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「問題は、サッカーボールに触れている時間ではない。イタリア社会全体の課題」インテル育成責任者が語るタレント枯渇問題

6/26(月) 22:25配信

footballista

INTERVIEW with
Roberto SAMADEN
ロベルト・サマデン


“ 育成レベルでの監督のクオリティは非常に高い。
その可能性を信じて投資してほしい ”


バッジョ、デル・ピエーロ、トッティ、ブッフォン、ピルロ――ワールドクラスのイタリア人スター選手たちがセリエAの舞台でしのぎを削っていた時代は今や昔。カルチョの根幹をなしていた、個性豊かな才能はどこへ消えてしまったのか――? 先日のU-20W杯で同国史上最高位となる3位となり、現在開催中のU-21欧州選手権でもドイツから勝ち点3を奪い準決勝進出を果たすなど徐々に結果を出し始めたイタリアの育成事情。その課題と対策について、名門インテルで10年間にわたり育成部門の責任者を務めてきたロベルト・サマデンに、「社会」「構造」「育成メソッド」という3つの側面にフォーカスして話を聞いた。



インタビュー・文 片野道郎



子供たちの運動能力の低下
学校教育や社会教育のレベルでの取り組みが遅れている


──イタリアからなぜワールドクラスが生まれなくなったのか、イタリアサッカー全体を育成という観点から見た時の現状はどうなのか、というのが今日お聞きしたいテーマです。まずは大きなバックグラウンドとしての社会的側面から始めましょう。

「大前提として言っておくべきなのは、今のイタリアと同じように、他の大国、例えばドイツもトップレベルの選手を輩出できずピッチ上で結果を出せない時期があったということ。どの国も長い目で見れば、多かれ少なかれそういう興隆と衰退のサイクルを経験するものだ。ドイツサッカー連盟は2000年代初頭から大規模な育成プロジェクトを立ち上げ、全国各地に連盟直轄の育成センターを作ってタレントの発掘と強化の体制を底上げし、10年かけて世界の頂点に復帰した。イタリアにもドイツと同じようにサッカーの歴史と伝統があり、非常に優秀な監督たちという財産がある。アンチェロッティやコンテを見てもわかるように、イタリアの監督は国内だけでなくヨーロッパでもトップクラスの実績を誇っている。つまり今の状況を改善するためのリソースは持っているということだ。

 社会環境ということで言えば、イタリアも他のヨーロッパ諸国と同じように、この20~30年で子供が日常的に身体活動を行う機会は明らかに減少している。私たちが子供の頃には、学校から帰って来た後は日が暮れるまで毎日外でボールを蹴っていたものだが、今やそういう場所は減ってきているし、また子供をそういうふうに外で遊ばせておくことができない社会になってしまった。スポーツにとって最も重要なのは、幼少期にできるだけ多くの時間、身体活動をすることだ。これはサッカー界、スポーツ界だけでなく学校を含めた社会全体の問題でもある。身体活動が発達している社会はスポーツにおいてもより多くのタレントを生み出す。それを特定のスポーツのプレーヤーとしてどう育てていくかはまた次元が違う問題だが、ピラミッドの底辺としてのスポーツ環境、身体活動の量という点では、ヨーロッパの他の国々と同じようにイタリアも減少傾向にある」


──子供たちが日常生活の中でサッカーボールに触れている時間、ボールを蹴って遊んでいる時間は、この20~30年でどのくらい減っているのでしょうか?

「問題は、サッカーボールに触れている時間ということではなく、もっと一般的に身体活動そのものの時間が減っていることにある。基礎的な運動能力やコーディネーションのレベルで、イタリアの子供たちの平均レベルは明らかに下がっている。おそらく日本もそうだろうけれどね。特定のスポーツの技術を発達させるためには、まずベースとなる運動能力やコーディネーションが高いレベルになければならない。そのベースのところの話だ。今やストリートや公園で日常的に遊びとして身体活動を行うことが社会的に不可能になっているのだとしたら、他の形で子供たちがそういう活動を日常的に行える環境を提供する必要がある。それは学校だったりクラブだったり地域社会だったりするわけで、そうなるとサッカー界の問題というよりはスポーツ界、さらには国の問題ということになってくる」


──その一方で、ドイツ、ベルギー、フランス、スペインといった国々では、この20年の間にもワールドクラスのプレーヤーが生まれていますよね。しかしイタリアではピルロ、ブッフォンを最後に、80年代生まれ以降は国際的にトップレベルのプレーヤーがほとんどいない。それにはどう説明をつければいいのでしょう。

「メッシやロナウドのような世界的なスーパータレントがいつどこで生まれるかは、偶然によって決まるものだと思う。それはバッジョ、トッティ、デル・ピエーロといったイタリア産のタレントについても同じことだ。彼らのような真のタレントは、育成によって作り出すものではない。育成という観点から見た時に違いを作り出すのはむしろ、プレーヤーの平均レベルだ。イタリアサッカーの問題もそのプレーヤーの平均レベル、つまり多くの好選手を輩出できるかどうかにある。それを実現するためには長期的な視点に立ったプロジェクトが必要だ」


──ということは、この15~20年はプロジェクトが存在しなかった、あるいは少なくとも質の高いプレーヤーを安定的に輩出できるレベルでは機能していなかったということでしょうか?

