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長期金利が低下…米債券市場では何が起きているのか

6/25(日) 15:05配信

オトナンサー

 2017年に入って米国の長期金利(10年物国債利回り)がジリジリと低下しています。

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 2016年11月の大統領選でトランプ現大統領が勝利した直後に、長期金利は急騰しました。同氏が主張する減税やインフラ投資が実現すれば、経済成長率やインフレ率が上向き、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースを速める、あるいは財政赤字が拡大するとの見方があったからです。いずれも金利が上昇(価格は下落)する要因です。

減税とインフラ投資の実現性が後退か

 したがって、足元の金利低下は減税やインフラ投資の実現性が後退したことを意味するのかもしれません。ワシントンでは「ロシアゲート」で騒がしい状況が続いています。トランプ大統領が議会を掌握しているとは言いがたく、議会も減税やインフラ投資を盛り込む予算の編成にあまり熱心ではないようです。

 ただし、長期金利の低下はそれだけでは説明しきれません。

 FRBは2016年12月に続いて、2017年3月と6月にも利上げを実施しており、さらに2017年後半~2018年にかけて複数回の利上げを想定しています。将来の予想を反映する傾向が強い長期金利が低下しているということは、FRBが想定通りの利上げを実施できない、あるいは近い将来利下げに転じるとの市場の期待が高まっているのかもしれません。

 確かに、足元では弱めの経済指標が増え、物価もやや下振れしていますが、市場はFRBですら知らない「何か」を知っているのでしょうか。

グリーンスパン氏の「謎」再来?

 実は、2000年代半ばにも同様のことが起きています。

 2004年6月以降、6回で計1.50%の利上げをしたにもかかわらず、長期金利が低下したことについて、グリーンスパンFRB議長(当時)は2005年2月の議会証言で、「コナンドラム(謎)だ」と述べました。最終的に11回で計2.75%の利上げが行われましたが、長期金利はほとんど上昇しませんでした。そして、景気はその間も住宅ブームによって好調が継続したのです(2007年12月に景気は後退局面入り)。

 当時の、米国を含む世界的な長期金利の低位安定は、アジア諸国や産油国を中心とした「世界の貯蓄過剰」が背景だったという説があります。現在、米国こそ金融政策の正常化を開始していますが追随する主要国はなく、日本やユーロ圏では「非伝統的」と呼ばれる極端な金融緩和が今も続けられています。やはり世界のカネ余りが長期金利低下の背景にあるのかもしれません。

 加えて、米国の場合は2つの特殊要因が長期金利の低下に影響している可能性があります。一つは中国です。2016年、中国は人民元の下落を抑制するためにドル売り・人民元買いの介入を続けたものとみられます。結果として、中国は米国債を大量に売却しました。しかし、2017年に入って人民元相場が安定する中、中国は米国債購入に転じているようです。外国全体でみても、2017年1~3月期は4四半期ぶりに米国債の取得超過に転じています。

 もう一つは、デットシーリング(債務上限)です。債務残高が法定上限に達したため、米政府は公務員年金や州地方政府を対象とした非市場性国債を大量に償還しています。通常の市場性国債は今も発行されているため、直接的には長期金利の低下要因とは考えにくいのですが、債券の需給面で何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。

 今後、米議会の予算審議において、減税やインフラ投資の行方が決まるでしょう。また、景気や物価の鈍化が一時的かどうかも徐々に判明するはずです。外国からの米国債投資が2016年から2017年初めにかけて見られたような急激な変化を繰り返すことは考えにくく、デットシーリングはいずれ引き上げられるでしょう。

 そうした中で、長期金利低下の「謎」がある程度解けるのかもしれません。

株式会社マネースクウェア・ジャパン チーフエコノミスト 西田明弘

最終更新:6/25(日) 15:05
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