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「いい意味で個人主義でいられる」エッセイマンガ『ヲタ夫婦』作者・藍さんが語る、ドルヲタ男女の結婚、ヲタ活とは?

6/21(水) 20:01配信

おたぽる

 アイドルヲタクとて人の子。普通の恋もすれば結婚もしたい。
 だが、男にせよ女にせよ、相手にヲタク心を理解してもらうのはなかなかに難しい。

 そんな時に誰もが考えること――「ヲタク同士で結婚すれば幸せになれるんじゃない?」

 そんな理想的な思いを実現させた人がいる。
 藍さん、マンガ家でアイドルヲタクの女性だ。2015年にTVアニメ化もされた、アイドル群像マンガ『ミリオンドール』(アース・スターエンターテイメント)の作者である。

 彼女は、同じくアイドルヲタクの男性「ヲタ夫」と出会い、結婚した。
 しかし、結婚までには様々な出来事や思いがあり、結婚後も思いもしなかった困難が立ちはだかる。

 二人の出会いは? そして、どんな思いを抱いて結婚した?
 そんな姿を赤裸々に描いたエッセイマンガ『ヲタ夫婦アイドル ヲタクな2人はこうして結婚できました。』(出版ワークス)発売を記念して、藍さんにインタビューを行った。

***

――今回発売された『ヲタ夫婦』を描くことになったきっかけを教えてください。

藍 元々Twitterで落書きのようなものを描いていたのですが、それをcakes(ネットでの作品掲載サイト)さんが「これは面白いよ」って言ってくださって、そこで描くようになったのが最初です。

――書籍化の話はどのように決まったのでしょう?

藍 昨年の年末ぐらいに、「書籍化を募集します」と宣伝していたら、「MOBSPROOF」さんが声をかけてくださいました。その時の口説き文句がすごくて。「BiSを作った渡辺淳之介さんの自伝を作ったので、今度はBiSで人生が狂わされた男の本を作りたいんです」と言われ、それで決めました。

――それは素晴らしい。その時はどんなお気持ちでしたか?

藍 書籍化自体は嬉しかったですし、ちゃんとアイドルのこと、ヲタクのことをわかっている人に作ってもらえるという安心感がありました。反面、「気を引き締めて作りたいな」という気持ちもありました。本になって届くということは大事なことですし、ヲタクがCDを買うように、お金をかけて買ってもらうわけですしね。

――ご主人や周囲の方々の反応はいかがだったでしょう?

藍 旦那は「有名になっちゃうかも」ってそわそわしていて(笑)、「本が売れるならなんでもするよ」って言ってくれました。私はエッセイが初挑戦だったので、どういう人が読んでくれるかわからなくて不安でしたね。でも、結構女性の方なども喜んでくれたし、アイドルの中にも「読みやすい」って言ってくれる人がいたりして、そういう反応が新鮮でした。やはり、書籍化で話が広がったのはありがたかったです。

――本になると、Webよりも読みやすくなりますよね。

藍 そうですね。今回は連続性を持たせるために、描き下ろした部分も多かったです。cakesとはまた違った感じで楽しんでいただけると思います。

――恋愛や結婚と、ヲタク活動を両立するコツなどはありますか?

藍 今現在、悩んでるところでもあるんですけど(笑)。問題の切り分けをうまくやることでしょうか。

 男性と女性でも違うと思うんですが、私は、恋愛と仕事とヲタ活は違う自分でいたいんですよ。自分の顔を分けたくて。でも、旦那は全然そういうのがない。裏表がないというか、テンションが同じまま仕事もヲタ活もできるんですね。その差をすごく感じてしまいます。

 例えば、付き合いたての時って盛り上がってるから、「恋愛だけに生きていたい」みたいになるんですけど、夫はそうでもなくて。ヲタ活が楽しい時だったみたいで、時間を守ってくれないのはしょっちゅうで、「後回しにされてるな」って思うことがありました。一緒に暮らし始めて、自分の腹が立つポイントとか、切り替えが不得意な分野とかがわかるようになってきたんです。

