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インドも宇宙大国へ!新型の大型ロケットの打ち上げに成功

6/21(水) 16:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 インド宇宙研究機関(ISRO)は6月5日、新型ロケット「GSLV Mk-III」の試験打ち上げに成功。搭載していた通信衛星を予定どおりの軌道に投入した。

 同国のプラナブ・ムカルジー大統領は「この重要な成果を誇りに思う」と述べ、開発にかかわった科学者や工学者、技術者たちを讃えた。

 インドが宇宙開発において有力な国のひとつに数えられるようになって久しいが、これまで保有していたロケットは、世界の水準と比べてやや能力が低く、大型の高性能な衛星を開発しても、自国からの打ち上げはできなかった。

 しかしこのGSLV Mk-IIIの誕生により、いよいよインドは大型の人工衛星を自力で打ち上げることが可能になり、さらに他国からの商業打ち上げ受注の可能性も出てきた。そして大型の月・惑星探査機や有人宇宙船の打ち上げといった、宇宙大国へ向けた未来も見えてきた。

◆インドの宇宙開発の歩み

 インドは比較的早くから宇宙開発、宇宙利用の可能性に目をつけていた。1980年には自国で開発したロケットで、人工衛星の打ち上げに成功している。これはソ連の人工衛星の打ち上げ(1957年)や米国(1958年)から約20年、日本や中国(1970年)から10年遅れだった。

 その後、インドはフランスやロシアなどからロケット技術を導入して徐々に力をつけ、1990年代に小型・中型の低・極軌道衛星(地球観測衛星や偵察衛星)を打ち上げられる「PSLV」というロケットの開発に成功。続いて2000年代には、小型の静止衛星(通信や放送衛星)などを打ち上げられる「GSLV」ロケットの開発にも成功し、これまで目的に合わせて、このPSLVとGSLV(のちにGSLV Mk-II)の2種類のロケットを使い続けてきた。

 しかし、「小型・中型の衛星を打ち上げられる」と書いたように、PSLVやGSLVの打ち上げ能力はやや低く、大型の低軌道衛星や、中型以上の静止衛星を打ち上げることはできなかった。インドは人工衛星の開発でも高い技術をもっており、中型の通信・放送衛星を製造する技術もあったものの、それを打ち上げられるロケットがないために、欧州などに打ち上げを発注するしかなかったのである。

 これは宇宙開発におけるインドの自立性という点で大きなネックとなっていた。大型の衛星の打ち上げを他国に頼らねばならないということは、たとえばその国との関係が悪化すれば打ち上げは止まるし、さらに足元を見られて打ち上げ費用をふっかけられることもありうる。

 そこで開発されたのが、大型・中型の衛星も打ち上げられる能力をもった大型ロケット「GSLV Mk-III」だった。

◆ゾウも打ち上げられる大型ロケット「GSLV Mk-III」

「Mk-III」とつくと、なんとなくマイナー・チェンジな感じも受けるが、実際には、新型の大型固体ロケットを開発したり、エンジンを束ねて2倍のパワーを出せるようにしたりと、打ち上げ能力を大きく向上させるためさまざまな技術が投入され、これまで運用されていたGSLVとはまったく異なる機体になっている。

 GSLV Mk-IIIは、4トンの静止衛星を打ち上げられる能力をもつ。従来のGSLVの打ち上げ能力は約2トンだったので、単純に2倍になった。ちなみに4トンというと、大人のインドゾウとほぼ同じ重さなので、インドのメディアでは「インドゾウも打ち上げられるようになった」と表現されることもある。

 もっとも世界には7トンの静止衛星を打ち上げられるロケットもあるので、4トンという数字はそれほど大きなものではない。しかし放送・通信衛星には3~4トンのものも多いので、ほぼ十分な能力といえよう。

 GSLV Mk-IIIの開発において、とくにインドが力を入れ、そして困難をきわめたのは、衛星を最終的に軌道へと送り込む第3段エンジン「CE-20」の開発である。

 このエンジンは液体酸素と液体水素を燃やして動くエンジンで、高い性能が期待できるものの、開発と運用はきわめて難しい。とはいえ、米ソは1960年代に、欧州や日本、中国も1980年代までには実用化しており、インドにとっては是が非でも手に入れたい技術でもあった。

