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柏を変えた育成哲学。アカデミー育ちが台頭…ようやく見出した「8+3」の最適なバランス

6/20(火) 12:38配信

フットボールチャンネル

 J1戦線で暫定首位をキープする、柏レイソルの先発メンバーが異彩を放っている。アカデミー出身の選手が実に8人を数える陣容は、Jリーグ全体でも稀有といっていい。U-12からU-18までのアカデミー全体が「自分たちがボールを保持する攻撃的なサッカー」というコンセプトで統一されたのが2010シーズン。長い年月をかけて追い求めてきた「8+3」、先発11人のうちアカデミー出身者が8人を占める目標を成就させる中で、最適のバランスを得た結果が今シーズンの快進撃につながっている。(取材・文:藤江直人)

●レイソルが長年追い求めた「8+3」

 決して芳しくなかった開幕前の下馬評を鮮やかに覆し、全日程の半分近くを消化したJ1の首位を走っている柏レイソルが、長く追い求めている数字がある。

 それは「8+3」――。

 先発メンバー11人のうち、3人の外国人選手を除く8人を、柏レイソルU-18以下のアカデミー出身の選手で占めようという壮大なプランだ。

 はっきりとした目標として掲げられたのは2010シーズンの後半。U-15およびU-18のコーチや監督を歴任してきた吉田達磨(現ヴァンフォーレ甲府監督)が、アカデミーダイレクターに就任した年だ。

 それまでは各カテゴリーを率いる指導者によって異なっていたコンセプトを、吉田が標榜してきた「自分たちがボールを保持する攻撃的なサッカー」で統一。U-12からU-18まで強く、太い芯が通された。

 2010シーズン当時のU-18の1年生には、ハリルジャパンに招集されたGK中村航輔、前線のダイナモとしてポジションを確立した身長155cmのMF中川寛斗がいた。

 さらに、U-15の最上級生にあたる中学3年生にはDF中谷進之介、2年生ではMF手塚康平がプレー。翌2011シーズンには、茨城県竜ケ崎市の愛宕中学校でプレーしていたDF中山雄太も加わる。

 ここまで名前を挙げた5人はいま、トップチームの先発メンバーに名前を連ねている。2010シーズン当時すでにU-18を巣立っていたDF輪湖直樹、FW武富孝介も吉田の薫陶を色濃く受けている。

 そこへU-15に入団した1997シーズンからレイソルひと筋でプレーするバンディエラで、不動のキャプテンでもある32歳のMF大谷秀和を加えた8人は、代表招集による離脱を除いて5月に入ってから一度も先発から外れていない。

 今季をさかのぼれば、1‐2で苦杯をなめた3月10日の川崎フロンターレ戦で初めて「8+3」が実現した。さらにさかのぼること1年。昨年3月19日のサガン鳥栖戦、電撃辞任したミルトン・メンデス前監督からバトンを引き継いだ下平隆宏監督の就任2試合目で、実は「8+3」が達成されていた。

「クラブとして『8+3』を目指してきましたが、だからといって意図的にアカデミー出身の選手を使っているのではなく、当然ですけれどもしっかりとした競争の中から、調子のいい選手が使われています」

●ターニングポイントは2010年。長期的視野に立った育成改革

 競争の結果として「8+3」が現実のものとなったと力を込める下平監督は、レイソルのターニングポイントとなった2010シーズンから、6年間にわたってU-18監督を務めていた。

 当時のトップチームは名将ネルシーニョ(現ヴィッセル神戸監督)の下で、J2からJ1へ昇格し、直後の2011シーズンには悲願のJ1制覇を達成。翌2012シーズンは天皇杯、2013シーズンにはヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)を制した。一方で、レイソル強化部が長期的視野に立ち、アカデミーを軸にしたチーム作りを進めてきたことがわかる。