 一番は、「唯一自分を異性として見てくれている相手が、異性として大事にしてくれないところ」であって、別にアイドルと楽しそうにしているのが嫌なわけじゃないんだってことに気づいたこと。それから問題の切り分けがうまくなりましたね。ハグチェキとかが出てきても、チェキが楽しいのはわかるし、それをやめて欲しくはない、趣味を奪いたくはないんですよ。だからといって、見なかったことにしても自分が溜め込んでしまうんですね。結局は「うまく隠してくれ」って方向になりました。

――夫婦間でルールを決めることが大事なんですね。

藍 そうですね。守ってはもらえないですけどね(笑)。うちでは「模範的な夫」を想定して、それに近づいていこうとしています。そのためにルールがあるみたいな。そのイメージを共有して分かってもらえるようになりました。

――結婚前と結婚後で意識が変わったことはありますか?

藍 私よりも夫が、結婚後テンション高くなりました。「妻をもらったぞー!」みたいな。だからそこに私がつけこんでる形です。ただ、ヲタ活に関しては結婚したことよりも、夫が応援していた「BiS」の解散前後での変化の方が大きかったかも(笑)。

――ロフトプラスワンでのイベント「藍さんの芸能音楽研究部」開催に至った経緯を教えてください。

藍 『ミリオンドール』のアニメ化をした時に、マリ子役をやってくれた声優の伊藤美来ちゃんが、スタイルキューブさんという事務所の所属で。私はその事務所の「ゆいかおり」とか「StylipS」のヲタクをしてたことがあったんですね。それで「嬉しいです」っていう話をいろんなところでしていたら、スタイルキューブの社長のたかみ(ゆきひさ)さんから声がかかりまして。それで一緒に飲んで意気投合していくうちに「じゃあやりましょう」みたいになった感じですね。最近は私もたかみさんも忙しくなっちゃったので、次はお互い落ち着いてから再開したいです。

――そのイベントも含めて、アイドルの方々とお仕事される機会があるか思います。実際にお会いしてみるとどんな感じになりますか?

藍 まだ自分でもスタンスを決めきれていないんですが、でも基本的には「仕事モードでいこう」とは思っています。あと、向こうの出方もちょっと見ますね。若くてモジモジしてたりしたら「これはスタッフのお姉さんモードでいこう」と思ったり。

 今回の本の関係では、対談相手の(ファーストサマー)ウイカさんとか、帯にコメントを寄せてくれているプー(・ルイ)ちゃんはトークが上手いので、かなり楽をさせてもらってますね。私は同性だからかもしれませんが、アイドルの女の子は特に年上になるほど、距離感は大事にした方がいいと思っています。上手い仕事の距離感を作ってあげたほうが、やりやすいんだろうなと考えています。

――マンガの中では藍さんの“推し”として「東京パフォーマンスドール」の小林晏夕ちゃんが描かれてますが、他に最近注目しているアイドルはいますか?

藍 小林晏夕ちゃんはこれからもずっと応援しているし売れてほしいと思ってますが、旦那の影響で見てるグループの中では、「BILLIE IDLE」が一番好きですね。自分から現場に行ったところだと、この前「sora tob sakana」の「月面の音楽隊」を見て。生バンドとかVJとかの使い方が繊細で、世界観があってすごく良かったです。あとは、知人から紹介されて「Summer Rocket」のライブに行ったんですけど、昔の曲のカバーとかされてて、歌ってる感じが正統派で面白いなとか。

 個人的に応援したいのは、里咲りさちゃん。一人で作詞、作曲、アイドル社長と、全部やれるのはすごいなと。自我を持って自分でやれる子はすごいと思います。

――夏のアイドルフェスなどは行かれますか?

藍 行きたくて仕方がないです! アイドル横丁、@JAM、TIF、全部行こうと思ってます。忙しかったので、夏くらいは遊びたいです!

――アイドルを追いかけているモチベーションはどんなところから生まれてくるのでしょう?

