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キャンパスライフは謎がいっぱい 『江神二郎の洞察』ほか

6/24(土) 11:30配信

Book Bang

 有栖川有栖の著作には臨床犯罪学者・火村英生を主人公にした物語と、英都大学推理小説研究会(通称・EMC)の部長・江神二郎が探偵役を務める物語の二大シリーズがある。『江神二郎の洞察』は後者に当たる短編集だ。

 語り手の有栖川有栖が入学してから一年間の出来事を綴った本書は、綿密に組み立てられた論理を楽しむミステリであると同時に、優れた青春小説でもある。夏合宿の最中に出会った奇妙な鉄道事故を解明する「やけた線路の上の死体」。“四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です”という、謎めいた会話から推理が広がっていく酒宴を描いた「四分間では短すぎる」。大晦日にメンバーが書いた犯人当て小説に挑む「除夜を歩く」。いずれの短編でもミステリという趣味に思いっきり没頭し、モラトリアムを謳歌する若者たちの姿が眩しく映る。

 北山猛邦『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』(講談社文庫)も謎解きに取り組む大学生たちが主役だが、EMCのようなミステリ好きとは少し違う。彼らは探偵助手に憧れ、日本で唯一、探偵助手に関する技能と実践を学べる大学に入学した学生なのだ。彼らは指導教官である女探偵・猫柳十一弦とともに、ゼミ合宿で本物の殺人事件に遭遇する。探偵助手が学問として成り立っているという、虚構にどっぷり浸かった世界観が何ともユニークだ。

 猫柳十一弦は指導教官というにはちょっと頼りない性格なのだが、奥泉光『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(文春文庫)には頼りないどころか、ミステリ史上最も情けない大学教員、クワコーこと桑潟幸一が登場する。クワコーは四十歳になるまでの十年間、論文を一度も出したことのない、地位もやる気も全くない文学准教授。千葉にあるたらちね国際大学に赴任した彼は、ホームレス女子大生の神野仁美をはじめとする文芸部メンバーと日常の謎を解いていく。本書は変人ばかりが集うユーモアタッチのミステリであり、クワコーというダメ男を愛でる小説でもあるのだ。

[レビュアー]若林踏(書評家)

新潮社 週刊新潮 2017年6月22日号 掲載

新潮社

最終更新:6/24(土) 11:30
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