ここから本文です

紙の本は滅びない。アメリカでも。

6/26(月) 8:00配信

BEST TIMES

日本以外の国でも、書籍の売り上げが10年以上も減り続ける状況から抜け出せない「出版不況」や、電子書籍の登場とスマホの台頭で紙の本が売れなくなっているという事実はあるのだろうか? アマゾンのリアル書店の出現に、全米の街角の本屋さんはどう対応しているのだろうか?  本屋に人が集まっているのだろうか? 世界の出版事情に詳しい大原ケイ氏の寄稿。

データから読み解く世界の書籍市場

  まずデータから、世界の書籍市場の「今」をのぞいてみたい。今春ロンドンで行われたブックフェアで、書籍のPOSデータを集計した「ブックスキャン」を61カ国で提供するニールセンが、2016年の統計を発表した。

 それを見ると、英語圏の中枢をなすアメリカとイギリスでは、Eブック(電子書籍)の勢いが衰えた分、紙の本の売り上げが盛り返していることがわかった。その一方でスペイン、イタリアといったEU負債国では減少している。このことから推察されるのは、紙の書籍の総売上に影響を与えるのはEブックの台頭よりも、その国の経済状態が大きいということだ。事実これまで飛躍していたブラジルも2016年にはガクンと落ちた数字になっているし、アイルランドは逆に10%近く増えた。

 ただEブックの売り上げが落ちてきたとはいえ、出版社を通さないセルフ・パブリッシングの本は相変わらず増えているし、キンドルやヌックといった電子書籍専用のデバイスでの売り上げが減っている一方で、スマホやタブレットでの売り上げは増えている。

アメリカの紙の書籍市場は伸びている

 一般に電子書籍大国と呼ばれるアメリカのデータをもう少し詳しく見ていこう。意外なことにアマゾンのリアル書店が登場した2016年、アメリカでの紙の書籍総売り上げは6億7400万ドルに達し、3年続けての増額となった。ちなみに昨年は大統領選挙戦に影響を与えたとされるフェイクニュースの氾濫があった一方で、一般書のノンフィクションの売り上げが前年比で6.9%も上がっているのが興味深い。
※データは前述ニールセン「ブックスキャン」(米国内の総売り上げの8割ほどをカバー)による。

 紙の本のカムバックと裏腹にEブックの売り上げは前年比で16%落ちているという。だが、これは出版社側の売り上げ報告をまとめたもので、出版社を通さないセルフ・パブリッシングのEブックは相変わらず成長しているようだ。ニールセン社の分析では、出版社から出ているEブックの販売価格の平均が8ドルなのに対し、セルフ・パブリッシングの本は3ドルが平均値で、お得感があるからだという。

 この状況の背景として、出版社側が必要以上にEブックを安売りしない値付け方針に切り替わったことにも一因があるだろう。もともと「ビッグ5」と言われる米大手出版社は、2014年にアップルと結託して「iBookstore」での定価を釣り上げたとされる反トラスト法の訴訟で司法省と和解した際、出版社側が価格決定できる「エージェンシー・モデル」を禁じられた過去があった。それが2016年半ばから縛りがなくなって再び出版社側がEブックの値付けの裁量権を得た経緯がある。

 自由にEブックを値下げできなくなったアマゾンは、代わりにペーパーバックの値段を下げたことも2016年の紙書籍の売り上げに貢献したと見る向きもある。

 だが、もっと根本的な要因はアメリカ人の読書指向が若い世代を中心に「紙」に回帰しているからかもしれない。読者調査で分かってきたのは、意外にも「ミレニアル」と呼ばれる若い世代が「本を読むなら紙」を好むということだった。大学生を対象にした調査の一つでは、実に92%がデジタルより紙で本を読む方が好ましい、と答えている。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

出版社ベストセラーズの編集者が作る「感情を揺さぶる」情報マガジン「BEST TIMESベストタイムズ」。