 2015シーズンには吉田がトップチームの監督に就任。ピラミッドの頂点に自らのコンセプトを浸透させ始めたが、2ndステージの不振もあり、契約を1年残してチームを去ることになった。

 後任のメンデス前監督は球際の激しい攻防と、縦に速いサッカーを標榜。前任者と180度異なるスタイルでチームが混乱に陥ったことで、開幕から3試合を終えた段階で指揮官交代に踏み切る緊急事態に至った。

 ヘッドコーチから昇格する形で指揮を執った下平監督は、アカデミーから一貫されているコンセプトをトップチームでも継承。同時にメンデス前監督が目指した、激しさや泥臭さも融合させた。

 昨季も1stステージで5連勝を、それもすべて完封で達成するクラブ新記録を樹立。2ndステージでも3連勝を2度マークしたが、今季とは全く異なると指揮官は苦笑する。

「昨年は僕自身も監督になってすぐで、何だかよくわからないというか、勢いで勝った感じも実際にありました。今年はチームが着実に力をつけてきていると僕自身が実感していますし、選手たちがやるべきことをしっかり整理していることが見てとれる。そういう積み上げは、去年と違ってあるのかなと」

●中川と中谷、好調を支えるアカデミー育ちの若武者たち

 レイソルを首位へ押し上げた8連勝は4月16日、ネルシーニョ監督率いるヴィッセルを敵地で撃破した一戦から幕を開けた。先発陣の顔ぶれを見ると、開幕時から徐々に戦い方が変わっていることがわかる。

 外国人選手はクリスティアーノだけとなり、中川と身長差27cmの2トップを結成。故障で離脱した大津に代わって先発に復帰した武富、ヴァンフォーレ甲府から加入して2年目の伊東純也が2列目のサイドに入る。

 この4人が怒涛のハイプレスを継続して主導権を握る。特に小さな体に無尽蔵のスタミナを搭載する中川は、連勝中の1試合の総走行距離がすべて11kmを超えるなど、ハイプレスの一の矢を担ってきた。

 中川は「前からどんどんプレッシャーにいって、できるだけ早くボールを回収して、いい攻撃につなげる。そういうサイクルができている試合で、僕たちが勝利する確率はあがっているので」と、積極的な守備が攻撃にためにあることを説明してくれたことがある。

 もちろん中川を含めた数人でプレッシャーをかけたからといって、直接ボールを奪える可能性はそれほど高くはない。それでも誰もが労を惜しまずに走り回る理由には最終ライン、特に21歳の中谷と20歳の中山とで形成される、J1でも屈指の若さのセンターバックコンビへ寄せられる絶大なる信頼感がある。

 執拗にプレッシャーをかけ続ければ、相手の最終ラインやボランチはロングボールを蹴らざるを得なくなる。体勢が十分ではない場面が多いので、必然的に雑なパスとなる。

 そこで空中戦に強く、セカンドボールの回収率も高い中谷と中山の出番がやってくる。足元の技術にも長けた彼らがビルドアップの起点となることで、クラブが掲げてきた「ボールを保持する攻撃的なサッカー」が始まる。

 最終ラインのけん引役となる中谷は、2014シーズンにU-18からトップチームへ昇格したものの、最初の2年間はJ1でわずか8試合に出場しただけ。大半の試合をピッチの外から見つめていた。

 2015シーズンのオフにはネルシーニョ監督率いるヴィッセル神戸、ネルシーニョ体制下でヘッドコーチを6年間務めた井原正巳監督率いるアビスパ福岡から期限付き移籍のオファーも届いた。

 身長184cm体重79キロのボディに秘められていた才能は、背番号が「20」から「4」に変わり、下平監督が就任した昨季、ついに開花のときを迎える。センターバックの中心として31試合に出場した。

「若手の中でやっている感覚? ないですね。正直、チーム全体が若いので、みんなも若いとは思っていないし、その中で競争を勝ち抜いて試合に出ているので。ただ、U-18までやってきたことは自分たちの財産になっているし、いまはトップチームの選手たちの融合がすごく上手くいっている」

