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アマゾン、ホールフーズ買収の狙いはデータ

6/26(月) 17:00配信

ニューズウィーク日本版

<小売の覇者は技術で決まる。モータリゼーションの波に乗った米百貨店シアーズ、コンピューターで集めた店舗情報をいち早く経営に生かした安売り大手ウォルマート、そして今度は顧客情報とAIで武装したアマゾンの番だ>

米安売り大手ウォルマートは一時、全米一のテクノロジー企業と呼ばれたこともあるが、いつの間にか道を過った。

ウォルマートは先月、男性用衣料品オンライン販売ボノボスを発表。昨年買収した電子商取引のジェット・コムと併せデジタル小売部門を強化しようとしたが、マイケル・ジョーダンに野球をやらせるようなちぐはぐな会社になっただけだった。

その頃ネット小売り最大手のアマゾンは、北軍の闘将シャーマン将軍のように勇ましくリアル小売業に攻め入り、買い物という体験そのものを自らのイメージに作り直している。アマゾンが高級食料品店大手のホールフーズを買うと言ったとき、アマゾンが高級食材を買って何をするつもりか一言も言わなくても、我々にはすぐにイメージできる。エキゾチックな新野菜をドローンで宅配する未来の姿が。

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小売りの業態は常にテクノロジーによって変化してきた。戦後、本格的なモータリゼーションの到来とともに、通販会社だったシアーズは郊外に大型店を展開するようになった。遠くから車で大量の商品を買いにくる客のニーズに応えて、1980年代には全米最大の小売業者になった。

「IT企業」ウォルマートの時代

シアーズが急成長を続ける1962年、サム・ウォルトンがアーカンサス州ロジャーズに最初のウォルマート店舗を開く。その後、大手小売りが見向きもしないような田舎に125店舗を開く。当時のウォルマートはまだ、とくに革新的な小売業者ではなかったが、社会を変えるもう一つのテクノロジーが生まれた。コンピューターだ。

1975年、ウォルマートはIBMの汎用コンピューターを借りて全店舗から情報を集め始めた。1980年代前半までには、バーコード読み取りのシステムも完備した。ウォルマートは本部に巨大なコンピューティング・パワーを備え、それを、既存の小売業者には想像もつかないようなやり方で業務に生かすためのソフトウエアを書いた。

ウォルマートは、どの店舗でどの商品が売れたかを地球上の他のどの小売業者よりもよく把握している。そのため何をどれだけ仕入れたら無駄がないかがよくわかり、他社より安い価格で売ってもより高い利益を上げることができた。コンピューターの進化の波に乗ったウォルマートは、1990年に売り上げでシアーズを抜き、全米最大になった。2002年には、フォーチュン500に入った。



ウォールマートの強みは同時に、ウォルマートが手に入れ損なったことをも示している。ウォルマートは、店舗で何が売れたかを知ることで成功した。個々の客が何を買ったかではない。それが、1994年に創業したアマゾンの強みだ。創業者のジェフ・ベゾスは、まだ萌芽期のインターネットを活用しようとしていた。アマゾンはコンピューターを通じて顧客に直接商品を販売するので、すべてのやりとりが記録に残る。アマゾンは、個々の顧客がどんな商品を見て何を買ったかを知ることができるのだ。

1990年代になるとアマゾンは、それまでに蓄積してきた顧客データをもとに、個々の顧客に商品を推薦する方法を模索し始めた。初期の人工知能(AI)の能力にもきづいていた。「ベゾスは、これが名門他社にはないアマゾンの圧倒的強みになる」と言った、とアマゾンについての著書があるジャーナリスト、ブラッド・ストーンは言う。「かつての名門小売業には、自らの顧客を個人ベースで知る機会がなかった」

アマゾンはAI時代の小売業だ。アマゾンがやることはすべてデータを吸収し、それによってAIが、いかに顧客を絞り込むか、それぞれの顧客に合った商品を提案できるかを学習する。アマゾンには今や3億人のユーザーがいて、その約20%は最低週1回はアマゾンから買い物をしている。

老舗小売大手に淘汰の波

誰より自分の店舗を知っていたウォルマートに、誰より顧客を知っているアマゾンが勝ったのだ。ウォルマートは年間4820億ドルの売り上げに対し時価総額は約2270億ドル。アマゾンは1360億ドルの売り上げに対し時価総額は4720憶ドル。投資家がアマゾンにはまだまだ成長余地があると見ていることがわかる。

ホールフーズ買収もたぶん、AIに何かを学ばせることと関係があるはずだ。アマゾンがホールフーズからケールを好んで食べるような顧客層の属性を学ぶか、アマゾンのAIがホールフーズの品揃えをローカルの消費者に魅力あるものにする方法を教えるか、あるいはその両方だ。

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ウォルマートが不利なのはAIだけではない。ウォルマートは世界で5000近い店舗をもち200万人の従業員を雇用している。アマゾンがロボット化した配送センターで34万1000人の従業員しか雇っていないのと比べると驚くべき高コスト構造だ。

AIの時代はまだ始まったばかりだ。ウォルマートはいずれ、破綻寸前のシアーズのように過去の会社になるだろう。ウォルマートは偉大な会社だ。シアーズもそうだった。だがテクノロジーは容赦なく変遷する。アマゾンもいずれ同じ運命をたどるのだろうが、それはまだ少し先のことだ。


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