藍 アイドル関係の方と仕事をすることが増えて、関係者の方と仲良くなって顔を知っていくと、仕事じゃない現場でも大人としての責任を感じて、ヲタクとして無責任には楽しめなくなるんですよね。たまに周囲から「ぬるいぜ!」とか「自分を曲げるんじゃない!」とか言われます(笑)。だから夫をネタにしてマンガを書いたりして、自分も一緒にヲタクしてるような気になってます。あとは、仕事に関係のない現場にこっそり行って、いいライブが見られたら満足しますね。

 2011年くらいまでは、フリコピしたり、1回だけリフトされたこともあったんですけど(笑)、それが楽しかったなって。その思い出があって、しばらく生きていけるなとは思ってます。今はこういう仕事をしてて、その時とは違うフェーズに自分が行ってしまったので、ジレンマはあるんですけど、旦那が楽しそうにしているのを見て、自分も満足してるみたいな感じですね。

――好きなアイドルの卒業や、解散の時、どのような気持ちになりますか?

藍 「AeLL.」の解散などはショックでした。でも、きっと今も続いてたら、いいだけじゃない面も見なきゃいけなかった気がするんですよね。解散当時はすごく寂しかったんですけど、今思えば、いい思い出で残ってくれてるのがすごく良かったなって思います。西(恵利香)さんのソロも素敵だし。

――逆に売れちゃったりした場合はどうでしょう?

藍 AKB劇場に通っていたんですが、チケットの抽選に当たらなくなった時は考えましたね。それまでは、応募すれば当たっていて、毎回見た上で定点観測するのが楽しかったので、私は一番劇場公演が好きだったんだなって。「これからどうやって生きていけば?」みたいな感じになりました。その後「食わず嫌いしないで、色んなところを見に行けばいいんだ!」って気づいて、そこから「東京女子流」とか他のアイドルを見に行くようになりました。

――藍さんの活動は、アイドル業界を底上げしてくれていますよね。

藍 Twitterで読者の方から「『これに描かれてるヲタ夫みたいな人がいるんだから、自分なんかまだいい方だよ』って妻を説得するために見せた」っていう反応があって(笑)。それが成功したなら、私いい仕事したなと。結婚して苦労してる人は友達にもいるので、何かの足しになれば、ちょっと嬉しいかもしれません。

――藍さんにとって、アイドルとはどういう存在ですか?

藍 昔からずっと好きだったので、“日常にいるもの”という感じですね。私は、高校生ぐらいからマンガの仕事をしていたのですが、同世代で仕事をしている女の子のロールモデルが周りになくて。なので自然と松浦亜弥ちゃんとか、「モーニング娘。」とか、同世代の子が同じ時代を頑張っている姿が励みになりました。彼女たちを見ていると自分も頑張れる、そんな存在です。多分、これからもずっと好きなんだろうなと思います。

――ヲタク同士で結婚して、一番良かったことは何でしょう?

藍 いい意味で、個人主義でいられるところですかね。普通のカップルだったら許されないことが許される。旦那は、ヲタク友達だけで遠征に行くので、私も同じことができる。そんなの普通のカップルだったら許されないですからね。私の友達はヲタクとはいえ男性が多いのに、全く心配されない(笑)。

――最後に、これを読んでいる方々にメッセージをお願いします。

藍 ヲタ活は多分、独身の方がはかどると思います(笑)。でも、結婚しても続けることはできるので、あきらめないでください!

***

 お話を伺って、アイドルに対する深い愛情と、結婚という現実を冷静に分析した客観性が印象的であった。その力を遺憾なく発揮して『ヲタ夫婦』という作品が生まれたのだと思う。

 アイドルヲタクの方はもちろん、一般の方にもぜひ読んでいただきたい一冊である。

(取材・文/プレヤード)


■『ヲタ夫婦アイドル ヲタクな2人はこうして結婚できました。』
著 者:藍  Twitter @ai_indigopro
出版社: 出版ワークス
価 格:1,080円(税込)
http://spn-works.com/p_wotafufu.html

■cakes 連載『ヲタ夫婦 ~アイドルヲタクの結婚生活~』
https://cakes.mu/series/3704

最終更新:6/21(水) 20:01
おたぽる