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渋谷の真ん中に総合スーパー誕生! 仕掛け人は「ドン・キホーテ」

6/23(金) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 街の真ん中にそびえたつ白いビル。

 セールの呼び込みに、店頭まで高く積まれた商品。多くの人が吸い込まれていく店内。もちろん専用の大型駐車場は無く、多くの客は電車やバスを使っての来店である。

――1970年ごろに隆盛を極めた典型的な「都市型総合スーパー」。今やそれは「絶滅危惧種」とも言うべき状態にあるが、この2017年に、しかも渋谷にそういった店舗が生まれることを誰が予想したであろうか。

 その名は「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」。

 5月12日、あのディスカウントストア・ドンキホーテが、渋谷道玄坂に都市型総合スーパーを開業させたのだ。

◆「21世紀の今だからこそできた」新チャレンジ

 MEGAドン・キホーテ渋谷本店(以下、メガドンキ渋谷店)が開業したのは、渋谷区道玄坂の東急百貨店近く。かつてパチンコ店(マルハン)、ゲームセンター(SEGA)などが出店していたビルだ。なおこの出店に伴い、近隣にあった旧「ドン・キホーテ渋谷店」は閉館している。

 新店舗の売場は地上6階、地下1階、売場面積は5,522㎡。面積的には旧店舗の約3倍へと拡大し、まさに「本店」と呼ぶにふさわしい規模となった。

 実際に店舗を訪れてみると、ビルはパチンコ店を核としていた時代とは大きく様変わりしていた。

 入口で目立つのは熱帯魚が優雅に泳ぐ大きな水槽。最近のドン・キホーテの一部の大型店で見られる演出であるが、とくに通行量の多い渋谷では、多くの人が足を止め、水槽の前で記念写真を撮影している。エントランスは他のディスカウントストアとは一線を画す大きな開口部となっており、明るく入りやすい雰囲気だ。

 そして、店内に入って最初に目に付くのは土産品売場。「渋谷」「東京」を冠したもののみならず、全国各地の銘菓が並ぶのは渋谷という立地ならではであろう。

 店内を1階から順にエスカレータで上がっていくと化粧品、衣料品、生活雑貨などの売場となる。以前の渋谷店よりも広い通路に豊富な品揃えを実感することができ、まさに「総合スーパー」と呼ぶに相応しい内容だ。5階まで来ると、パーティーグッズ、コスプレ用品、アダルトグッズの売場が広がり、ようやくいつもの「ドンキ感」を味わうことになる。

しかし、何といってもこの店舗の一番の特徴は「食品売場」であろう。食品売場は3フロアに分かれており、2階は菓子、酒など、1階は銘菓(土産品)など、そして地階は生鮮食品、惣菜、冷凍食品などの売場となる。

 とくに地階の生鮮品は青果、精肉、鮮魚フルラインで販売されており、高級肉売場をはじめとして一部には対面販売が導入されるなど、大手スーパー顔負けの品揃え。また、惣菜は和洋中ばかりかタイ料理などもあり、多様なニーズに応える店舗となっている。

 これだけの品揃えの大型店ながら、営業時間は全館24時間。まさに「新時代の都市型総合スーパー」と言うべき内容だ。

◆都心回帰の中、スーパー不足を埋める存在に

 筆者が店舗を訪れた時間帯は午後11時。遅い時間ながら、店内は外国人観光客で溢れ返っており、レジには長い行列が出来ていた。

 近年、欧米からの観光客にとって東京は「深夜に出歩いても安全な街」としても人気を呼んでおり、渋谷の街では「夜間散策」を楽しむ外国人の姿が目立つようになっていた。メガドンキ渋谷店はそうした観光客にとって格好の「お買いものスポット」となっているようだ。

