディスが前の試合ほどの積極性を見せず、前線からのプレスも控えめだったこともあり、センターバックとボランチの4人を中心にしっかりとゲームを組み立てることができた。柴崎のサイド起用も結果につながる。

 前半34分、右サイド深くまで侵入したスソがゴール前に低くて速いパスを送ると、そのボールは逆サイドまで流れていく。そこに詰めていたのが、左サイドから走りこんでいた柴崎。完全フリーの状態で、落ち着いてシュートをゴールに蹴り込んだ。

 この1点でテネリフェは2戦合計スコアを1-1とし、プレーオフ決勝進出に望みをつなぐ。当然2万人を超える観客は歓喜に包まれた。

“Si se puede! Si se puede!”

 希望を見出したテネリフェファンたちの大合唱が始まる。意味は“Yes we can!”、つまり「俺たちならできる!」。柴崎が島のヒーローになった瞬間だった。

 日本のJ1昇格プレーオフは一発勝負で、90分間戦って引き分けの場合はレギュラーシーズンの上位チームが勝ち上がる。だが、スペインはルールが異なり、ホーム&アウェイ方式で行われる。アウェイゴールも含めて2試合合計の得失点差が同じ場合、2ndレグで15分ハーフの延長戦が行われて勝敗を決する。

 アウェイで先制を許したカディスだったが、もしアウェイゴールをひとつでも奪えば、その瞬間にテネリフェは勝利のためさらに2ゴールが必要になる状況。当然猛反撃に転じた。

 そうなるとテネリフェの守備陣が意地を見せる。今季何度も大ピンチを救ってきた守護神ダニ・エルナンデスが圧巻のスーパーセーブ連発でカディスの攻撃をシャットアウトすれば、4人のDFたちも体を張ってゴールを死守する。

 チーム全体でまずは90分間しっかり戦い抜き、2戦合計スコア1-1のまま勝敗の行方は延長戦に託された。

●全員の献身で猛攻を阻止。柴崎のゴールが決勝点に

 15分ハーフの延長戦もカディス捨て身の攻撃がテネリフェに襲いかかる。83分にサルビ・サンチェスを下げ、今季リーグ戦17得点のエースFWオルトゥーニョを投入していたカディスは、延長前半の101分に左サイドバックのブライアン・オライバンに代えてウィングのアイトール・ガルシアを送り出して攻勢を強める。

 1stレグで決勝点を挙げたアゲル・アケチェらを中心に猛烈な勢いでゴールに迫ってくるカディスを、テネリフェはチーム全員で押さえ込み、延長後半まで無失点で踏みとどまった。その結果、2戦合計スコア1-1のまま試合終了。

 PK戦はないため、レギュラーシーズンを4位で終えていたテネリフェが、同5位のカディスを抑えて昇格プレーオフ決勝へと駒を進めた。来季の運命を決める最終決戦の相手は、昨季まで1部の常連だったヘタフェ。またしても強敵が待ち受けている。

 殊勲のゴールでテネリフェを勝利に導いた柴崎は、アーロン・ニゲスが先発を外れたことでセットプレーのキッカーも担当するなど、攻撃面で随所に持ち味を発揮した。ピッチ上をさまようだけだった1stレグとは打って変わり、チャンスメイクという役割が明確になったことで輝いた印象だった。

 左サイドを起点に前線を幅広く動き回り、縦の関係でポジションを入れ替えるロザーノとアマス・ンディアイエに効果的なパスを供給するなど、ゴール以外にも120分間を通して高い能力を証明した。移籍当初は環境への順応に苦しみ、活躍までに時間を要したが、ようやく本領発揮といったところか。

●「次の試合でもゴールを決めたい」

 テネリフェの5月度月間最優秀選手を受賞した司令塔には、地元メディアも賛辞を惜しまない。『エル・ドルサル』紙は「日出ずる地(日本)からやってきて、チームが必要としていた光をもたらした。重要な日にヒーローとなり、非常に完成度の高いサッカーを生み出していた」と柴崎を大絶賛。採点でも10点満点中9点を付けた。

 ホセ・ルイス・マルティ監督も「ゴールを決めたのは彼(柴崎)だったが、努力は全員のもの」と述べつつ「素晴らしいクオリティを有している。どんな時でもナーバスになることがなく、スペースにいる選手を見つけ、落ち着いてプレーしている」と、柴崎のプレーに賛辞を送った。

 地元メディア『デポルプレス』が伝えたところによれば、柴崎本人は「すごく嬉しいですが、大事なのは次の試合に勝つこと」といたって冷静。日本で見せていた常に淡々と構えるクールな姿が戻ってきた。

「今日のようなパフォーマンスを見せられるように練習を続けていく必要があると思います。最大限の力を出し切りたい。次の試合でもゴールを決めたいです。今日はスタジアムが満員になりましたが、(決勝でも)今日のようにファンが助けてくれることを願っています」

 地元のファンにも団結を訴え、テネリフェで自身への評価を確立した柴崎。次なる相手のヘタフェは、移籍後初めてベンチ入りした試合で対戦したチームでもある。その時出番がなかった悔しさと、スペインで積み上げた自信のすべてをぶつけて1部昇格の切符を勝ち取りたいところだ。

 来季の行く末を占うヘタフェとの昇格プレーオフ決勝は、現地時間21日にテネリフェのホームで1stレグが行われ、同24日に敵地で2ndレグに挑む。今こそ持てる力のすべてを解き放ち、柴崎が真の意味で1部復帰の立役者となる時だ。

(文:舩木渉)

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