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エリザベス女王にも愛想を尽かされた?メイ英首相が誰からも嫌われる理由 - 木村正人 欧州インサイドReport

6/22(木) 15:00配信

ニューズウィーク日本版

<施政方針演説で女王が王冠と純白のローブを身につけなかったのはメイ政権を見限ったからか。かつての部下は、メイは元々英首相の器ではなかったと明かす>

[ロンドン発]イギリスの首相テリーザ・メイ率いる保守党がまさかの過半数割れに終わった総選挙を受け、6月21日に議会が開会し、エリザベス女王が政府の施政方針を読み上げる伝統の「女王演説」が行われた。いつもは荘厳な馬車に乗り、大英帝国王冠に純白のローブという出立ちの女王が、青色のコートで現れたのには驚いた。

暗雲が垂れ込めるイギリス

ドレスダウン(簡素化)した女王演説は1974年以来のことだという。ちなみにその後財政危機に陥ったイギリスは76年、国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けている。欧州連合(EU)側との離脱交渉が始まった今のイギリスにも暗雲が垂れ込めているのは言うまでもない。

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女王演説は当初19日に行われる予定だったが、2日ずれ込んだ。軍旗分列行進式との間があまりなかったので、女王演説は簡素化せざるを得なかった。

総選挙の過半数割れという結果を受け、少数政権発足を発表するメイ(6月9日) Masato Kimura

EU離脱交渉で「悪い合意ならしない方がマシ」と大見得を切っていたメイもハード・ブレグジット(EUの単一市場だけでなく関税同盟からも離脱)からソフト・ブレグジット(単一市場や関税同盟へのアクセスをできるだけ残す)に方向転換せざるを得なくなり、施政方針を調整するのに手間取ったのが原因だ。

がしかし、エリザベス女王がドレスダウンした理由はそれだけだろうか。筆者にはブレグジット(イギリスのEU離脱)の舵取りが定まらないメイに対する批判も込められているように感じられる。それとも女王は政権が長くないとみて、メイを見限ったのだろうか。

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息を吹き返したソフト・ブレグジット派

総選挙で完全に窓際に追いやられていたソフト・ブレグジット派、財務相フィリップ・ハモンドは保守党内でメイ批判の急先鋒に立ち、「昨年6月、イギリスの有権者はEU離脱に投票したが、貧しくなることや不安定になることに投票したわけではない」と反転攻勢の狼煙を上げた。首相と財務相の対立がここまで鮮明になるのは、かなり危機的だ。

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キングス・カレッジ・ロンドンの教授アナンダ・メノンが主宰する研究グループ「変わりゆく欧州の中のイギリス」は最新の報告書の中で、イギリスがEUを離脱すれば対EU貿易は40%減り、国内総生産(GDP)も3%縮小すると指摘している。

予算責任庁(OBR)の推定によれば、2021年までに移民の年間純増数を26万5000人から18万5000人に減らせば、財政は年60億ポンドの打撃を受け、さらに10万人にまで減らせば同じような影響が出るという。

メイらハード・ブレグジット派に金融緩和策を徹底的に攻撃されてきた英中央銀行、イングランド銀行総裁マーク・カーニーは「ブレグジットは雇用削減と物価上昇、賃金カットをもたらす。貧しい人から影響を受ける」と述べ、年率2.9%に達したインフレを抑えるための利上げを見送った。利上げすると景気減速に拍車がかかる恐れがあるからだ。

ハード・ブレグジットを思いとどまるようメイを批判する市民 Masato Kimura



どうしてメイのリーダーシップはこれほど迷走するのか。メイが内相だった時代に、部下として仕えたことがある元国家公務員の友人にどこに問題があるのか解説してもらった。

「私が仕えた6~7人の内相の中で、メイはリスクを取ることを避け、ネガティブな報道や批判を嫌い、内務省職員や彼女のインナーサークル以外の人を十分に信頼しないという3つの特徴があった。このため、メイは決断を避けるか、決断したとしても極めてまずいものになってしまう」

「内相時代、メイはほとんど何もしていない。最大の理由はメイがリスクを恐れていることだと思う。メイが内相に就任したとき、内務省は非常に大きな問題を抱えていた。移民の数がうまくコントロールされておらず、『イー・ボーダー(電子国境)』と呼ばれる出入国管理システムの構築はどうなるか分からなくなっていた。警察官の不満はたまり、士気は最低だった」

「内務省はもう何年も上級管理職のパフォーマンス不足に悩まされており、私たちはどの部門の歳出をカットするのか、大胆に決断して変化をもたらす指導者を求めていた。こうしたすべての問題を解決するためにはリスクをとる必要があったが、メイにはその覚悟がないことがすぐに明白になってきた」

大局を見ず、失敗を恐れる

「実際、どの決断をするのも難しかったが、メイに決断を求めるため説明資料を送ると細かい質問が山ほど返ってきた。その大半は全く意味のないものだった。質問の山を見れば、メイが大局を見ることができず小局にとらわれすぎ、失敗を怖れるタイプの人間であることは一目瞭然だった」

メイの退陣を求める市民 Masato Kimura

「メイは私たちが行動を起こすために求めている決断を行わないように見えるばかりか、もっともっと細かい質問が付け加えられたペーパーをやり取りして、しばしば数カ月も待たなければならないことがしばしばあった。実際に私が関わった仕事では散々、待たされたあげく、決断は行われないまま、お蔵入りとなってしまった」

「2番目の問題はメイが自分に対してネガティブな報道を嫌っていることだ。何かがうまく行かなくなった時、彼女は閣外担当相(日本でいう副大臣)に質問に答えさせ、自分は陰に隠れていた。陰に隠れることができない時、彼女は自分の立場を守るために自分の部下に責任をなすりつけた。彼女は批判を浴びた時、パニックに陥り、分別を失うのだ」

「3番目の問題は、メイが扱いやすいインナーサークルの人たちを抱え込むのが好きなことだ。外部グループの意見には一切、耳を貸さない。メイが内相に就任してから数年が経ち、内務省でも上級管理職でさえ一体どうなっているか全く知らないことを公に認めることがあった。下級職員は完全に蚊帳の外だった」

「彼女が首相になるのが確実になった時、私は怖れおののいた。彼女は内相時代と同じように取り巻きを集め、すべてをインナーサークルの中で話し合い、決断するのを避けるだろうと疑った。もし彼女が決断したら、それは間違ったものになるだろう。彼女が首相になって、この怖れは現実のものになった。リスク回避、批判への怖れ、周囲への不信頼はメイの性格と切っても切り離せないものだ」

「すべてのリーダーシップはパーソナリティーによって形作られる。メイがそれを変えようと思っても変えることはできないのだ」

この友人はメイが首相になった当初から何度も繰り返し問題を筆者に指摘してきた。それが現実になろうとは夢にも思わなかった。

木村正人

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