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視覚障がい者の「伴走」に挑戦 見えない不安取り除く

6/24(土) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 2020年東京パラリンピックの開催が決まり、障がい者スポーツへの関心が高まっている。視覚に一定以上の障がいを持つランナーがレースに参加するうえで欠かせないのがガイドランナー(伴走者)だ。彼らはどんな役割を果たしているのか。一般の人でも務めることができるのか。市民ランナーとして数々の大会に出場してきた日本経済新聞の吉田誠一編集委員が伴走の世界を探った。

■ランニングフォーム崩れる

 伴走にトライする前に、アイマスクで目を塞いで走ってみてくださいと促され、そんなことができるだろうかと不安になった。ロープでつながった伴走初心者に導かれ、代々木公園(東京)を走ってみて分かったことがヤマほどある。
 アイマスクをしても、走れないことはない。しかし、一度、転倒したり、衝突したりというアクシデントを起こしたら、怖くなって走るのが嫌になるかもしれない。伴走者の声掛けを信頼して走ったが、それでもつい「道はまっすぐなんですか?」「前に人はいませんか?」と問い掛けた。「大丈夫です」と言われても、幾分、腰が引けてくる。
 視覚障がい者ランナーは前傾できず、上体が突っ立ってしまう傾向があると聞いていたが、無理もない。私のランニングフォームも微妙に崩れていたらしく、帰宅してから左足の小指の付け根のあたりに痛みが出た。視覚障がい者に理想のランニングフォームで走らせるのが優れた伴走者だというが、それを可能にするには強い信頼関係を築く必要がある。
 視覚を失った状態で走り続けると神経が疲れ、わずかしか走っていないのに非常に長く感じる。そんな具合でも、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのがわかった。障がい者は「ないものを願うのではなく、あるものを最大限に使う」というが、確かに、残っている能力を自然に総動員するようになる。

■たくさんの音や声が耳に

 アイマスクをして走っていると、様々な音や声がよく耳に届く。近くに人が集っているな。子どもが遊んでいるんじゃないか。自転車がそばを走っているんじゃないか。そんな情報をとらえることができる。
 ふだん、ここまで音が聞こえていただろうか。たぶん、耳に入っているのに逃しているのだろう。備わっている能力を使い切らず、入っているはずの情報を粗末に扱っている、ということになる。アイマスクをしている間は嗅覚も相当、働いていたはずだ。何かのにおいがしたら敏感に感じていたに違いない。
 与えられた能力をフルに使えば身を守れるだけでなく、自分が過ごしている時間をより深く味わえるはずだ。まぶしいほどの木々の青さ、草木の淡いにおい、さわやかな風の音や鳥のさえずりを感じ取り、心を癒やすことができる。そのチャンスを逃していないだろうか。
 健常者は能力が備わっていることにありがたみを感じず、ムダにしているのかもしれない。五感をしっかり丁寧に使えば、私はもっとうまくマラソンを走れるのではないかという思いも浮かぶ。
 スポーツというのはよくできていて、様々なことを学ぶ道具になる。堅苦しく考えるとスポーツが面白くなくなるかもしれないが、スポーツを通じて学べることがたくさんある。
 視覚障がい者ランナーは伴走者がウインドブレーカーを着ていると、きぬ擦れの音がうるさいと感じるらしい。シャカシャカする音が邪魔になり、大事な情報が聞き取りにくくなって困るのだという。
 障がい者が欲しているものは何なのかと、よく考える必要がある。どんな声掛けが役に立つのか。単に「段差があります」ではなく、どのくらいの段差がどこにあるのかを細かく伝えないと、情報としては不十分だ。路面がぬれていてもわずかで、支障がないと思われる場合も黙っているのではなく、それを伝えて安心させる必要がある。そう考えていくと、ふだんの人とのコミュニケーションがいかにいい加減なものであるかに気付く。
 アイマスクをして走る経験をした次は、いよいよ伴走にトライだ。まずは講習・練習会で基礎を学んだほうがいい。日本盲人マラソン協会(JBMA)の公式サイトには東京、大阪、福岡など各都市の練習会の予定が掲載されている。

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最終更新:6/24(土) 7:47
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