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【劇場アニメレビュー】「さすおに!」 安定感抜群の秀作『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』

6/20(火) 13:00配信

おたぽる

『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』公開2日目の夜の回を見るために都内の映画館へ赴くと、ほぼ満杯の場内は若い男性まみれ! 女性は1割いるかどうかという案配である。先週見た『KING OF PRISM-PRIDE OF the HERO-』もそうだったが、このところアニメーション映画の場内はいつも女性まみれで活気に満ちているといった印象が強く、一方で美少女ものなど男性向けの作品を見に行ってもあまり覇気が感じられないことが多々あったのだが、なかなかどうしてこの日は、上映中も含めて久々に男どもの熱いものを感じてしまった(でもこの作品、イケメンが主人公だし、女性ファンに支えられているものと思いこんでいたのだが……。たまたまこの回がそうだっただけなのかな?)。

 さて、『魔法科高校の劣等生』(電撃文庫)の原作は、累計発行部数770万部突破の佐島勤によるバトル・ファンタジー小説シリーズ。西暦1995年から歴史が分岐し、魔法が科学的に体系化された超能力の一種として開発・普及された近未来のパラレルワールドを舞台に、その魔法を扱う魔法師を養成する国立魔法大学付属第一高校で繰り広げられる学園ドラマとしての一面もある。

 一見『ハリー・ポッター』シリーズの影響を受けているようにも感じられるが、異彩を放っているのが主人公・司波達也のキャラクターで、要は通常魔法を使えないタイトル通りの劣等生なのだが、そういった設定下でコミカルに走ることなく、なかなか感情を表に出さないクールな面持ちで、ドラマもどちらかというとシビアに進められていく。

 かたや同学年の妹・深雪は非の打ちどころのない優等生。しかし才色兼備のエリートの彼女は極度のブラコンで、兄・達也にラブラブ。この要素が本作を萌えっぽくも微笑ましい雰囲気に包みあげてくれている。

 そしてもちろん、達也の正体は劣等生どころか、ある意味超エリートなのであった。
 
 2014年にはTVアニメーション・シリーズが作られ、その中で原作の《入学編》《九校編》《横浜騒乱編》が映像化。

 そして本作『劇場版魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』は、原作者の佐島自身がオリジナル・ストーリーを構築して、脚本も担当(ライトワークスと共同)。高校2年を迎える直前の春休み、休暇で小笠原諸島のある別荘を訪れていた達也たちの前に、突然一人の少女が現れたことからドラマが動き出す。

 海軍基地を脱走してきたという彼女の正体と、その願いとは……?

 今回もTVシリーズに負けず劣らずのハードなストーリーだが、原作イラストから始まり、本作のキャラクター・デザイン&総作画監督も務める石田可奈が構築した陽性の画が、そのシビアさを緩和してくれている。

 TVシリーズで演出&画コンテを担当していた吉田りさこ監督は、水着やお風呂といった、いわゆる深夜アニメの映画版にありがちなファンサービス・ショットを披露しつつも、そこではしゃぐことはなく、特に女性キャラたちと少女がお風呂に入るシーンでも、彼女らの感情こそを大切にしたデリケートな演出が施されているあたり好感が持てる。

 ストーリー設定などもSFものを見慣れた目からするとそう目新しいものではないのだが(サブタイトルの“星を呼ぶ”というのも、なるほどそういうことなのねと見ていて納得)、語り口が良いので見飽きるところがなく、全体的に淡々とした雰囲気ながら、それゆえにいざ何か事が起きたときなどのインパクトも含めて見る側の感情の起伏をより刺激してくれる。

 さすがに原作を読んでいないとキャラクター同士の細かい設定などがわからなかったりはするものの(原作ファンいわく、《追憶編》《来訪者編》を読んでおくと、より楽しめるそうです)、作品そのものの体勢にさほど大きな影響を及ぼすことなく、むしろノリとテンポで受け流しながら全体を堪能したほうが得策ではあるだろう(その意味では原作未読の観客に観賞後、原作への興味を募らせる心憎い配慮がなされている?)。

 達也役:中村悠一と深雪役:早見沙織、双方の才色兼備な声の魅力は劇場版においても鉄壁のごとき貫録で、特に深雪が「お兄様」と一言つぶやくだけで作品世界がぐんとグレードアップしていくあたり、銀幕の大画面を見聞きしながらエクスタシーすら感じてしまうものがあり、またそれにふさわしい行動を達也が淡々と繰り広げていくあたり、深雪の名セリフ「さすがです。お兄様!」がこちらの脳裏にまでずっと響き渡っているかのようであった。

 正直、TVシリーズをそこそこ見ている程度で、さほどの思い入れがないままに接した本作ではあったが、その分拾い物のプログラムピクチュア的佳作にぶち当たったような気持ちよさがあった。

 実写映画からプログラムピクチュアが激減して久しい昨今ではあるが、むしろアニメーション映画のほうが(特に深夜アニメの劇場版など)、そうした雰囲気を携えたものを定期的に送り出しているのかもしれない。
(文・増當竜也)

最終更新:6/20(火) 13:00
おたぽる