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エリザベス女王、最長在位の秘訣は食にあり(チョコは別腹)

6/19(月) 17:30配信

ニューズウィーク日本版

今上天皇の退位を実現する特例法が成立し、天皇陛下が2018年12月末か、19年3月末に退位する見通しとなった。先進国の君主としては最もエリザベス英女王に近い年齢の天皇の退位で、同女王が年齢、在位年数で今後どこまで「記録」を伸ばし続けるか、改めて注目が集まることになるだろう。

91歳でなおかくしゃくとする女王

現在、陛下は83歳、エリザベス女王は7歳8カ月年上の91歳。ほぼ同世代といっていいだろう。陛下は父・昭和天皇が長命だったこともあって在位年数は28年と、エリザベス女王の65年に大きく及ばない。

ここ数年、先進国では国王クラスの退位が相次いだ、オランダのベアトリックス女王が13年に75歳で、スペインのフアン・カルロス国王が14年に76歳で退位し、先進国の君主の中ではエリザベス女王と陛下の2人が抜きんでて高齢君主だった。

在位年数で言うならば、1年前までトップにあったのはタイのプミポン国王で、エリザベス女王より6年先を行っていた。16年6月には在位70年を迎えた。プミポン国王は同年10月、88歳で亡くなり、エリザベス女王が長期在位君主としてトップとなった。

今回、天皇の生前退位が正式に決まったことで、エリザベス女王が1人、終身元首の道を歩み続けることになる。

それにしてもエリザベス女王は元気だ。プミポン国王は在位ではトップにあったが長年、病床にあった。陛下もマイコプラズマ肺炎で入院し、また心臓の冠動脈バイパスの大手術も受けている。これに対して女王は大病をしたことがない。年齢に相応してやや猫背には見えるが、公的な場に出ればかくしゃくとして公務に励んでいる。

【参考記事】エリザベス女王90歳 素顔がのぞく珍言集

唯一目が無いチョコレート

エリザベス女王の元気の秘密、それは食事にあるのではないか。そう思わせる記事が目に入った。バッキンガム宮殿の厨房(ちゅうぼう)で1993年までの11年間、女王に仕えた料理長ダレン・マックグラディ氏が女王の食事の嗜好(しこう)について英紙に語っている。

マックグラディ氏は、ロンドンの著名なサボワホテルのレストランで料理人をしていた82年、バッキンガム宮殿にヘッドハンティングされた。20人の料理人が働く宮殿の厨房で、外国の元首が訪英した際の女王主催歓迎晩さん会や、女王の日常食を担当した。

93年にはチャールズ皇太子とダイアナ妃の専属シェフとなり、ダイアナ妃が事故死する97年まで二人の息子のウィリアム王子とヘンリー王子の日常食も担当。英王室で通算15年働いた。

マックグラディ氏によるとチャールズ皇太子は美食家だが、エリザベス女王は美食家ではない。

「チャールズ皇太子はおいしいものに目が無く、オーガニックな食材も好みです。これに対して女王はおいしいものへのこだわりは特にありません。食習慣もほとんど変えません」

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同氏は女王の日常の食事の特色を3点挙げている。

 1、食に対して自制心、自己抑制が極めて強く、1日4食で、常に少なめ。例えば昼だとソテーした魚にサラダが定番で、お米、パスタ、ポテトなどのデンプン質、炭水化物は日常ではほとんど取らない。

 2、倹約、節約を旨としている。例えば大皿に盛った料理の飾り付けにレモンを1個付けると、それを厨房に戻してきて、別の料理に使うように指示する。

 3、食には自制心の強い女王だが、唯一目がないのがチョコレート。特にチョコレートクッキーが大好きで、これだけは途中で下げないとあるだけ全部食べてしまうので、サービスする人間は注意していた。

英国の元首として外国の賓客をもてなす饗宴は頻繁にあるし、外国訪問では連日、昼夜と食事会が入る。特に外国にあっては英女王においしいものを食べてもらおうと、料理人はフォアグラやキャビアなど高級食材を多用した料理を出すのが常だ。

女王は料理を残すことは許されず、きれいに食べなければならない。美食でも連日となれば体にこたえる。女王が日常の食事を特に気を付けているのは、体のバランスを回復させるためだ。65年間、食欲に任せて美食を続けていたら、体を壊していただろう。