●スタイルの継続による守備力の劇的改善

 今季もリーグ優勝全15試合、合計1350分間にわたって先発フル出場している中谷からは、ビッグセーブを連発する守護神・中村とともに、首位を走るレイソルの守備陣を支える自信と風格が伝わってくる。下平監督も若きディフェンスリーダーに全幅の信頼を置く。

「若さですか? 落ち着いているし、全然気にしていないですよ。ちょっとした駆け引きの部分ではまだまだという部分はありますけど、ボールを動かす部分やラインコントロールといった戦術的な部分では、本当にしっかりやってくれている」

 自分たちがボールを持つ時間が長くなれば、当然ながら相手の攻撃を受ける回数は減る。連勝が始まる前までの6試合で8失点を喫していたレイソルの守備も、劇的に改善され始めた。

 8連勝中における無失点勝利は5試合。ヴァンフォーレ甲府を率いる吉田監督の意地の前に無得点に終わった、今月17日の第15節でも無失点に抑え、最低限ともいえる勝ち点1を上積みして首位をキープした。

 これで今季の無失点試合は「7」を数え、勝ち点2差で暫定2位につけるセレッソ大阪、GK林彰洋とDF森重真人の元日本代表コンビを擁するFC東京と並んでリーグ最多となった。序盤戦のつまずきを考えれば、鮮やかなV字回復といっていい。

「いいセンターバックというのはそういう(風格のある)雰囲気を持っているし、自信があるように見せたほうが相手も怖いと思う。僕自身、堂々としていることはすごく大事だと思うので、一人の選手として、そこはいい傾向なのかなと思っています」

●レイソルが見出した「8+3」の最適なバランス

 勝ち点3を奪えなかった悔しさを封印した中谷は、次節での勝利へ向けて努めて前を向いた。サッカーに年齢は関係がない、ということを全身で表現している後輩へ、中川もあらためて信頼を寄せる。

「僕たちがいまやりたいサッカーにおいて、必要不可欠な存在なので。非常に賢い選手ですし、加えて上手さ、強さ、カバー能力もあると全員で共有できている。常にそれらを遂行してくれるので」

 ヴァンフォーレ甲府戦でも先発陣の「8+3」は継続されている。連勝が始まったヴィッセル戦以降はクリスティアーノ、伊東、レノファ山口から加入した右サイドバック・小池龍太が「3」を担っている。

 一貫したコンセプトのもと、2010シーズンから長い歳月をかけて育んできたアカデミー出身の若手たちに、クリスティアーノの得点力、伊東のスピード、そして小池の運動量と闘争心が融合された。

 アカデミーの指導だけではまかなえない部分を、外部からの“血”で補う。外国人3人ではなく、外国人+日本人2人という形になったが、レイソルは「8+3」の最適なバランスを見つけたといっていい。

 連勝は止まったが、9試合無敗は続いている。クリスティアーノのシュートが相手ゴールのバーとポストを叩く不運にも見舞われたヴァンフォーレ甲府戦だが、チームの雰囲気は悪くないと中川は強調する

「5連勝、6連勝と続いてきたときも、僕たちは決して勢いで勝ってきたわけじゃないので。相手の5枚(の最終ライン)が最初から引き気味になる中でどう動かして、崩すか。いろいろと手は尽くしたけど、これが僕たちの現状であり実力。今日のような相手はまだいるので、改善していきたいと思う」

 長い歳月が費やされた末に、理想の戦い方を手にしたレイソルの快進撃は本物だろう。小休止を強いられたヴァンフォーレ戦で突きつけられた、ハイプレスが通じない引いた相手をこじ開ける課題も成長の糧にしながら、必然に導かれた強さに磨きをかけていく。(文中一部敬称略)

(取材・文:藤江直人)

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