ここから本文です

マクロン新党の勝利の意味 - 鈴木一人 グローバル化と安全保障

6/22(木) 17:00配信

ニューズウィーク日本版

<フランス国民議会選挙は、フランスの政党政治の衰退を決定的なものにし、フランスの有権者が持つ、政治エスタブリッシュメントに対する批判をこれ以上ない形で表現した。マクロンは、果たしてこれから何をもたらすのか>

6月18日に第二回目投票が行われたフランスの国民議会選挙は、事前の予想通り、マクロン大統領が結成した新党の「共和国前進(La République en marche!:正確には「前進する共和国」と訳すべきだが、新聞等の表記に従う)」と、その友党である中道の「民主運動」が圧勝した。といっても、事前の予想では8割の議席も獲得しうるとみられていたが、結果としては350議席と6割程度の議席となった。

しかし、「共和国前進」はマクロンが大統領選に出るために結成した新党で、一年前まではその存在すらなかった政党であり、マクロンが大統領選で当選した直後ですら、国民議会での議席を確保することが困難で、大統領としての政権運営に制約が生まれるとみられていた。そんな状況であったにも関わらず、これだけの躍進を遂げた「共和国前進」の存在は、これからのフランス政治の何を示すのであろうか。

政党政治の溶解

今回の国民議会選挙でもっとも大きな特徴というのは、やはり投票率の低さ(フランスでは棄権率の高さと表現される)であった。約42.6%という、第五共和制が発足してから最低の投票率であり、これまでの最低であった2012年の国民議会選挙の55.4%を下回り、50%を切るという大幅な落ち込みである。その背景には、フランスにおける政党政治が「溶解」していったという歴史的に大きな転換があったからではないかと考えている。

メディアや世間の注目はイギリスのEU離脱やアメリカのトランプ現象がヨーロッパ大陸にも波及し、フランスにおけるポピュリスト運動が選挙を席巻する、いわゆる「ルペン現象」と言われた、国民戦線の躍進が懸念された。

結果として、マリーヌ・ルペンは決選投票には残ったが投票総数の3分の1しか得ることが出来ず(それでも1100万人という大きな数字ではあるが)、マクロンの前に敗北した。また、今回の国民議会選挙でも、前回の2議席よりは多い8議席を獲得したが、法案提出のための会派を組むほどの規模にもならなかった。その意味では、フランスにはポピュリスト旋風は巻き起こらず、「ルペン現象」は不発に終わった。

しかし、重要なのはルペンが負けたことではない。むしろ、そのルペンを止めることが伝統的な左右の政党に出来なかったことが重要である。

右派の共和党は大統領選挙の予備選でフィヨンを選出し、選挙戦中にスキャンダルが続出したにもかかわらず、個人的な野心をむき出しにして大統領選を継続し、全く振るわなかった。

左派の社会党はオランド大統領の政策に対する反発と飽きが来ており、ヴァルス首相の人気も上がらず、予備選でアモンを選出したことで、多くの有権者の心が離れ、大統領選でも惨敗し、国民議会選挙では283議席から45議席(中道左派諸派を含む)と大量の議席を失った。共産党も退潮傾向を回復できず、メランション派と言われる「不屈のフランス」党に取って代わられる状況であり、中道の「民主運動」はマクロンの政治運動である「共和国前進」に吸収される形となった。



こうした伝統的な政党が軒並み支持を失い、マクロンやルペン、メランションの台頭を許したのは、伝統的な政党が問題解決の手段を提示することが出来なかったこと、また、それは現在フランスが直面している問題が、これまでのようなイデオロギー的な問題ではなく、現実にグローバル化とどう向き合い、どのように対処していくのかということに焦点が当たっているにもかかわらず、単純な一国主義的な解決や、旧来の枠組みの中で自らの政治的野心を実現しようとする傲慢さに映ったことが原因と考えられる。

つまり、今回の大統領選、国民議会選挙で明らかになったのは、これまでの政治エスタブリッシュメントの現状認識の甘さと傲慢さ、それに対する有権者の失望、そして危機的な状況に置かれているにもかかわらず、自己変革することが出来なかった政党政治の姿である。

政治が一部エリートの独占的な所有物となり、国民がどのように抵抗しても、その仕組みは動かず、また政権に対して批判的な知識人や評論家でさえ、エスタブリッシュメントの側にいるとみられるような状況になっている。

これは「ルペン現象」だけがポピュリズムなのではなく、ルペンもマクロンもメランションもポピュリスト的な環境の中で勢いを得た政治家であることを示唆している。マクロンが勝利したのは、この三人のポピュリストの中でもっとも穏健で、もっとも信頼できる存在に見えたからであり、もしマクロンがいなければ、ルペンとメランションが政治をリードする状況であった、と言えよう。

