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ISISが生んだ新時代の伝播型テロ

6/19(月) 10:00配信

ニューズウィーク日本版

<仮想コミュニティーで連携させ、指導部からの指示すら必要としない、新時代のテロが増殖する恐怖>

またもや世界は痛ましいテロのニュースに衝撃を受けた。事件が起きたのはイギリス中部マンチェスター。人気歌手アリアナ・グランデのコンサート会場入り口で男が自爆テロを決行し、これまでに22人が死亡した。

事件直後にはテロ組織ISIS(自称イスラム国)が犯行声明を出したが、実行犯のサルマン・アベディはリビア系移民2世で、英治安当局はリビアの過激派組織の関与についても捜査を進めている。

筆者2人がホワイトハウスにいた当時、米政府のテロ対策の主眼はISISなどのテロ組織が直接的にその指揮系統を使って欧米で実行するテロの防止だった。だがその後、ISISが先鞭をつけた手法が大きな懸念材料になった。テロ組織が直接的に関与せずとも、インターネットを通じて世界中のシンパに攻撃を実行させるという手法だ。

今やテロ組織は難民に紛れた戦闘員を送り込まずとも、ネットを利用してやすやすと国境を越え、大きな被害をもたらせる。

これは開かれた欧米社会を揺るがす安全保障上の核心的な問題だ。テロ組織がネットに流す宣伝動画やメッセージに触発された、いわゆるローンウルフ(一匹狼)はテロ組織の指導部に直接コンタクトを取る必要はない。自分たちで攻撃を計画し、準備し、実行する。

これは新たな脅威だろうか。そのとおり。ただし、一般的に言われている脅威とは少し違う。

ISISはローンウルフ型のテロを解き放ったのではない。むしろネットの巧みな活用で、ローンウルフ型テロの終わりの始まりを招いたのだ。

【参考記事】ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

これを理解するには、ISISがソーシャルメディアを使って新兵募集や過激思想の伝播に革命をもたらしたことを理解する必要がある。さらに、なぜ一部の人々はISISのメッセージに洗脳されやすいかを理解する必要もある。

彼らは社会の中で孤立し、自分の居場所を求めていた人たちだ。ISISの大義のために武器を手にし、トラックで人混みに突っ込み、手製爆弾を製造すれば、コミュニティーの一員になれる。自分は独りぼっちではなく、新たな歴史をつくる勇敢な戦士たちの一員だと思える。

帰属意識がカギになる

ごく普通の市民でも主流のメディアに触れていれば、過激なプロパガンダの一端を目にすることになる。実際、多くのアメリカ人がISISの名を知ったのは14年8月にISISによる人質斬首ビデオの一部がニュースで盛んに流されたからだ。



この手のプロパガンダは新兵募集を目的としたものだが、共同体感覚を育む効果もある。ISISは高度な編集技術を駆使し、ナレーション付きの残虐映像を流す一方で、彼らが築いていると称するコミュニティーの映像も流している。

彼らのコミュニティーはローカルなものでもある。映像ではシリアの拠点で外国人戦闘員が妻と共に「快適な生活」を享受する様子が紹介される。と同時にそれはグローバルな性格も持つ。世界中どこにいようと、ISISの思想に共鳴し、ISISの名の下に行動を起こせば、すぐさまその一員になれる。

過激化研究国際センターの上級研究員チャーリー・ウィンターは著書でISISのメッセージに潜む6つの要素を挙げている。残虐性、慈悲、被害者意識、戦争、帰属、ユートピアだ。なかでも帰属は「欧米の国々から新兵を引き付ける最強の要素」で、「お茶を飲んでくつろぐ戦闘員の様子などを動画や写真で盛んに見せることで、『カリフ制国家』の同志たちの兄弟愛を強く刷り込める」という。

将来に希望が持てない、単純に政治に不満がある、社会習慣になじめないなど、自分の居場所を見つけられない人々はこうしたメッセージに触れて、自分は独りぼっちではないと思える。

【参考記事】ノートPCの持ち込み禁止はISISの高性能爆弾のせいだった

実際、メッセージアプリ「テレグラム」には、ISISがローンウルフに向けて爆弾の製造方法などを教えるチャンネルがあるという。ローンウルフたちが仲間とチャットし、情報交換をすることで、ネット上には多数のISISシンパの仮想コミュニティーが生まれる。

このコミュニティーの参加者の中には暗号化されたメッセージで指導部から特殊な指令を受けている者もいるが、そうした指令を受けずとも、仲間とテロのノウハウを共有している以上、もはや彼らは単独犯とは言えず、本人もそう思っていない。

テロ専門家は長年、あるテロ組織が「指示した」攻撃と、その組織に「触発された」攻撃を区別してきた。

だがISISの場合、こうした区別はあまり意味がない。指導部は機関誌「ルミヤ」などの刊行物を通じてターゲットや武器、実行のタイミングなどをシンパに伝えられるからだ。そればかりか「いつでも、どこでも、どんな手段でも、やりやすい方法で攻撃しろ」という究極のメッセージも出している。



シンパがテロを実行するには、それで十分だろう。米フロリダ州オーランドのナイトクラブで銃を乱射したオマル・マティーンは典型的なローンウルフとされる。彼は犯行に及ぶに当たってISISへの忠誠を誓ったが、シリアでテロの訓練を受けたとか指導部から指令を受けたという情報は一切ない。

そもそも指令を受ける必要があったのか。バラク・オバマ前米大統領が言ったように、マティーンは「ネットを通じて広まったさまざまな過激派の情報に触発されて」いた。ターゲットと攻撃方法と決行日を決め、罪のない49人もの人々を殺すには、それで十分だった。

マティーンは心理的、社会的に複雑な事情から、この世界で独りぼっちだと感じていたようだ。彼のような人間を引き付け、仮想コミュニティーへの帰属意識を持たせる。ISISがこうした能力を持つことは明らかな事実であり、重大な脅威だ。

新たな脅威を防ぐには

「ホームグロウン(自国育ちの)・テロリスト」という言葉もよく耳にする。彼らはテロ組織の拠点に行き、訓練を受けた経験はないが、自国でテロ組織の名の下にテロを行う。だがネット時代にホームグロウンという言葉は意味を持つだろうか。

ISISのシンパは世界中どこにいても、スマホでシリアのISISの拠点の様子を見られるし、銃乱射や自爆、トラック突入など世界各地で起きたテロの映像に触れ、それに対する世界中の人々のツイートも見られる。

【参考記事】モスル陥落で欧州にテロが増える?

こうした状況が重大な脅威であると認めるのは、テロの頻発を「新常態」として受け入れることとは違う。テロ対策は一定の成果を上げてきた。オバマ政権下で慎重に立案された戦略が功を奏し、ISISはイラクとシリアの支配地域のかなりの部分を失った。物理的な後退を余儀なくされた彼らは、仮想上の支配地域を拡大しようと必死だ。

一方で、既にほかのテロ組織がISISの手法をまねて、孤独な人々に帰属意識を持たせ、自分たちの目的に沿った攻撃を行わせようとしている。

通信技術は今後も進化し続ける。テロ組織がそれをどう利用するかを先読みし、手を打つ必要がある。過激派の仮想の共同体に孤独な人々がからめ捕られるのをどう防ぐか。私たちはこの難問を解かねばならない。

From Foreign Policy Magazine

[2017.6. 6号掲載]

ジェン・イースタリー、ジョシュア・ゲルツァー(元米国家安全保障会議テロ対策担当)

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