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テイラー・スウィフト、Spotify配信再開の意義 ポイントは有料会員限定配信とデータ活用?

6/19(月) 13:00配信

リアルサウンド

 2014年に楽曲配信を取り下げたテイラー・スウィフトが、アルバム『1989』の販売枚数が1000万枚を突破し、“ファンへのお返し”を理由として6月8日、Spotifyへの音楽配信を再開した。テイラーはケイティ・ペリーの新作『Witness』発売に合わせたとも言われているが、昨年から配信を再開したニール・ヤングやRadioheadなど、近年大物アーティストの間でSpotifyに対する姿勢が大きく変化しているのは間違いない。その一方で、2014年にテイラーが配信取り下げしたことに肯定的な反応を示していたKing Crimsonは依然として配信をスタートしていなかったり、定額制音楽ストリーミングサービス・TIDALを主宰するジェイ・Zが配信を取りやめるなど、否定的な動きも見られる。海外の動向にも詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に話を聞いた。

「Spotifyにおける大物アーティストの配信に関しては、2015~16年に大きな動きがありました。2015年にはそれまで配信をしないという姿勢を見せていた、The Beatlesが開始。これまでもストリーミングに対しては各アーティストが様々な反応を示してきましたが、一度は配信したもののその後楽曲を取り下げるなど、Spotifyに対して否定的な姿勢だったニール・ヤング、Radioheadもいよいよ2016年に過去作品の配信をスタートしました。ニール・ヤングは『Peace Trail』、Radioheadは『A Moon Shaped Pool』の発売直前に配信開始したため、リリース戦略的な意味合いが大きいと思います。ただRadioheadの場合、トム・ヨークとしてのソロ作とAtoms For Peaceの作品、自主製作盤『King Of Limbs』はまだ配信されていません。技術的な問題で新作のリリースまでに実現に至りませんでしたが、実は配信再開前、Radioheadとマネジメント側は、有料会員のみに配信する、という方法を実装しようとSpotifyと議論を重ねていました。またニール・ヤングは音質へのこだわりを見せていましたが、AIスピーカーの登場でストリーミングサービスの音質にも変化があるかもしれません。次のiPhoneでは曲をCDと同等の音質で聴けるようになるという話も出ているようなので、音質面でも大きく動きを見せるかもしれません」

 Radioheadが有料会員のみへの配信を検討していたように、4月に配信を取り下げたジェイ・Zを始め、フリーミアムというSpotifyのビジネスモデルに抵抗を持つアーティストも多い。これを踏まえ、コウガミ氏はテイラーの配信再開の理由をこう考察した。

「テイラーの配信再開の理由の1つとして考えられるのは、Spotifyとユニバーサルミュージックがライセンス契約を更新したこと。今回の更新では、ユニバーサルへの利益の分配率を下げる代わりに、将来的にユニバーサルのコンテンツをSpotifyの有料会員限定で配信する、という契約を取り付けました。Spotifyは4月にも世界中のインディーズレーベルのデジタル権利の代理となっているMerlinという団体と、ユニバーサルとほぼ同じ内容で契約しています。MerlinにはRadioheadやアデルを扱うレーベルなども加入していることもあり、Spotifyとの契約を機にウィンドウィングや先行・独占配信といった戦略を行なっていくのではないでしょうか」

 Apple Music、Pandora Radioなど様々なストリーミングサービスが登場する中、ユーザーが聴きたい曲、好きなアーティストがどれだけ多くあるかという点は他と差別化を図る一手として避けられない問題だろう。また、無料で曲が聴けることに否定的なアーティストも依然として多いことを考えると、有料会員限定配信は今後もキーとなりそうだ。さらにコウガミ氏は、Spotifyが持つリスナーのデータ活用にも言及した。

「去年はドレイクやチャンス・ザ・ラッパー、フランク・オーシャンのように、配信のみで曲をヒットさせるアーティストが多く出てきました。彼らは配信したことで、再生回数だけでなくプレイリストへの追加回数、どこの国・地域で多くプレイリストに追加されているのか、といったデータを持っている。こうしたデータ活用はここ1、2年の海外トレンドですが、特にSpotifyはデータ開示に積極的と言えるでしょう。このデータが手に入ると次はどこでツアーをやるか、外国でのライブでどんなローカルアーティストと組むか、といった戦略が自分たちで立てられます。テイラーは今までSpotifyで楽曲を配信していなかったので、どこで曲が聴かれているのか、どれくらいプレイリストに使われているのかというデータが取れていなかった。テイラーが所属する<Big Machine Records>はインディーズレーベルで、大手レーベルよりもテイラー自身のやりたいことをダイレクトにできるというのもあり、こうしたデータは重要な財産となるでしょう」

 リスナーが他にどんな音楽を聴いているのかなど、CDの購入データだけでは分からない部分も多い。ストリーミングサービスに蓄積されるリスナーのデータは、今後の音楽業界にとっても不可欠なものであると言えそうだ。最後にコウガミ氏は今後のSpotifyの動きについてこう語った。

「レディー・ガガのマネージャーだったトロイ・カーターがSpotifyの幹部になったことにも注目です。彼はもともとマネージャーだったこともあり、アーティスト側とSpotify側の橋渡しをするような役割をしています。今後はアーティストの意見を聞きながらも、バランスをどう取っていくかが重要ですね。そう考えるとテイラーという大物アーティストが配信を再開したことは、やはりストリーミングのシーンにおいて今年一番のビッグニュースと言って良いでしょう」

 3月には全世界での有料会員数が5000万人を突破したSpotify。今や多くのアーティストにとっても無視できない大きな存在になっている。SpotifyはブロックチェーンスタートアップのMediachain Labsを買収するなど、正当なロイヤリティ支払いに向けた動きを見せているが、まだ全てが解決したわけではない。今後Spotifyがどう動いていくのか、またアーティスト側とSpotifyがどう歩み寄り妥協点を見つけるのか、コウガミ氏が指摘したようにバランスの取り方が重要となりそうだ。

村上夏菜

最終更新:6/19(月) 13:00
リアルサウンド