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“画面越しの世界”は、まっすぐ歩んだ道の先にある。二木康太の一軍への道のり【マリーンズドキュメント】

6/23(金) 12:27配信

ベースボールチャンネル

 プロ4年目を迎えた二木康太。今季は開幕ローテーションから外れたものの、ここまで4勝1敗で厳しい状況のチームを支えている。

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■体づくりに没頭するも、不安を抱いた1年目

 完投勝利が確定した瞬間、5月下旬のZOZOマリンスタジアムのマウンド。バッテリーを組んだ田村龍弘に頭をポンと叩かれ、二木康太はわずかに苦笑した。最終回に1点を与えて自身初の完封は逃したが、チームは見事勝利した。

 6月上旬には、8回途中1失点の好投で歓声を浴びた。ヒーローインタビューで自分の名を呼び続けてくれたファンに感謝を伝え、ハイタッチを交わすチームメイトの顔には、合わせる手の数だけ笑顔が並んだ。晴れた日のグラウンドは爽快で、二木は最後に群青を見上げた。いつかの自分が遠い場所から見ていた壮大な景色が、すぐそばに感じられた。

 あれはプロ1年目のこと。さいたま市内の二軍球場近くにある選手寮の食堂で、二木の視線は、まだ残っている目の前の食事とテレビ画面を往復していた。二軍はデーゲームが多いため、夜は一軍の試合中継が映される食堂で栄養を摂ることが日課だった。高卒の新人選手が身体を大きくすることは最優先課題だったし、苦ではなかった。

 ゆっくりと時間をかける夕食の風景には、いつだってテレビ越しに躍動する投手陣がいた。二木が食事の箸を止めることはなかったし、自分が取り組んでいることは未来の糧になると信じていた。ただ、画面の向こうで野球をする選手たちのことは、切り離されたような遠い世界にいる存在に思えてならなかった。

「(一軍の試合は)同じチームメイトではないような、不思議な気持ちで、すごいなと思いながら見ていました。自分は本当に大丈夫なのかな? という不安もありましたね」

 鹿児島から出てきたばかりの新人の二木に、二軍の先輩たちは球場でアドバイスをくれ、休日には気分転換をしようと外に連れ出してくれることもあった。鹿児島情報高からプロの世界に導いてくれた山森雅文スカウトは、忙しい日々のなかで時間を見つけては球場に駆けつけた。

 初年度は練習試合の登板がほとんどで、プロ野球選手の基礎となるトレーニングや栄養指導をたくさん受けた。二木のことを周りの人々は気にかけ、本人も懸命に取り組んだが、一軍までの道のりは果てしなく、どこまでも不透明に思えたのだった。

 テレビ画面越しの試合は相変わらず続いていた。体づくりに没頭する二木は夕食を終えて席を立ち、その日も就寝前に食べる菓子パンを掴んで自室に戻った。


■同期最後の一軍昇格、ライバルの飛躍に奮起

 体力強化の成果は2年目を迎える頃に表れ始めた。ひとまわり大きくなった身体は投球にも変化を与えた。春季キャンプで二軍ブルペンを視察した伊東勤監督も「力強いボールを投げていた」と評したが、明るい話題にも二木は決して頬を緩めることはなかった。

 7人いる同期のなかで、石川歩、吉田裕太、三木亮、吉原正平、井上晴哉は1年目に一軍を経験した。一軍未経験者は二木と、育成契約の同級生・肘井竜蔵だけだった。投手と野手でポジションは違うが、2人で一緒に体力強化に励むことが多く、食堂でも隣に居た。互いに今年こそはと意気込んで迎えた開幕直前の3月、支配下選手登録された肘井だけが開幕一軍を掴み取った。

「先に肘井が一軍に上がって、(未経験は)僕だけになって、そこから改めて頑張りました。ちょうどその時期は、二軍の試合で打たれて怒られることも多かったので、それも悔しくて」

 一軍と二軍の選手では生活リズムが異なる。久々に寮の近くの飲食店に2人で出向いたのは、肘井が再び二軍生活となった頃だった。ライバルであり、唯一無二の同級生だ。肘井の支配下登録を祝い、その席で次なる約束を交わした。“二木の二軍初勝利祝い”。それも日を改めて無事実現されたのだった。

 仲間の飛躍に奮起した二木は、着実に登板を重ねて二軍の月間MVPを獲得するまでになった。そして、2015年10月6日に念願の一軍プロ初登板を果たした。寮の食堂のテレビ越しにあった光景が初めて目の前に広がる。本拠地のマウンドで5回4安打1失点の好投。不透明だった道に、一筋の光が見え始めた。

 一軍の経験は二木の表情を格段に明るくさせた。3年目の春季キャンプでは「良い年になりそうですし、してみせます!」と頼もしさを増し、言葉通りに一軍登板を重ねていった。練習時間がきっちり決められている二軍に比べて、一軍は自由な時間が多く、自主性をもって準備をする先輩たちの姿勢に驚かされた。先発ローテーションの一角を担った二木は、「風が吹いていれば真っすぐは伸びるし、フォークも落ちるので、風は吹いていてほしい。ストライク先行で、フォアボールを出さないように気をつけています」と、マリーンズの一軍選手らしく本拠地特有の風を味方にする術も身につけていった。


■背伸びせず、目の前にあるものに打ち勝つ

 現在、4年目の二木は入団当初に比べて体重が15kg近く増加した。管理栄養士はここ数年で最も優秀な取り組みをした選手として真っ先に二木の名を挙げた。新人時代の学びを継続させるだけでなく、つい最近もサプリメントの成分を一緒に調べてほしいという依頼があったのだと嬉しそうに話した。

 月日が経ち、1年目の頃によく面倒を見てくれた先輩は既にチームを去ったが、今でも連絡を取り合う仲が続いている。山森スカウトは顔を合わせる機会が減っても、登板前と登板後は欠かさず連絡をくれる。

 一軍が遠かった頃、二軍で体力強化を支えてくれたチームスタッフは言っていた。「トレーニングも、食事も、何をするにしても、『なぜそれに取り組むのか』という理由を理解していれば、必ず意味のあるものになっていく」。この言葉は二木の胸に深く刻まれている。

 無理に背伸びをして大きな収穫を狙うのではなく、ただ目の前にあるものに打ち勝っていく。その連続で成長を遂げた濃密な日々があるから、この先どんなに派手な活躍をしても、二木の根底にあるものが揺らぐことはない。

「まさか一軍でこれだけ登板できるとは思っていなかったので、順調……、順調以上だと思います。今年は開幕ローテーションに入れずに、二軍で迎えたことがすごく悔しかったけれど、最初の一軍登板で良い投球ができたことで乗っていけたと思います。今もなんとか投げさせてもらっているので、貯金もしていきたいですし、先発投手にとって完投勝利はすごく嬉しいことなので、もっともっと完投や完封を増やしていきたいです」

 今後は、その背中を見つめる人が増えていくだろう。かつての二木のように、今この瞬間も寮の食堂にいる選手は、目の前の食事とテレビ画面に交互に視線を移し、自分の取り組んでいることは未来の糧になると信じている。その一方で、一軍で活躍する選手は切り離された遠い世界にいる存在なのだと思っているかもしれない。

 そんな若い選手たちに、テレビ画面の向こう側から二木が証明している。その目に映っているのは、切り離された世界にいる選手なんかではない。まっすぐな道の先にいる、数年後の自分自身の姿なのだと。


長谷川美帆(千葉ロッテマリーンズ オフィシャルライター)=文

ベースボールチャンネル編集部