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EUの内なる敵の正体

6/24(土) 12:10配信

Wedge

 英フィナンシャル・タイムズ紙が、「EUはその内部でのリベラルでない勢力に対して戦わなければならない。法の支配が中東欧で強まる圧力にさらされている」との社説を5月22日付けで掲載、ポーランドやハンガリーにおける自由民主主義からの逸脱に懸念を表明しています。社説の要旨は次の通りです。

 EUは長い道のりを経て、貿易・経済とともに共通の価値の同盟になった。しかし、民主主義、言論の自由、市民的権利などの価値が、今いくつかの東欧の国で、冷戦終結後最大の脅威にさらされている。今のところ、EUは集団として、権威主義への下落を阻止するための手段を欠いている。しかし、EUは民主的規範を堅持し、監視することを再度約束し、可能な場合には最悪の濫用を阻止する手段を持たなければならない。

 最近、ポーランドでは、最も有名な歌手の一人が政府を批判した後、全国祭典への参加を拒否されたと報じられた。ハンガリーにおける民主主義と市民社会への締め付けは続いている。ハンガリーのオルバン首相は、「リベラルではない」民主主義を目指すと述べ、中国、ロシア、トルコをモデルとして賞賛している。

 EUは中東欧諸国の加入の際に、人権と統治についての基準を定めたが、この基準から後退するのを阻止する権限をほとんど持っていない。法の支配と欧州人権条約を堅持する責任は、伝統的にEUとは別組織の欧州評議会にあるとされてきた。

 いずれにせよ、EUは逸脱した加盟国に制裁を加えるに際し、注意深く行動する必要がある。EU理事会での投票権を停止するとの強い措置を取れば、反発が出てくる可能性がある。オルバンは既に、国内での支持を得るために反EU感情を煽っている。

 長期的なものであるが、一つの解決策はEUに段階的制裁を課す権限を備えておくことである。それには条約改正が必要である。そういう解決ができるまで、EUの加盟国はEU内での民主主義や自由の侵害を監視し、迅速にそれらを非難しなければならない。EUの価値の守護者を自認するEUの西側加盟国は、自らについても気を付けなければならない。例えばフランスでは、極右の候補が大統領の決選投票に進出、全身を覆う水着が女性に禁じられたが、そういうフランスも批判の対象たるを免れない。

 欧州で多くの人が犯した過ちは、独裁から出現した加盟国は安定した民主主義への道を不可逆的に辿ると前提したことである。この前提はスペインとポルトガル(1970年代に専制から離れ、1980年代にEUに加盟)には当てはまったが、旧ワルシャワ同盟諸国には当てはまらなかった。

 法の支配と民主主義的価値は、今やEUの交渉不可能な部分である。これを維持するためには、警戒心、率直な発言、規範は全加盟国に適用があるとの承認が必要である。東欧での人権や民主主義の濫用は、まだEUにとりその存在を脅かす脅威ではない。しかし、将来そうならないと考えることは馬鹿げているほど楽観的である。

出典:‘The EU must act against illiberal forces within’(Financial Times, May 25, 2017)

 EUは英国の離脱によって揺さぶられていますが、去る3月のオランダ総選挙、仏の大統領選挙では右派・EU懐疑派が破れ、英離脱にもかかわらず、EUは安定して存続していくでしょう。ドイツでも中道派が選挙で勝つことはほぼ確実です。

 ただ、ポーランド、ハンガリーでは言論の自由弾圧など、EUの奉じる自由民主主義の価値を侵害するような政府の行動があり、価値の同盟としてのEUが揺さぶられています。

 この社説は、これが今すぐではないが長期的にはEUの存在を脅かす脅威になりかねないと指摘し、EUとして対応する能力強化(条約改正がいる)や政治的な非難をしていく必要があると論じています。その通りでしょう。

 自由民主主義体制というのは、自由主義と民主主義の混合です。民主主義というのは、簡単に言えば国民主権主義であり、国民の多数の意見に従い政治を行うべしという考え方です。他方、自由主義というのは、人間には基本的人権があり、これは多数決によっても恣意的に奪われてはならないという国民の自由を尊重する主義であり、政府の権限を制約すべしとの考え方です。この二つの考え方には、常に相克があります。

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最終更新:6/24(土) 12:10
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