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日本企業復権の劇薬「40代定年制」

6/23(金) 12:31配信

Wedge

 家電、携帯電話、半導体……かつて日本のお家芸だったものが次から次へと競争力を失った。こうなったのは日本企業の人事制度にも一つの要因がある。

 まずはなんといっても実力主義の組織ではないことが問題だ。歳を重ねるだけで偉くなり決定権限をもつ……世界を舞台にライバル企業としのぎを削っていかなければならないのに、こんな人事制度では戦いに勝てるわけがない。

 物の売買はリアル店舗からインターネットへ、自動車は人が運転しなくてもよい自動運転車へと進化を遂げようとしているように、世の中は常に進化し、次々に新しいものやサービスが誕生する。企業はそうした環境の変化にすぐさま対応していかなければならない。

 一般的に高齢者より若い世代のほうが、新しいものに対する関心は高いだろうし、拒否感は少ないだろう。社内でのしがらみも高齢者より少ないはずだ。

 そうした中で、年功序列で歳を重ねると偉くなり、決定権限をもつというのは弊害が大きい。

リストラ悲観論だけでは更なる悲劇を生む

 かつて私が勤めていたテキサス・インスツルメンツ(TI)では40~50歳が一つの区切りとなっており、
(1)今後もTIで昇進する人
(2)会社に残るが給与も待遇も下がる人
(3)リストラ対象の人
の3パターンに分けられた。

 40~50歳が事実上の定年となることにより、常に若い従業員が力を発揮できるようになっていた。こうした仕組みはTIに限ったことでなく、他の米国企業でもよく見られる。こうした話を日本ですると、「40~50歳でクビにするなんてかわいそうだ!」となり、それ以上話が進まなくなる。だが本当にそうだろうか?

* * *

坂本幸雄(さかもと ゆきお) サイノキングテクノロジーCEO、元エルピーダメモリ社長 日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツに入社。93年副社長。神戸製鋼所、日本ファウンドリー社長を経て、02年エルピーダメモリ社長。現在サイノキングテクノロジーCEO。

 組織の若返りを図らず、年功序列で上位ポストに上り詰めた高齢者が中心となって経営しているような組織はいずれ経営がもたなくなる可能性が高い。そうなると結果として大量のリストラが発生する。机上の空論でもなんでもなく、日本で頻繁に発生していることである。

 「お前は出世したからそういうことが言えるんだ!」というお叱りを受けそうだが、実は私は(3)のパターンに該当した。つまりTIから「必要なら就職の斡旋(あっせん)をする」等と言われてリストラされた人間だ。

 適材適所という言葉があるように、会社に残って出世をする(1)のパターンの人材のみが優秀かといえばそうとは限らない。TI時代の晩年は、社長レースに敗れたこともあり、そのまま会社に残っていれば、閑職に追いやられ特に仕事も与えられなかっただろう。

 しかし、TIを出たことによって、エルピーダメモリのCEOとなり、同社のDRAMのシェアを1・9%から19・9%に上げて、雇用の拡大などに貢献することができた。TIに残っていたら、仕事のモチベーションを保つことは難しく“廃人”になっていたかもしれない(笑)。客観的にみれば、TIにとっても「老害」が去り、若い活力のある組織になり、競争力が向上したと言える。

 今や売上高3兆円超を誇る世界最大の半導体製造ファウンドリである台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の創業者であり、「経営の神様」と崇(あが)められているモリス・チャン(張忠謀)董事長も私と同じTIのリストラ組である。TIが日本企業のような人事制度であれば、「経営の神様」は窓際族としてサラリーマン人生の余生を過ごしていたかもしれない。

 モリス・チャンのような大成功例だけでなく、他の企業へ移ってこれまでのキャリアを生かして活躍した元同僚も数多くおり、間違いなくそのままTIに残るよりもいい人生を過ごせているように思う。

 閑職について何年か経つと、その間にその人物の市場価値は暴落する。一線級で働いているときに会社を出ることにより、好条件で転職できるだろうし、活躍もできる。年功序列を前提とした制度の場合、ある程度の年齢になってから大量の従業員を「飼い殺し」にせざるを得ない。飼い殺された従業員は、企業が傾いたときにリストラされることになるが、そのときには第一線から遠ざかって何年も経つので、採用もされにくいし、活躍することも難しいだろう。

 企業の枠を超えて国家全体でみても、40~50歳を一つの区切りにすれば、大企業が必要以上に人材を抱えこむことはないし、成長産業に人が流れ、新産業が活気付く可能性もある。日本で存在感のあるベンチャー企業がなかなか出てこない背景には、こうした日本の人事制度も少なからず影響していることだろう。

 社長が基本的に一人しかいないように、企業の上位ポストの数は限られるため、日本企業で多く見られる年功序列、終身雇用を前提とした人事制度だと、大量に働く必要がない人材が出てきてしまう。

 「働かないおじさん問題」がときどき話題になるが、日本企業は社内失業者とも言うべき「働かないおじさん」を量産する仕組みになっているのだ。日本の大企業の人材囲い込みは国家全体でみると大きな損失を生み出している。

 今の日本は人手不足が深刻で、40~50歳でリストラ対象になったとしても、仕事がなくて困ることはない。今こそ40歳代定年制の議論をすべきである。

聞き手・構成/Wedge編集部 伊藤 悟

坂本幸雄 (サイノキングテクノロジーCEO、元エルピーダメモリ社長)

最終更新:6/23(金) 12:31
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