 インドはもともと、このエンジンの技術をロシアを通じて手に入れる計画だった。実際に完成品のエンジンが輸入され、宇宙を飛んでもいる。その後インドは、ロシアから技術導入を受け、まず輸入していたエンジンを国産化し、そしてゆくゆくはより性能のよいエンジンを自力で開発しようとしていたが、米国からミサイル技術管理レジーム(MTCR)に抵触するという警告を受けたために頓挫。結局、最初から自力で開発せざるを得なくなった。そして10年以上の歳月をかけて完成させたのがCE-20である。

 今回が初めての飛行となったCE-20だが、問題なく順調に動き、衛星をほぼ予定どおりの軌道に投入することに成功している。

◆GSLV Mk-IIIがもつ大きな可能性

 GSLV Mk-IIIはまだ試験打ち上げの段階だが、今後本格的に運用が始まれば、インドの宇宙開発はさらなる進化をとげることになろう。さらに第2段エンジンを改良する計画もあり、それが実現すれば打ち上げ能力はさらに向上し、大型の静止衛星の打ち上げも可能になる。

 すでにインドは、小型から中型まで、地球観測から測位、通信や放送まで、多種多様な人工衛星を開発する能力があり、月や火星探査機を開発する能力ももつ。ここにGSLV Mk-IIIが加われば、そのすべてをインドの地から、インドの力だけで打ち上げることができるようになり、宇宙開発において他国を頼る必要がなくなり、ほぼ完全な自立を果たすことになる。

 また、GSLV Mk-IIIは他国の同性能のロケットと比べて安価であるといわれており、インド国内の報道では6000万米ドルほどとされる。これは他国の同性能のロケットより数割安価で、低価格さを売りとするイーロン・マスク氏率いるスペースXのロケットとほぼ同じくらいである。

 この安さにより、自国の打ち上げのみならず、他国の企業などから衛星の打ち上げを受注する「商業打ち上げ」でも活躍することになるかもしれない。すでにインドは、小型衛星の商業打ち上げでは大きな存在感を発揮しており、実績も多い。その波が中型衛星まで広がることは難しくないだろう。

 もっとも、インドのロケットが安価なのは、そもそもインドの物価が安いことが最も大きいため、今後の経済成長などを考えると、ずっと安価であり続けるというわけではない。それでも、欧州や日本など、すでに商業打ち上げに参入している国や企業にとっては、決して小さくない脅威になろう。

◆GSLV Mk-IIIでインドは宇宙大国への道を進む

 さらにISROは、GSLV Mk-IIIを使った大型の月・惑星探査機の打ち上げや、さらには有人宇宙船の打ち上げも計画している。

 インドはすでに、2008年に月探査機を、2013年には火星探査機の打ち上げに成功し、大きな成果を残している。さらに2014年には、GSLV Mk-IIIの実験打ち上げの際に宇宙船の実験機が打ち上げられ、宇宙飛行に必要な技術の実証が行われている。GSLV Mk-IIIが完成すれば、こうした宇宙活動の幅も質も、より大きくなるだろう。

 インドはかねてより、宇宙開発において長期的な戦略を立て、多くの予算を投入したり、人材の育成を行ったりと、宇宙大国を目指した、しっかりとした宇宙政策を進めてきてきた。今回のGSLV Mk-IIIの成功は、その蒔いた”種”が順調に育ち、成果が出つつあることを示している。さらに新型のエンジンの開発や、スペースシャトルのような再使用ロケットの開発も進むなど、その活力はいまだ衰えを見せていない。

 今後もインドがこの道を歩み続けることができれば、米国やロシア、中国などと並ぶ、宇宙大国へのし上がることもできるだろう。それは日本の宇宙開発における地位の相対的な低下や、中国との緊張が高まるという可能性もある。願わくば、そうした危惧を乗り越えて、インドという独自の歴史と文化をもつ国が宇宙大国になり、人類全体の科学・技術の進歩、そして人類の宇宙進出にとって大きく貢献することを期待したい。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】

・First Developmental Flight of India’s GSLV MkIII Successfully launches GSAT-19 Satellite – ISRO(http://www.isro.gov.in/update/05-jun-2017/first-developmental-flight-of-indias-gslv-mkiii-successfully-launches-gsat-19)

・GSLV Mk III – ISRO(http://www.isro.gov.in/launchers/gslv-mk-iii)

・GSLV Mk III-D1/GSAT-19 Message from President – ISRO(http://www.isro.gov.in/update/13-jun-2017/gslv-mk-iii-d1-gsat-19-message-president)

・LVM3 X / CARE – ISRO(http://www.isro.gov.in/launchers/lvm3-x-care)

・ミサイル技術管理レジーム | 外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html)

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最終更新:6/21(水) 16:00
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