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在野で研究を続ける条件について整理した『これからのエリック・ホッファーのために』に山形浩生は力づけられた

6/19(月) 8:00配信

Book Bang

 ご存じの方もいるだろうけれど、ぼくはあちこちのメディアに顔を出して雑文を書いたり勝手なことを言ったり翻訳をしたりしているけれど、そうした分野のほとんどについて、それが専門というわけじゃない。学者でもないし、その分野で事業をしているわけでもない。たまたま興味を持って、あまり資料がないので自分で調べ回ったりするうちに、見当がついてきたものばかりだ。つまり基本的には、ぼくはほぼあらゆる分野で在野のアマチュアだということだ。
 さて在野のアマチュアというのは、決してほめことばじゃない。かつてネットの普及で、専門家の時代は終わり、すべてネット検索とソーシャルなクラウドソーシングで片がつくのでは、という幻想があった時代もすでに終わった。むしろ実際は安易な検索と、見たいものだけ見る選択的なソーシャルネットワークで、一知半解の聞きかじりが増殖しただけだった。地震や原発事故ではそういう連中が平然とデマと不安を広げ、事態を悪化させ、果ては本当に有益な分析と情報を提供している専門家たちに対し、きいたふうな口がきけるつもりでいた。
 一方で、専門家が失敗するときもある。学問分野が内輪に閉じ、ドグマに冒されたとき。そして分野が細分化され、総合的な知見を専門家たちが生み出せないとき。さらに新しく登場した―または隙間的な―領域に対して従来の知見では対応できないとき。

 そんなとき、本当に有益な役割を果たせる在野のアマチュアはどのように現れ、活動し、そしてどんなふうに在野のアマチュアならではの落とし穴にはまらずにすむか? これは在野のアマチュアであるぼく自身が常に抱えている問題でもある。
 荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために』は、実際の日本の在野研究者たちを事例として、在野で有意義な研究を続けるための様々な条件を整理した本だ。
 有意義な研究をするには、ちゃんと勉強しなくてはならない。ネット検索一発で専門家と張り合えるなんていう甘い話はない。でもどう勉強する? しかも在野の定義からして、系統的に大学で教われない。どうやって偏りのなさを担保すべきか? 専門の学者と張り合うために、どんなテーマ選択をして、成果として残すために何をすべきなのか? そして大学の先生みたいに、それが必ずしも飯の種にならない場合には、どうやって糊口をしのぐべきか? 
 そうしたレベルにとどまらず、個別の研究者の歴史はみんなそれ自体として実におもしろい。挙がっている人々は、南方熊楠や高群逸枝のような大物から、ぼくの興味ない分野で聞いたことない人まで様々ではある。でも、著者もまたこの人々に引かれ、そして同時に自らもまた在野の研究者として、そこに己自身の指針を見つけようとしている。その二重の関心がシンプルながら本書を非常におもしろいものとしている。専業の研究者にならなくても、己の興味を追究する道はある―決して容易ではないけれど。本書は、その分析を通じて在野のぼくたちを力づけてくれる。

[レビュアー]山形浩生(評論家・翻訳家・開発援助コンサルタント)
1964年生まれ。評論家、翻訳家、開発援助コンサルタント。経済学、情報学ほかさまざまな分野で活躍する。著書に『新教養主義宣言』『要するに』、翻訳書にトマ・ピケティ『21世紀の資本』、ローレンス・レッシグ『REMIX』ほか多数

太田出版 ケトル vol.35 掲載

太田出版

最終更新:6/19(月) 10:47
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