実際、社会党からも共和党からも選挙期間中にマクロン大統領を支持することで選挙戦を有利に戦おうとする動きが活発となり、両党ともそうした背信的行為に対して制裁を加えようとしたが、それすら実現しないほど力を失っており、国民の意識はこれらの既存政党から離れていったことを如実に示していた。

言い換えれば、今回の大統領選、国民議会選挙はいずれも既存の政党、既存のエスタブリッシュメントに対する反発であり、これまでの政党政治のあり方を否定する選挙であったと言えよう。故にマクロンが大統領選で勝利したことを受けて、彼の政策を消極的にでも支持する人々が国民議会選挙でも「共和国前進」に投票し、マクロンの政治に何はともあれ期待した、ということが言えるだろう。それは図1に見られるような、大統領選挙の第一回投票と国民議会選挙の第一回投票の票差にも表れていると思われる。


図1 大統領選第一回投票と国民議会選第一回投票の各候補とその所属政党の得票数
出典)https://twitter.com/mathieugallard/status/874196099178909699

これを見る限り、マクロンが第一回投票で獲得した票数と「共和国前進」および「民主運動」が獲得した票の差は133万票とそれほど大きくないのに対し、ルペンの得票と「国民戦線」の得票は469万票近く、またフィヨンと「共和党」及び中道右派は233万票、メランションと「不屈のフランス」および「共産党」の差は395万票と非常に大きい。

得票数の絶対値であるため、国民議会選挙で棄権が多く、総投票数が少なかったことを考えると、マクロン/共和国前進・民主運動の落ち込みは小さいことが目立つ。また左右の極に位置するルペン/国民戦線とメランション/不屈のフランス・共産党が大きく票を失っているところを見ると、個人としての大統領候補に魅力は感じるけれども、政党としては左右の極に位置する政党に信頼を寄せることは出来なかったこと、また、大統領選でマクロンが当選したことで、政権運営を容易にするためにも中道寄りの政党に票が集まったとも言えるだろう。



かといって、既存の政党に大きな信頼を寄せたのかと言えば共和党の落ち込みに見られるようにあれだけ苦戦し、票を失ったフィヨンよりも得票数が少なく、アモン/社会党に至っては大統領選第一回投票から超低空飛行が続き、その存在すら認められない泡沫政党化したことを示している。

マクロンが目指すもの

大統領選で大勝し、国民議会でも「共和国前進」で単独過半数を獲得したマクロンは、果たしてこれからの5年間で何を成し遂げ、何をもたらすのであろうか。

一つには、より積極的な欧州統合、とりわけ仏独関係の強化が考えられる。マクロンが目指す新しいフランスとは、これまでのようにドイツに従属し、自らの運命をグローバル化とドイツが主導するEUにゆだねるフランスではなく、積極的にフランスの利害を欧州で実現し、ドイツと交渉して緊縮財政を緩め、欧州の競争力を強化し、その結果としてグローバル化に対抗するフランスである。

マクロンの意識の中には、フランスやヨーロッパに対する非常に強い楽観と、イギリスのEU離脱や保護主義的な政策と自国中心主義をとるアメリカに対する懸念を持つドイツとの問題意識の共有、そして仏独を中心とした欧州の再建を手がけることで、現在フランスが抱えている様々な問題を解決し、国民に自信と希望を与えることがあると考えられる。

実際、9月に行われるドイツ総選挙ではこのまま行けば、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が政権を維持するとみられており、マクロンとメルケルが協力してイギリスのEU離脱をマネージし、アメリカと対抗する欧州を再建することができれば、マクロンが目指すフランスの姿は、夢物語ではなく、現実的に想定可能なレベルにあると思われる。

しかし、こうした「親ヨーロッパ」の姿勢は、即、EUを肯定するというものではないと思われる。マクロンが目指す欧州再建は、ポーランドやハンガリーなど、EUに敵対的な姿勢を見せる国に妥協することはなく、マクロンが提示するビジョンに共感・共鳴する国を集めて前に進むという「二速度のヨーロッパ」ないしは「多速度のヨーロッパ」であろう。

マクロン首相は早速イギリスのメイ首相とも会談したが、それはイギリスを引き留めるためのものではなく、イギリスがEUを離脱したとしても良好な関係は保ちつつ、イギリスの自国優先的な態度に対しては突き放した関係を保つという事でもある。つまり、マクロンはあくまでもフランスのための「親欧州」なのであって、「親欧州」が目的という訳ではない。

また、マクロンの目指すフランスは、これまでの既得権益やイデオロギーに彩られた政策ではなく、プラグマチックに問題を解決していくための政策を推進するというものになるだろう。

その象徴的なものは、労働時間の改革である。これまで社会党政権の元で35時間に限定されてきた労働時間の規制を緩和し、より自由な労働の仕組みを導入することになるであろう。これに対しては様々な反発があるだろうが、マクロンは大統領選挙期間中に見せたように、労働者との対話を恐れず、自らの信ずるところを長い時間かけて説得することになるだろう。それで国民の支持を失うとしても、妥協することはないであろう。彼の目指すものは、そうしたイデオロギーに凝り固まり、問題解決の方法を自ら見いだせない人たちを啓蒙していくことであるからだ。