「そういうことになる。サッカー連盟レベルでやっと本格的な取り組みがスタートしたのは、ここ数年のことだ。我われの友人であるマウリツィオ・ビシディがアリーゴ・サッキと始めた育成年代代表のプロジェクトや、去年からはイタリア各地に連盟直轄の育成センター設置も始まっている。初期投資の規模はドイツと比べればずっと少ないけれどね。プロクラブの育成への取り組みには個々のクラブによって差があるが、問題はそこではない。重要なのはむしろアマチュアレベル、グラスルーツレベルでどれだけベースを広げられるかにある。土台が広いほどピラミッドの頂点も高くなるというたとえは、ほとんどの場合正しい。頂点を高くすることを考えるならば、まず底辺を広げることを考えるべきだ」


──そこで、すべてのベースとなる子供の身体活動の量が減ってきているという社会的な問題に繋がってくるわけですね。その観点から見るとイタリアは他のヨーロッパ諸国から見て遅れているのでしょうか?

「学校教育や社会教育のレベルで身体活動を促進していくという取り組みでは、イタリアはまだ遅れていると思う。ドイツやベルギーでは国レベルでそうした取り組みが進められているが、イタリアでは進んでいないからね」



移民とのインテグレーション
今、各年代の代表でプレーしている移民二世は以前よりもずっと多くなった


──もう一つ、外国からの移民やその二世の社会的なインテグレーション(統合)がイタリアはまだあまり進んでいないという側面もあるように思います。例えばドイツ代表ではポーランド、トルコ、アフリカなど様々な民族的オリジンを持つ移民二世がプレーしていますが、イタリアではまだその比率は相対的に低い。

「確かに、社会的に見ても異文化の受容やインテグレーションが進んできたのは最近になってからだ。イタリア社会として、日常の中に異民族を受け入れるという意味でのインテグレーションはこれまであまり進んでいなかった。サッカー界に関して言えば、育成年代の代表レベルでこうした移民やその二世のタレント発掘に積極的に取り組んでいる。今各年代の代表でプレーしている移民二世は以前よりもずっと多くなった。その意味で取り組みはすでにスタートしていると言っていい」


──イタリアの場合、地域によってプロサッカー選手を輩出する数にかなりのばらつきがありますよね。例えばミラノのあるロンバルディア州だと北部のベルガモ周辺が凄く多かったり、州でいうとベネト州からロマーニャ州にかけて、そして南部のカンパーニア州が多くのプロ選手を輩出しています。

「イタリアはもともと一つの国家ではなく都市国家の集まりで、地域によって社会的・文化的な差違が非常に大きい。それがこの国の文化的な豊かさでもあるわけだけれどね。ただ、それはその地域にあるクラブの取り組みによる違いではなく、その地域におけるサッカーの社会的・文化的な位置づけ、あるいは経済的な豊かさといった条件によるものだと思う」


──ちょっと時期をさかのぼると、1995年のボスマン判決でEU域内の国際移籍が自由化されて契約満了選手のフリー移籍が可能になったことで、一般論として言うとプロクラブにとって育成に投資する動機が減ったという側面があったということはないでしょうか。実際、ミランはたしか98年にU-15から下の育成部門を廃止して、提携クラブとなったモンツァに委託したことがありました。その一方ではウディネーゼのように、自前の選手を育成するのではなく世界中から半分でき上がった20歳前後の選手を発掘してくることに、強化の軸足をはっきりと移したクラブもありました。それがイタリアからトッププレーヤーが出てこなくなった時期と一致しているのは偶然なんでしょうか?

「一般論としては、必ずしも偶然とは言えないね」


──もちろん、ユベントス、インテル、ローマといったビッグクラブは常に育成に投資を続けてきています。しかし地方都市のいわゆるプロビンチャーレの中で、育成にはっきりと軸足を置いているクラブは今やアタランタとエンポリくらいですよね。セリエBやレガ・プロ(3部)の現状は十分に把握していませんが、積極的に育成に投資しているクラブのことはあまり耳にしません。

「クラブごとの取り組みには確かに濃淡がある。しかしセリエBでは例えばチェゼーナやスペツィア、ノバーラ、プロ・ベルチェッリといったクラブが育成に力を入れ始めているし、レガ・プロにもパドバ、アルビノレッフェ、コモ、プラートなど、積極的に投資しているクラブは少なくない。とはいえ、セリエAからレガ・プロまで102のプロクラブを見渡すと、育成部門に力を入れていないクラブの方が多いことも確かだ。イタリアのプロクラブは、イングランドやフランス、ドイツのように育成に投資することを義務づけられていないという事情もある」

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最終更新:6/26(月) 22:25
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