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アドバイス上手な上司は部下を伸ばせない? 1万人以上面談した産業医が指摘する「きく技術」

6/25(日) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 こんにちは、これまで1万人以上を面談してきた産業医の武神健之氏です。前回の記事では、メンタル不調者が出ない優れた組織の上司に共通する「みる技術」について書かせていただきました。

 相手のことを知らないということを知っている上司は、「~だろう」と断定した考え方をせず、「~かもしれない」という柔軟な思考をすることができることを述べさていただきましたが、今回はメンタル不調者が出ず、コミュニケーションが円滑になされている組織の上司に共通する「きく技術」についてお話しさせていただきます。

 きく技術の「きく」を漢字で書いてみると、代表的なものは5つあります。

1.音を感じとるという意味での「聞く」

2.傾聴、注意して耳に入れる、アクティヴ・リスニングの「聴く」

3.尋ねて答えを求める「訊く」

4.調べて判定する意味での「利く」

5.効果が現れるという意味の「効く」

 以上の5つです。

 この5つのうち、最初の「聞く」は受動的、あとの4つは能動的・積極的な行為です。また、別の角度から考えると、5つの「きく」のうち、「聞く」「聴く」「訊く」はその場だけの行為ですが、あとの2つ「利く」と「効く」は時間的な変化も含まれます。

 とりわけ「効く」には、上司に話を聞いてもらった人が、翌日になって「ああ、昨日は話を聞いてもらえてよかった」「あんなふうに言ってもらったんだから、今日もがんばろう」という効果として現れてくる「効く」です。

◆「きく技術」の「認める」とは?

 私の経験上、コミュニケーションの上手な人は5つを全部やっているわけではありません。しかし、その場、その場で必要な「きく」を意識せずとも自然とできている人が多いのです。それは、これまで述べたような「きく技術」を持っているからではなく、きく技術を使いこなす「マインド」を持っているからだと私は考えます。

 そのマインドとは、「きく」ことは「認める」ことと、「気づかせる」ことだとわかっているということです。では、「認める」とはどういうことでしょうか?

「認」という字は「言う」を「忍ぶ」と書きます。要するに、「言うことを我慢する」こと、つまり「黙っている」ということです。

 産業医面談を通じて感じているのですが、優秀なリーダーほど、部下が何か相談をしにきたときに黙ってきくことができません。

 部下が「ちょっといいですか?」と相談してきたときに、上司は経験豊富ですから部下の話の最初の部分をちょっときいただけでもうわかってしまい、「そういうときは、こうして、ああして」とアドバイスをしてしまうことが多いのではないでしょうか。しかし、部下はアドバイスがほしくて話しにきたとは限りません。

 こうしたとき、多くの部下はアドバイスがほしいわけではなく、話を聞いてほしい、状況をわかってほしいから、ただ話を聞いてほしいということがよくあります。

 人間には耳が2つ、口は1つあります。これは話す2倍は聞きましょうということです。たくさん聞いてもらうことにより相談をしにきた相手は、自分のことを認めてもらったと感じます。言うを忍べば、相手は認められたと思うのです。そうです、「きく技術」を持つ上司とは、部下のいうことを黙ってきくことができるのです。

◆「きく技術」の「気づかせる」とは?

 もうひとつ、「気づかせる」ということについて。

 きく技術を持つ人は、自分が話す少ない時間のなかで、相手にアドバイスをあまりしません。

 その代わり、相手のためになる効果的な「質問」をします。自分の知りたいことを聞くことを「疑問」と言いますが、相手のためになること(気づかせること)を聞くことを「質問」と言います。

 きく技術を持っている人は、疑問ではなく、質問を相手に投げかけます。それによって、相手に自分で気づかせることができるのです。これは言葉を変えれば、相手の視点を変える、変化させるということです。

 大人は誰でも、間違いを指摘されたり、ダメ出しはされたくありません。相手の間違いを指摘して、「違うよ、それは」などと言ったところで、相手には通じません。上手な質問は、相手の良くないところ、気づいていないところ、足りないところを指摘するのではなくて、本人の気づきを促すことができるのです。

 そういうことができるのが、きく技術を持っている人の「きく」なのです。「きく」ことによって自分で気づかせることができるのです。これが上手なコミュニケーションに繋がります。

 組織内でコミュニケーションを上手にしている人。例えばリーダーシップのある上司や、メンタルヘルス不調者を出さない部門の上司は、このように「きく」ことは「認める」ことと「気づかせる」ことだとわかっている人だと私は感じます。

 例えば、部下が深刻な顔をして「ちょっといいですか……」と声をかけてきたとき、話が始まってすぐアドバイスをするのではなく、部下の報告が終わるのを待ってから相手の新たな気づきを促す質問をしているのです。そのようなマインドから始まる織の中では、ハラスメント被害者やメンタルヘルス不調者は出にくいと感じます。

 ぜひ読者のみなさまも、職場でこの「きく技術」を始めてみてください。

<TEXT/武神健之>

【武神健之】

たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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