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今年の『AKB48選抜総選挙』結果から考える、いまアイドルを応援するということ

6/23(金) 15:00配信

リアルサウンド

「ようやく解放させてあげられる。」

 そう声が上がったのは、『AKB48 49thシングル 選抜総選挙』にて卒業を発表した渡辺麻友(AKB48)のとあるファンのツイートである。“まゆゆ”の愛称で親しまれ、AKB48の中心メンバーの一人として長くグループを牽引してきた彼女は、世間的には“THE アイドル”なイメージを最後まで貫き通した印象がある。その渡辺のファンの一人である女優・神田沙也加は、Twitter上で彼女に直接、以下のような文章を送った。

「まゆゆちゃんお疲れ様でした。これからも勿論、今までもいちばん応援してきました。私の方が随分歳上ですが、人前に立つ芸のひととして教わることが沢山ありました。まゆゆちゃんのこれまでの忍耐は必ず必ず、全部、人生を賭けて報われていくし、報われない筈ありません。」(参考: https://twitter.com/sayakakanda/status/876324790889402368 )

 渡辺麻友というのは、“忍耐”のアイドルであった。王道のアイドル路線からはずれぬよう、徹底したイメージ作りやプライベート管理。何百人といる後輩たちの模範であるために、旧来的なアイドル像を誰よりも堅く守り抜いてきた人物であった。もっと言うと、その“我慢”や“管理”といった姿勢すらも彼女のアイドル像の一部となっていた。仕事以外の場で他のメンバーと交流することさえ避けていたこともファンの間では有名であった。そのストイックな姿勢は彼女の魅力の一つとなっていた。そのことから考えるに、彼女に票を投じる行為には、「アイドルとはこうでなければいけない」という意思の表明が少なからず含まれていたように思う。渡辺麻友というアイドルに投票することは、ルールを守ることが美徳とされる価値観の延長線上にあるものだったのだ。しかし、理想のアイドルでいよう、正しいアイドルとして振舞おう、と自らを理想に近づけている彼女を見てきた人々のなかに「解放させてあげたい」と口を漏らした人がいたことも事実だ。自分を強く律する彼女の姿勢をすべてのファンが望んでいたわけではなかったそのミスマッチが、もしかすると今回彼女が票数を大幅に落としてしまった原因の一つなのかもしれない。昨年と比べて彼女が失った約25,000票という数字は、“そうではない”渡辺麻友を見たかったという気持ちがファンにどれだけあったかを示しているのではないだろうか。

 一方で、その渡辺に10万票以上の差をつけて1位を獲得した指原莉乃は、今までアイドルの定義を何度も壊してきた人物であった。アイドルなのにスキャンダルを起こす、アイドルなのに映画監督をする、アイドルなのにアイドルのプロデュースをする、アイドルなのに下ネタを話す……etc。そんな彼女をアイドルたらしめる存在が、“ファン”と“総選挙”の存在であった。総選挙というのは、少女を民意によって成り上がらせるイベントだ。どんな無名の地下アイドルも、総選挙によって地上のシンデレラになることができる。アイドルの定義からはみ出し、アイドルの枠を飛び越えた活動や言動を繰り返してきた指原莉乃という人を、アイドル・指原莉乃にさせるのは、アイドルとはこうであるべきだという“定義”ではなく、ファンによる総選挙での“投票”なのだ。どんなに非アイドル的であろうが、ファンが応援すればそれはもうアイドルなのだと彼女は言うのである。

「こんな私を、普段バラエティーではアイドルらしからぬ発言をしている私をアイドルにしてくれたファンの皆さん、改めて本当にありがとうございました」

「今こうやってテレビに出ているのも、テレビに出ている自分に少しずつですが自信が出てきたことも、たくさん迷惑をかけてしまった両親に少しずつですが恩返しできていることも、全ては応援してくださっている皆さんが私を1位にしてくれた、そこから始まっていると思います」(『AKB48 49thシングル 選抜総選挙』指原莉乃スピーチより)

 つまり指原莉乃に投票するという行為には、彼女をアイドルにしてあげようという承認の意思が含まれている。それは言い換えれば、ルールを破ったり、定義からはみ出した者を、受け入れようとする意識の表れだ。そうしたファン心理をよく理解しているからこそ彼女は常にアイドルのイメージから逸脱するし、枠を飛び越えていこうとする。指原莉乃がこれまでに伸ばした票数は、彼女が壊してきた既存のアイドルの定義の数と喩えても過言ではないはずだ。

 さて、この2人の対立構造になって数年が経つ総選挙だが、今回、最もアイドルの定義からはみ出したのがNMB48の須藤凛々花であったのは言うまでもない。“結婚宣言”はメジャーな女性アイドルの歴史上では前例がない。その掟破りの行動にファンの間でも賛否両論が巻き起こっている。しかし、以上のような総選挙の流れを見てきて、指原莉乃に投票するようなファンの行動原則、あるいは渡辺麻友が票を減らすような空気が世の中にある限りは、須藤凛々花にはまだアイドルでい続けられる余地がある。もちろん彼女がそれを望んでいるかは別だ(と書いている間に当の本人は卒業を発表してしまったらしいが……)。どれだけ道を踏み外し、レールから外れたところで、ファンの“投票”さえあればアイドルとして認められるのが、AKB48というグループなのだ。

 いまアイドルを応援するということは、アイドルをアイドルでいさせようとする行為に他ならない。今年の総選挙を見て、そんなことを考えていた。

荻原 梓

最終更新:6/23(金) 15:16
リアルサウンド