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スペインサッカーリーグでのプレーオフ大逆転勝利の陰に、とある日本人がいた!?

6/24(土) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 2015年6月、スペイン・サラゴサで一人のサッカー監督が解任の危機に陥っていた。

 旧ユーゴ出身のセルビア人、ランコ・ポポヴィッチは前年11月より成績不振に陥っていたスペイン二部の古豪、レアル・サラゴサ監督に就任した。

 長年日本で監督としてのキャリアを積んできたが、2014年6月に成績不振と不適当発言(後述)が原因でセレッソ大阪の監督を解任され、スペインでは初仕事だった。財政難で補強など夢のまた夢、しかも怪我人続出でセンターバックもいないというとんでもないチームだったが、それでも引き受けた。

 幹部の希望はなけなしの戦力をやりくりして6位までに食い込みプレーオフ進出、あわよくば一部復帰だった。サラゴサはギリギリ六位に食い込み、最低限の仕事は果たした。

 そして迎えたプレーオフ第一ラウンドの対戦相手は三位のジローナだった。

 ここで大惨劇が発生する。よりによって、ホームで0-3の惨敗。もう終わりである。

 たしかに先発GKのボノがモロッコ代表に招集されてこの試合に出られず、控えGKのオスカルがヘマをやらかしたのは事実だった。

 それにしても、0-3では弁明の余地はない。DFのマリオ・アブランテはもうシーズンが終わったと思い、家族と休暇の準備に入ろうとしていた。

 そんなとき、ランコ・ポポヴィッチがスマホを開けると、LINEでいつもの通り日本からメッセージが届いていた。

 監督就任以来、毎試合終わると直後にある男から一言メッセージが届いていた。戦う気はいつも満々の男だったが、さすがにこの場面では少し弱気の虫に襲われ、数日後のセカンドレグで敗退と同時に解任、というシナリオが頭をよぎっていた。

 しかし、このメッセージを見た瞬間に、行けるのではないかというかすかな希望が湧いてきて、二十年来の親友であり、長年右腕を務める助監督のブラード・グルイッチに見せた。

 アウェーのセカンドレグ前日に定例記者会見が行われ、ポポヴィッチはこう言い放った。

 「私には、時差が七時間だか八時間だかある日本という遠い国から毎試合見て応援してくれている友人がいる。そんな彼から、試合直後にメッセージが届いた。“リヴァプール対ACミランのチャンピオンズリーグ決勝を忘れるな”。あのとき、リヴァプールは前半を終えて0-3だったにもかかわらず、後半に追いついて、逆転して、優勝した。明日、我々はリヴァプールになってみせる」

 すなわち、逆転勝利宣言である。

◆この記事は自慢である

 途中経過をすべて省くと、サラゴサは前半だけで3点を取って追いついた。そして後半に1点を追加し、最後に1失点を許したものの、4-1で圧勝した。大逆転勝利である。

 その日、バルセロナ郊外、フランスの国境近くにあるジローナからサラゴサまでチームは列車で帰郷した。駅は、自然発生的に黒山の人だかりができていた。英雄の凱旋である。

 当たり前だが、この物語において一番偉いのは試合に出て4得点を記録して1失点に抑えた11人の選手である。だがその11人を選んでピッチに送り出したのは監督である。そしてそんな監督に何事か耳元でささやいたのは日本人……実はこの私、タカ大丸であった。

 大逆転勝利の直後、私は再びLINEでメッセージを送った。

「記者会見の映像見たよ。やるね」

 朝目覚めると、おそらくは試合後の会見を済ませたであろう時間に返答が届いていた。

「君が送ってくれたリヴァプールのメッセージ、ロッカーで選手たちに聞かせたよ。最後まで我々を信じてくれてありがとう」

 お断りしておくが、私は何か根拠があってあの言葉を送ったわけではない。逆転勝利を信じてもいなかった。日本時間午前三時に寝ぼけ眼でひねり出した単なる出まかせだった。ただ、現場で戦う人間にとって「頑張れ」など何の意味もない言葉である。そこには代替案もなく、具体策もない。

 ただ、私は歴史上リヴァプールが0-3から大逆転勝利を果たして優勝した実例があるのを知っていた。そんな基本的なことを欧州のプロサッカー監督が知らないはずがないのだが、まさかの事態に陥って一瞬忘れていた可能性はある。

 長年歴史を学んできて痛感していることがある。歴史を学んでいれば、前例を知ってバカで無駄なあやまちを未然に防ぐことができる。そして、ごくごくたまにだが、歴史を知っていれば歴史をひっくり返すことができる。これが快感である。

 はっきり言おう。この記事は自慢である。

 それを隠すつもりも恥じるつもりも毛頭ない。サッカーファンで、やれ戦術だの選手起用だのについて知ったかぶりで蘊蓄をたれる輩はいくらでもいる。

 だが、実際に友人の監督に直接耳打ちして、それを記者会見で監督本人が引用したうえで逆転勝利宣言をし、本当に欧州のチームを遠隔操作で逆転させた人など、たぶん日本で空前絶後だろう。そんな私に「お前なんか大したことはない」と言えるのは実際にスペインのチームに加わり、プレーオフにフル出場して、決勝ゴールを決めた柴崎岳選手だけだ。

 今までにもあった通り、おそらくこの記事がポータルサイトに転載されれば、誹謗中傷のコメントで炎上するかもしれない。だが、最後に一言。あー、気持ちよかった!

<文・タカ大丸>

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破、26刷となる。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。

雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト

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