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華がなく、社会人は10社以上落ち。DeNA・宮崎敏郎が超無名だった頃。〈Number〉

6/19(月) 7:01配信

Number Web

 6月13日。

 DeNA・宮崎敏郎三塁手が、音もなくセ・リーグの首位打者にランクされた時、私の中で、ある感慨が胸を満たした。

 世の中、地道にコツコツ頑張るヤツが、結局最後は勝つのかねぇ……。

 華やかな世界といわれるプロ野球の中で、この男ほど地味で、土のグラウンドが似合う選手もいないのではないか。

 グラウンドに出て来た時は洗剤の匂いがするようなユニフォームを着ていても、帰っていく時は泥だらけ。

 この選手には、そんな記憶しかない。

 社会人野球・セガサミーの頃。

 ほかの選手を取材に伺った練習グラウンドで、みんなが全体練習を終えて、誰もいなくなったグラウンドで、いつまでもバッティング練習をやめようとしなかった汚れた“ヒゲだるま”のような姿。

 「おーい、閉めるぞー」と誰かが呼んでも、聞こえているのか、いないのか、マシンと“2人の世界”でひたすらバットを振っていた。

 何かが壊れた感じが頼もしかった。

野球職人みたいな見てくれと、洗練されたバット技術。

 今でも、こんな選手がいるんだね……。左右にジャストミートのライナーを弾き返す、技術を感じるバッティングに、惹き込まれるようにして見入っていたものだった。

 ヘタだから、練習しないと……! というモチベーションではなかったように思う。

 オレの野球は“ここ”じゃないんだ! 

 そんな心の叫びが、汗の染みた背中から聞こえていた。

 野球ひと筋の“野球職人”みたいな見てくれとは対照的に、そのバットコントロールは鮮やかで洗練されていた。

 とりわけ、軸足に溜めたエネルギーを一気に前足に乗せ換えるようにしながら、バットヘッドを右方向へ長く走らせ、その軌道で右中間へライナー性で弾き返す技術には、目を見張るものがあった。

「来たっ!」と思った時の集中力がすごかった。

 そんな技術があったから、試合になると、なかなか死なない。追い込まれても、外の変化球をボールの背中を押し込むようにして、なんとかバットに合わせ、失投がフラッと入ってくるのを我慢強く待つ。ファールはほとんどが一塁側スタンドへ飛んでいった。

 そして、「来たっ!」と思った時の集中力がすごかった。打球は必ず、人のいない所へ近く、遠く、飛んでいった。

 そんなセガサミー・宮崎敏郎内野手のことを、私はどこかで「こんなに生命力の旺盛な選手、見たことない」と書いて、驚き、あきれ、注目したものだった。

 社会人で2年間、バッティング技術と勝負根性で結果を積み上げ、DeNAに入ってもう10年も経ったかと思っていた。

 実際はプロ5年目。その風貌、プレースタイルに漂う職人風ベテラン感がそんな印象につながる。そういう選手なのだ。

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最終更新:6/19(月) 11:46
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