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物理学者が生成した「負の質量」をもつ物質の正体とは?

6/27(火) 7:30配信

WIRED.jp

米ワシントン州立大学の研究者らが、「負の有効質量」を持つ流体の生成に成功した。この性質の何が特別で、本当に物質の質量がマイナスであるかのようにふるまうことなどあり得るのだろうか?

時計が高精度になるほど、時間はより曖昧になる

今年4月、物理学会が発行する学術誌『Physical Review Letters』に掲載された、「負の質量」を持つ物質の生成に成功したというニュースは、多数の海外メディアにてセンセーショナルに報道された。

もし「負の質量」を持つボールを手で押したとすれば、それは押した方向に加速して転がるのではなく、手前に加速して返ってくる。そんな“最高にロック”な物質が生まれたとなれば、反重力装置が開発されるのは時間の問題。そうしたら、ホヴァーボードはもちろん飛行石なども簡単に作れてしまうようになるのでは──などと夢は広がるが、残念なことにこれらは早合点だ。

このたび米ワシントン州立大学の研究者らは、ルビジウム原子を絶対零度付近にまで冷却し、ラマンレーザーでスピン軌道相互作用を引き起こすことで、「負の有効質量」を持つ流体の生成に成功した。「負の有効質量」自体は、実は半導体などの世界でも見られる現象だという。では今回の実験で生成された「負の有効質量」を持つ物質は、いったい何が特別なのだろう? そして本当に、物質の質量がマイナスであるかのようにふるまうことなどあり得るのだろうか? 

「かねて実験では、光格子や電子バンド構造などで『負の有効質量』が見られましたが、これらはシステムの空間構造(格子)がもつ潜在的な特性に起因するので複雑です。今回の研究で新しいのは、スピン軌道相互作用レーザーを用いたシステムにおける、『負の有効質量』の実証です」。このように『WIRED」日本版に答えてくれたのは、この研究を率いた米ワシントン州立大学の物理学者、マイケル・フォーブス准教授だ。

フォーブスらの研究グループは、新たな実験設定下で極低温の原子の特性を研究していた。これらの結果が、観測はできても実験ができない宇宙論や天体物理学をモデル化するのに役立てられるかもしれないからだ。あらゆる環境下における物質の基本的性質を知ることができれば、量子コンピューターや超精密センサーなどの分野にも利用できるかもしれない。

「たとえば低温原子の中でもリチウム原子は、超新星爆発の超高密度残骸である中性子星の特性をモデル化するのに利用できるはずです。物理的法則の不変性により、適切な条件下におけるリチウム原子の特性は、中性子星の地殻中性子の性質にほぼ直接的に関連します。何千光年も先にある弱々しい光を観測するしかなかった分野でも、物理の実験室で探求できることはあります」

今回発表された「負の有効質量」を持つ流体も、極低温の原子で作製できる機能のひとつにすぎないとフォーブスは言う。

「わたし達の実験では、並進不変性を保ちながら『負の有効質量』を生成します。したがって、潜在的な可能性のいくつかにより導き出された複雑な性質ではなく、この効果が事実、『負の有効質量』から生じることを明確に証明することができるのです」

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最終更新:6/27(火) 7:30
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