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しゃにむに進めた本命の昇格、サウジ皇太子交代の背景

6/23(金) 11:20配信

Wedge

 サウジアラビアの皇太子にムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(31)が昇格することになった。この突然の交代劇は自分が元気なうちに息子を後継者に据えるというサルマン国王(81)のシナリオを実現したものだが、石油大国での若い権力者の誕生は内外に大きな衝撃を与えている。

次々と打たれた布石

 今回の人事は、国王が提案した王位継承や新皇太子を決定する組織「忠誠委員会」の支持を受け、解任された国王の甥、ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(内相)も支持したとされる。しかし唐突感は免れず、内外には驚きの声が広がった。だが、2015年1月のサルマン国王の就任以降の動きを子細に検証すると、息子のムハンマド副皇太子を後継者とする布石が次々と打たれていたことが分かる。

 国王は同年4月、当時の皇太子だった異母弟のムクリン王子を更迭し、甥のムハンマド副皇太子と交代させた。そして副皇太子に息子のムハンマド国防相(新皇太子)を就けた。この時点から国王はムハンマド皇太子を排除して、息子を皇太子にするつもりではないか、との憶測を呼んでいた。

 その後、ムハンマド副皇太子は国防相の肩書きを持ったまま、国営石油会社サウジ・アラムコを統括する最高評議会議長などの要職に就き、国王の訪米に同行。ホワイトハウスでのオバマ大統領(当時)との会談で、外交的な慣例を破って米国の外交政策を批判するなど率直な言動が注目を浴びた。

 この訪米以降から副皇太子が内外政策を牛耳り始め、隣国イエメンへの軍事介入を主導。内政的には、石油依存からの脱却を目指した国家改造計画「ビジョン2030」を発表、国民のほとんどが対象となる公務員の給与・賞与カット、年金の削減、燃料補助金の削減といった痛みを伴う改革に着手した。

 一方で、国王は内相だったムハンマド皇太子から国王へのアクセス権などを奪い、その影響力を次第に弱体化させた。皇太子は国内の国際テロ組織アルカイダ一派を壊滅させたことで評価され、米国と太いパイプを持っていた。皇太子の権限が縮小されたことに、皇太子支持派が反発。怪文書も出回るなど閉ざされた王国にしては珍しく、権力闘争の一端が明るみに出た。

 とりわけ最近になって、今回の皇太子交代に向けた3つの伏線があった。1つは、4月に行った“ソフト・クーデター”と呼ばれる人事だ。国王はこの人事で、駐米大使にやはり息子のハリド・サルマン王子(28)を任命、情報機関のトップにもムハンマド副皇太子(新皇太子)の側近を付け、逆にムハンマド皇太子派が多数更迭された。

 2つ目は、王族や国民から不人気だった公務員の給与や賞与の削減が撤回されたことだ。これまで削減された分も還付するという大盤振る舞いで、「今回の人事を見越して副皇太子の人気を回復する必要があった」(アラブ筋)ためだろう。副皇太子は理由として「原油価格が回復して国家の赤字が小さくなった」ことを挙げているが、原油価格は低価格のまま推移しており、説得性に欠ける。

 3つ目は、皇太子交代について、トランプ政権のお墨付きを得たからだろう。解任されたムハンマド皇太子はテロ対策に功績があり、オバマ前政権から高く評価されてきた。しかし、トランプ氏が酷評する前政権との良好な関係は、トランプ政権下ではマイナスでしかない。今回の人事をトランプ大統領が前もって了承していた可能性が高いだろう。

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最終更新:6/23(金) 11:20
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