 そして、地階には会社帰りのスーツ姿のサラリーマンの姿もあり、早速「地域の冷蔵庫」としての役割も果たしていることが見受けられた。

 実は、これまで渋谷駅周辺では「スーパーが少ない」ということが大きな問題となっていたのだ。

 渋谷区では都心の地価高騰、住環境の悪化などにより1990年代後半までは人口が減少傾向にあったが、都心回帰が進む近年は増加傾向に転じ、2000年の国勢調査時に約19万6000人であった人口は、2017年現在23万人目前にまで増えている。その一方で、渋谷駅近くには成城石井などはあるものの一般的なスーパーマーケットが少なく、2017年4月に宮下公園そばに開業した食品スーパー「東急ストア渋谷キャスト店」、そして5月に開業した総合スーパー「メガドンキ渋谷店」の両店は、住民にとって待望のスーパーマーケットとなった。

 このように、メガドンキ渋谷店は「24時間旺盛な観光客需要」と「住民の都心回帰」という2つの要素があったからこそ「都市型総合スーパー」としての出店が可能になったと言えよう。

◆「総合スーパー」本格進出から僅か10年で「大型空き店舗の救世主」に

 しかし、それだけの「出店に足る要素」があろうとも、渋谷・新宿界隈に都市型総合スーパーが誕生したのは史上初のことであり、高度成長期の総合スーパー全盛期であっても総合スーパーが成り立たなかった地域へのメガドンキ出店は業界をアッと驚かせるものとなったのは当然である。

 もちろん、地域住民にとってみても「ディスカウントストア」のイメージが強いドン・キホーテが総合スーパーを開業させると聞いて驚いた人は多いのではないだろうか。

 実は、総合スーパーが業態不振となる一方で、現在ドン・キホーテは全国各地で総合スーパー事業を拡大している。

 もともと、ドン・キホーテが総合スーパー事業に乗り出す大きなきっかけとなったのは、2007年の総合スーパー「長崎屋」の買収であった。

「サンバード」のキャッチフレーズで知られた長崎屋は1948年に神奈川県平塚市で布団店として創業。高度成長期にスーパーマーケットとして成長し、一時は北海道から熊本県まで全国展開するようになったが2000年に経営破綻。紆余曲折を経て、2007年からはドン・キホーテグループとなった。

 その後、ドン・キホーテは長崎屋の多くの店舗を「ドン・キホーテ」「MEGAドン・キホーテ」に転換するとともに、自社店舗の食品売場を強化。生鮮食品を導入する店舗も増え、近年は閉店した総合スーパー跡地への出店も増えている。2016年6月には経営不振となっていた総合スーパー「ダイシン百貨店」(大田区)を買収し、MEGAドン・キホーテに転換させたことも話題となった。

 こうした動きは東京都心以外でも同様であり、今やドン・キホーテは「大型空き店舗の救世主」となっているのだ。

◆総合スーパーでの成功を生かして「ユニー」を救済か?

 ドン・キホーテの総合スーパー事業拡大の動きは、大型空き店舗への出店のみにとどまらない。

 ドン・キホーテHDは、6月13日に流通大手の「ユニー・ファミリーマートHD」と業務提携に向けた検討を開始したことを発表した。

 ユニー・ファミリーマートHDでは、主力事業の1つである総合スーパー事業(アピタ、ピアゴ)が不振となっており、今後は業務提携によりドン・キホーテのノウハウを生かすかたちで同社の総合スーパー事業の立て直しを図る可能性もある。

 イトーヨーカドーやユニーが店舗の大規模閉店をおこなうなど、全国各地で総合スーパーが業態不振に陥るなか、各社の閉鎖店舗をも取り込むかたちで「総合スーパーの新規出店」を行い、営業規模の拡大を図るドン・キホーテ。果たしてドン・キホーテは総合スーパー業界の新たな「救世主」となることができるのであろうか。

 新しい「渋谷の顔」となったMEGAドン・キホーテ渋谷本店の成否は、業界全体からの注目を浴びるものとなるであろう。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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