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【イップスの深層】 1日1000球の秘密特訓で、ガンちゃん奇跡の復活

6/19(月) 8:10配信

webスポルティーバ

連載第3回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち

■証言者・岩本勉(3)

 暗闇に包まれた室内練習場の片隅で、蛍光灯のスイッチを入れる。薄明かりに照らされた人工芝を踏みしめ、岩本勉は“秘密特訓”のセッティングを始めた。

■【イップスの深層】先輩の舌打ちから始まった、ガンちゃんの制御不能

 防球ネットにシューズケースをぶら下げて「的(まと)」を作り、そこから2メートル離した位置に300球ほど硬球の入ったボールケースを置く。まるで初めてボールを握った子どもが壁当てをするような距離で、岩本はシューズケースに向かってスナップスローを始めた。

 なんとなく感覚がつかめたと思えば、距離を3メートルに伸ばす。3メートルが大丈夫だと思えば4メートルへ。しかし、距離が離れていくうちに恐怖がこみ上げてきて、再び3メートルに戻す。延々、その繰り返しだった。

「ほんま、水前寺清子ですよ。これは冗談じゃなくて、1日1000球は投げていましたよ。プロ3年目にイップスになって、このままならクビになって、大阪に帰らなければいけない。そんな恥ずかしい野球人生は送りたくないと思ったんですわ。僕にも見栄があったのでね。それなら、潰れるまで投げてやろうと。潰れてもイップスではなく、『投げ過ぎ』という大義名分ができますから」

 すでにイップスであることはチーム内で周知の事実だったとはいえ、人に投げる姿を見られることに抵抗があった。だから誰もいない室内練習場で、最低限の光量しかない薄明かりの下、ひたすら投げ込みを続けたのだった。

 徐々に投げられる距離が伸びていくと、電源を入れる蛍光灯の数を増やした。その環境にも慣れると、他の選手が参加している夜間練習に顔を出し、わざと人前で練習するようになった。

 そうした段階を経て、岩本は1学年下の内野手である荒井昭吾にある依頼をする。

「俺がボールを投げるから、トスバッティングで打ってくれへんか。悪いけど、多少のボール球なら打ってもらいたいんや。俺にピッチャーらしい姿で野球をやらせてくれ」

 いくらチームメイトと言っても、プロ野球選手は個人事業主。荒井にとって岩本の練習に付き合うことは、本当は不毛なことだったのかもしれない。しかし、荒井は嫌な顔ひとつせず「エンドランの練習になりますから、こちらこそありがたいですよ」と言って付き合ってくれた。

 荒井とのトスバッティングに慣れてくると、岩本が「恐怖のL字ネット」と呼ぶ、打撃投手用のL字型ネットを置いて投球し、荒井に打ってもらうようになった。

「『カーン!』というサウンドで、ピッチャーらしさが自分に帰ってくるんです。そうやって、徐々にピッチャーの自分を取り戻していく。人の目を増やしていく。距離を伸ばしていく……。また怖くなって前に行く。今度は室内練習場の人工芝からグラウンドの土に戻ったときに、また恐怖がやってくる。また前に出る……。その繰り返しですよ」

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