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81歳の女子プロレスラー 人生を追うノンフィクション

6/23(金) 11:30配信

Book Bang

 81歳になったいまも引退してないし、神取忍と闘いたいと公言している女子プロレスラー・小畑千代。1955年デビューで、最後に試合したのが1976年だから、ボクも世代的に彼女のことはよく知らなかったが、いまから16年前、とあるプロレスの大会のゲストに呼ばれた彼女の、パンチパーマで異様な殺気を出していた姿に衝撃を受けて、すぐインタビューしに行ったぐらい、明らかに只者じゃない人物である。

 これは、そんな彼女の人生を追ったノンフィクション。雑誌『世界』連載で、岩波書店から出版されたというだけでも前代未聞なのに、著者のプロフィールも「東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。新聞社で政治担当の編集委員を務める。共著に『女性官僚という生き方』『社会をちょっと変えてみた』など」で、北原みのりを通じて小畑千代と知り合っているから、どう考えても普通のプロレス本なわけがない。

 戦後間もなくアメリカから女子プロレス興行が初めて持ち込まれたとき、女子柔道家が「(女子プロレスは)日本ではできないでしょうね。できたとしても“物珍しさ”の域を出ないでしょう。女子野球の例もあることだし︱柔道をやっても物好きと冷たい眼でみられる不思議な国のことだから、ましてプロ・レスなんかはじめたら狂人扱いでしょう︱」とコメントしていたそうなんだが、これはそんな時代に水着姿で、女を売ることなく、男性経営者と互角にわたりあってきた女性の物語なのだ。

 韓国遠征や沖縄遠征についてページが割かれているのも、「韓国、沖縄、プロレスは日本からみれば、虐げられたもの、はみだしたものが紡いできた歴史なのだ。女子プロレスは、『女性』という点でさらに差別が一枚加わる」ということであり、彼女にとって「対戦相手はレスラーばかりではなかった。世間と、偏見と闘い続けたのだった」と主張する、女性の権利と闘争みたいなテーマの本だったから、これはこれで新鮮。

[レビュアー]吉田豪(書評家)

新潮社 週刊新潮 2017年6月22日号 掲載

新潮社

最終更新:6/23(金) 12:19
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