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『正解するカド』11話 ザシュニナ激白「真道は馬鹿か。私の気持ちを全く判っていない」

6/26(月) 17:04配信

おたぽる

──「ヤハクィザシュニナは驚きたいんだ。だからこの交渉は先に話す事が出来ない。サプライズには秘密が必要だからな」
『正解するカド KADO:The Right Answer 』の11話。もはや破れかぶれになるしかない米光一成が全話レビューしているよ。


■泣きながら沙羅花とキス

 真道は馬鹿か。
「だけど、情報量が多ければそれでいいわけじゃない。時間をかければ処理出来てしまう。処理しきれないというのは莫大な量を短時間に摂取すること。集約した情報を一度に与えられることだ。つまり分かりやく言うとアイツが予想もしなかったことが起これば良い」
 おまえと私の次元がどれほど違ってるのか、まだわかってないのか。
 37だぞ。
 この宇宙の37乗倍の処理速度と37乗倍の広がりを持つ異方に存在するのが私だぞ。
 つまり、お前にとって、私は、全知全能の神に等しい。
 お前が、何をやり、何を企んでるのか、手に取るようにわかっておる。
 お前が、徭沙羅花と全裸で照れ照れしたり(これを人間たちが「朝チュン」と呼ぶことも驚異的な学習能力を持つ私は知っている)。
 死を覚悟して特攻する愚かさを美学と勘違いし、泣きながら沙羅花とキスしているのも(ピアノ曲が流れていれば、馬鹿ッて言う女とキスできる法則も、私は知っておる)。
 すべて私は探知しておるのだ。
 37乗倍の処理速度と37乗倍の広がりを持つ異方存在なんだぞ。
 分からないことは、ただ一つ。
 なぜそんな馬鹿な真道に、私が心を揺らしているのか。


■模造品の真道じゃ満足できないんです

 心の揺らぎなど、そう感情などというものは、37乗倍の情報処理速度を持つ存在にとっては、ただのノイズだ。
 そのようなものは、私にはほとんど存在しない。
 しないはずだ。
 人間の本を読みすぎたか。
 恋だの愛だの想像力だの、人間の本に登場する8割以上が、私にとって、不出来な情報処理の結果生じるノイズでしかない。
 とくにSF。
 初期設定のミスによって生じたバグを、そのまま暴走させ、バグったまま強引に収束させ、あたかも一つの整合性あるまとまりとして成り立ったかのように見せかける。
 それを思弁などと呼び、正当化し、あまつさえ作品などと言い出す。
 いや、整合性があれば、まだよい。
 バグと御都合主義のまま暴走し、風呂敷をひろげまくって逃亡する。
 人類は馬鹿か。
「泣かないで沙羅花さん」じゃないだろ、真道の馬鹿。
 模造品の真道で埋め尽くされた空間で泣いている私になぜ気づいてくれないのか。


■クソダサいスーツ

 知っているぞ。
 アンタゴニクスと名付けたあのクソダサいスーツ。
 なんで茶色で、袖なしなんだ。
 フレゴニクスを破る発明だそうだな。
 おまえらは、後出しじゃんけんがどれだけ好きだ。
 いっつもいっつも伏線なく唐突なサプライズ。まともな交渉はせず、デートだの殴り合いだの。
 予告を見てみれば、「ザシュニナあああー」っつて真道が叫んでヤンキー漫画のタイマン勝負みたいなシーンがあったが、そんな展開は許さんぞ。
「隔絶体……言うなれば異方存在を閉じ込めるための檻です。これに触れさせればザシュニナを内部に封じる事が出来ます」
 その後出しじゃんけんも卑怯だろう。
「あるといえば、ひとつだけ可能性があるんです」
 そんなの後から言っていいんだったら、なんでもアリじゃないか。

 あれほど私を信頼していた真道……。
 簡単に私を悪に仕立て上げやがって……。
 まあ、よい。
「ヤハクィザシュニナは驚きたいんだ。だからこの交渉は先に話すことが出来ない。サプライズには秘密が必要だからな」
 馬鹿真道は、マジメにこんなことを言っているのか。
 全知全能に近い存在の私が、おまえが何を企み、何を考えているか、言葉にして言わないだけでわからないとでも思ってるのか。
 中学2年生がお母さんの誕生日にしかけるサプライズパーティーか。
 筒抜けだ。
 わかっておる。
「交渉のゴールは双方の望みを叶えること、だからアレは武器じゃなくアイツに一泡ふかせてやるための道具、ザシュニナ側が本当に望んでいるモノなんだ」
 そうだ。私が望んでいるモノだ。
 だから、知らないふりをしているだけ。
 おまえが計画していることなぞ、すべてわかっておるわ。


■私が望む最大のサプライズ

 私が望む最大のサプライズ。
 私が、真道の前に現れ、殺そうと近づいたそのとき。
 我がプレゴニクスを破壊して(そうだ、その時、アニメ的な法則によって、我が服は引き裂かれるだろう)(そして、ついでにお前の服も、だ)、
 近づいてくるお前が私と交わすベーゼ。
 しまった驚異的な学習能力のせいでついフランス語が出てしまった。キスだ。
 私が望んでいる物。
 それは、ただの交渉ではない。性交渉だ。
 お前が私を殺すために交わす最高のキス。
 知っているので、サプライズでもなんでもない。
 なんでもないのに、この心の揺らぎは、なんだ。
 そのシーンを想像するだけで、なぜ私のココロは、揺らぐのか。
 人間が読むSF小説の傑作群たちがもたらす「揺らぎ」と同じ揺らぎを感じるのはなぜだ。
 夢見る必要のない私が、夢を見るほどに揺らいでいるのはなぜだ。
 この気持ちはなに? これは恋?
 ば、ばかな。私は時をかける少女か。否!

 だいじょうぶだ。
 次回、最終回。
 もう時間はない。
 真道、おまえを異方に連れていくぞ。品輪を連れてってもしょうがないからな。
 私より高次元の存在が現れない限り、我が計画に狂いは生じない。
 そうだ。
 ヤツさえ現れなければ……。
 私より高次元にいる存在、そいつの名は「木下グループ」……。

(文/米光一成)

最終更新:6/26(月) 17:04
おたぽる