それは結果としてマクロンを不人気な大統領にする可能性もあるが、それ以上に、フランスが直面する閉塞感を打破し、新しいフランスの可能性を感じさせることで、グローバル化していく世界に対して柔軟に対応出来るフランスへと変革させることになるであろう。



しかし、それはマクロンがイデオロギー的にネオリベラルな政策を押しつけると言うことにはならない。マクロンはイデオロギーで問題を解決しようとしているのではなく、あくまでもプラグマチックに問題を解決しようとしている。なので、部分的にはネオリベラルのように見える政策もあるだろうが、他方で貧困の救済や貧富の格差の是正、移民問題の解決と行った、リベラルな政策も展開していくものと思われる。それはマクロンが信念のない政治家だからではなく、問題を解決するために(マクロンが考える)最善の選択をとり続けるという信念なのである。

フランス政党政治の行方

大統領選でのマクロンの勝利、そして国民議会選挙でマクロン新党が過半数を獲得したことは、フランスの政党政治の衰退を決定的なものにし、フランスの有権者が持つ、政治エスタブリッシュメントに対する批判と忌避感をこれ以上ない形で表現したものと言えよう。では、このままフランスの政党政治は衰退し、エリートを排除した「素人政治」に支配される政治となっていくのであろうか。

鍵となるのは、「素人政治」がきちんとした統治を行うことが出来るかどうか、というところにある。すでにマクロン大統領に任命された閣僚が4人も政権発足から一ヶ月程度で辞任するという異例の事態となっている。マクロン新党である「共和国前進」と連立を組む「民主運動」の党首でありマクロン大統領の盟友であったバイルー法務大臣、また同党のドサルネズ欧州問題担当大臣、グラール国防大臣が、そして「共和国前進」でマクロン大統領の右腕とも言われるフェラン国土整備大臣が辞任した。

「共和国前進」だけで単独過半数を獲得しているため、「民主運動」の協力は必ずしも必要ではなく、3人の大臣がいずれもスタッフの任務を虚偽報告し、不正に給与を受け取っていたとの疑いで辞任したことは、マクロンとしては計算のうちだったのかもしれない。しかし、「共和国前進」の事務局長としてマクロンを支え、政治経験は浅いが有能なスタッフであったフェランまで失うことになったのはマクロン大統領としては痛手であろう。

国民議会選挙を受けて内閣改造を行うことは既定路線であり、この時期の閣僚辞任がマクロン政権を揺るがすことはないであろうが、こうしたスキャンダルは「マクロン・チルドレン」である議員の中からも出てくる可能性は高い。バイルーは閣内では珍しく政治経験が豊富な政治家で、様々なスキャンダルを抱えている、典型的なエスタブリッシュメントではあるが、ドサルネズ、グラールとも欧州議会議員としての経験が長く、フランス国内政治の中核にいたわけではないため、スタッフの虚偽申告などの不正に関してもあまり追求されてこなかったが、大臣になった途端に炎上する事態となった。

「共和国前進」は一年あまりで作り上げた急造政党であり、国民議会選挙の候補者の選出過程も十分な時間をかけ、熟慮の結果選んだわけではないため、叩けば埃が出てくる議員も少なからずいるであろう。こうした「素人政治」に振り回され、政権運営もままならない状況になれば、結果的に有権者の心は離れ、「素人」よりも「玄人」であるエスタブリッシュメントによる既存政党に戻ってくる、という可能性もある。

また、既存の政党がこれまでの傲慢さを捨て、有権者のニーズをくみ取り、グローバル化と統合を進める欧州において、どのようなプラグマチックな問題解決を提供できるか、ということも鍵である。マクロン政権がどの程度プラグマチックな政策を打ち出し、実現することが出来るかどうかにもよるが、マクロン政権が失敗した時の受け皿となって、代替案を提示できるかどうか、そうしたマインドを持ち、政策を提案できるかどうかが既成政党の将来を決めていくことになるであろう。

こうした、フランスの政党政治の衰退とマクロン新党の旋風は、同じくグローバル化する世界に直面する日本にも共通する問題である。イデオロギーに縛られない新たな政治を提案するマクロンに対し、既成政党が対抗出来るだけの柔軟さと新しいアイディアを出せるかどうか、そして国民からの信頼を得られるかどうかを見ることで、日本の政党政治にも様々なヒントを得ることが出来るのではないだろうか。

鈴木一人

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ニューズウィーク日本版

CCCメディアハウス

2017-8・15号
8/ 8発売

460円(税込)

他の日本のメディアにはない深い追求、
グローバルな視点。
「知とライフスタイル」のナビゲート雑誌。