女王の日常食で料理人が心得ておくべき幾つかのルールがある。ニンニクは絶対使わないこと。タマネギは少なめに。肉の焼き方はレアではなく、ウェルダンに...。

ニンニク禁止は徹底している。嫌いなのではなく、公的な場でニンニクの臭いをさせるのは失礼に当たると考えている。タマネギも同様の考えからだ。

【参考記事】英女王「死去」の符牒は「ロンドン橋が落ちた」

野菜の多用は女王の指示

現在、バッキンガム宮殿の厨房を仕切る料理長はマーク・フラナガン氏。12年5月、エリザベス女王の即位60年を祝う昼食会がロンドン郊外のウィンザー城で開かれた際の料理もフラナガン氏が担当した。この時天皇、皇后両陛下も出席した。次のような内容だった。

半熟卵にアスパラガス
ウィンザー地方の仔羊、ポテト、アーティチョーク、エンドウ、ニンジンと共に

トマトとバジルのサラダ
ケント産のイチゴとバニラのケーキ、果物を添えて

料理に野菜が多く使われているのも女王の指示である。日常食ではポテトを食べない女王でも、こういう時は口にするのだろう。

この食事会では広間に12人掛けの丸テーブルが幾つも配置され、それぞれのテーブルに各国の君主・王族のカップルとホストの英王族が座った。

天皇、皇后両陛下はエリザベス女王、夫君フィリップ殿下と同じメインのテーブルで、天皇は女王の左隣という2番目の上席を与えられた。女王の右手の最上席はスウェーデンのカール16世グスタフ国王が占めた。皇后はその国王の右隣の席だった。

女王が皇室よりも行き来があり、縁戚関係もある欧州の王室を差し置いて両陛下を上席に着けたところに、女王の心配りと共に、両陛下に対する親愛の情が伝わってくる。

両陛下そろっての訪英はこれが7回目だったが、振り返れば陛下にとって退位前にエリザベス女王と会う最後の機会だったとなるのではないだろうか。

【参考記事】エリザベス女王がトランプ氏を公式招待へ ──王室の占める位置とは



日常食にも頑固通す

女王の日常食に戻ろう。フラナガン氏は週に2回、数日先までの朝昼晩のメニュー候補を提出し、女王はそれに〇や×をつけて、実際のメニューが決められる。

同氏はある1日の典型的なメニューを明かしている。

朝食 起きるとまずアールグレイの紅茶(ミルク、砂糖抜きで)にビスケットをつまむ。9時に食事。フルーツにシリアルが定番。時々、これに代えてトーストにマーマレードのことも。まれにスクランブルエッグとスモークサーモンを付ける。

フィリップ殿下は8時半に朝食を取るので、朝は夫婦別々だ。

昼食 昼食前に食前酒としてレモンと氷をたっぷり入れたジン、もしくはデュボネ(甘口の食前赤ワイン)。これは何十年と変わらない。
 
食事は魚、もしくは鶏にサラダのみ。魚はドーバー海峡の舌平目が好み。皿に軽くゆでてしんなりしたホウレンソウかズッキーニを敷き、その上に魚、鶏を置くのが定番。先に述べたようにポテト、米、パスタは取らない。ワインは飲まない。

間食 午後の紅茶の時間には、つまみにフィンガーサンドイッチ、スコーン、好物のケーキのいずれかを口にする。サンドイッチの中身はキュウリやスモークサーモンなどだが、ラズベリーのサンドイッチも好みだ。

夕食 ラム、ローストビーフ、マトンなど、その日によるが、牛ヒレや鹿のステーキをマッシュルームのクリームソースで食べるのが好みと言われている。食事中の飲み物はドライマティーニで、ワインは飲まない。

デザート ウィンザー城の温室で育てた白桃やストロベリーが好み。チョコレートムースの時もある。時にデザートに合わせシャンパンをグラス1杯飲むことも。

これを見ても、女王が意識してセーブしていることが分かる。炭水化物は朝のシリアルで取るだけ。ワインもほとんど飲まず、野菜中心の食事だ。特段、今風にオーガニックにこだわっているわけではないが、いったん決めたらそれを守り通す頑固さが日常食からも伝わってくる。この頑固さこそが健康・長寿の秘密なのだろう。


[執筆者]
西川 恵(にしかわ・めぐみ)
毎日新聞社客員編集委員
1971年毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマの各支局勤務。外信部長、論説委員を経て2002年から専門編集委員。14年4月から現職。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『国際政治のキーワード』(講談社)、『ワインと外交』(新潮新書)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、『饗宴外交』(世界文化社)など。共訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店)。フランス国家功労賞。

※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。

西川 恵(毎日新聞社客員編集委員)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

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