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磐田・アダイウトンが破った殻。日本で飛躍的な成長、ブラジル人アタッカーの地道な努力

6/27(火) 11:37配信

フットボールチャンネル

 25日、明治安田生命J1リーグ第16節が行われ、ジュビロ磐田はFC東京をホームに迎え2-0で勝利した。これでサックスブルーはガンバ大阪、浦和レッズ、FC東京というリーグ上位を狙うチームに対して3連勝。全体として良い状態を保っているが、そのなかでも3試合連続ゴールを決めているアダイウトンの活躍は特筆すべきものがある。スタメン落ちを経験し、一皮むけたブラジル人選手の成長過程に迫った。(取材・文:青木務)

2017年J1在籍選手、通算得点トップ10。1位と2位は同一クラブのFWがランクイン

●磐田加入後初の3試合連続弾を記録

 ジュビロ磐田の好調を支えるポジティブな点はいくつも見つけられるが、アダイウトンの快進撃もそのひとつだろう。明治安田生命J1リーグ第16節・FC東京戦では、CB森重真人の死角から走り込み、川辺駿のスルーパスを冷静にゴールへと結びつけた。

 この勝利で磐田は7位に浮上した。堅い守備と迫力ある攻撃ががっちりと噛み合っており、ピンチの時間帯を切り抜けた先に待っているチャンスを確実にモノにしてきた。ガンバ大阪、浦和レッズ、FC東京とリーグに轟く強豪を打ち破り、J1復帰後初の3連勝を達成。その価値の大きさは計り知れない。

 未勝利の5月から一転、6月を全勝で駆け抜けたサックスブルーだが、アダイウトンはいずれの試合もネットを揺らしており、2015年に加入して以来初めてとなる3試合連続ゴールを記録した。常々、チームのために得点を挙げたいと話している彼にとっても、納得のいく結果に違いない。

「(3連勝のスタートとなった)G大阪での勝利で、チームの絆がぐっと深まったように思う」

 今年1月に一児のパパとなった男は、チームに流れる雰囲気について手応えを口にしていたが、この3試合で磐田が奪った得点は『9』、失点はわずか『2』と抜群の数字を叩き出した。勝てない時期を経てさらに強固となった一体感は注目すべきだろう。そんな名波ジュビロにあって、背番号15の貢献度も見逃せない。

 アダイウトンは試練に打ち勝って今の立場を手にしている。4月から5月にかけて、加入後初めてのレギュラー落ちを経験。その期間に自身を見つめ直し、再びピッチで躍動するために力を蓄えていた。

 またもう少し広い視点で見た時、このアタッカーが日本で、そして磐田で大きな成長を遂げたことがわかる。

●昨季は自身初のJ1に苦しんだことも

 移籍初年度の2015年はJ2で17ゴールを挙げ、3年ぶりのJ1復帰を果たしたチームの中で大きな役割を担った。

 完全移籍に移行して迎えた昨シーズンは、リーグ戦全34試合にスタメン出場。当初はJ1初挑戦ということを感じさせないプレーを見せたが、特徴を研究した相手が2~3人がかりで対応してくるようになると、武器であるスピードやパワーを発揮できなくなった。責任感の強い彼はそこで下を向くことなく、何とかしてチームに貢献する姿勢を強めていった。

 しかし、ドリブルすべきところでボールを運べず、パスを選択すべきところで無理に突破を図ろうとするなど、プレーに冷静さが失われていたのは事実。それでも名波浩監督がスタートから起用し続けたのは、重要な戦力であることはもちろん、日本トップカテゴリーでの苦しい経験が必ず未来に繋がると信じていたからだった。

「まだ若いからここから2、3年で十分にサッカーを覚えていけばいい。『持ったら行け』というサッカーを今までやらされてきていたから」

 アダイウトンの脅威が他クラブに知れ渡った昨年のある日、指揮官はこう話している。サッカー王国で磨かれ傑出した爆発力をさらに進化させつつ、守備面や周囲との連係など様々なタスクを根気強く身につけさせようとした。何より、アダイウトン自身に学ぶ心があったことが重要だろう。名波監督に教えを請い、助言に耳を傾けた。

 その姿勢は、今シーズンに入ってからも変わらなかった。第5節から7試合連続でベンチスタートとなったが、「非常に有意義な時間だった」と真剣な眼差しをこちらに向けた。

●スタメンを外れた時期。現状打破に必要なものを思案する日々

 2017年の磐田は『競争』がひとつのテーマとなっている。各ポジションに実力者が加わったことで昨年までの序列はリセットされた。スタメンを約束されている者はおらず、パフォーマンスが落ちれば当然、試合のピッチに経つ時間は短くなる。

 アダイウトンも例外ではなかったが悲観的にはならず、むしろチャンスと捉えていたようだ。第12節・柏レイソル戦に2トップの一角で先発復帰した後、こう振り返った。

「自分がいくら気を抜いていないようでも、ずっとレギュラーで出ていると少し油断というか、自分に甘さが出てくる時もある。自分自身に喝を入れる、檄を飛ばすという意味でも良かったなと。柏戦では久々にスタメンで出たけど、チームメイトとの競争があったおかげでいいプレーというか、自分でも少しレベルが上がったと感じる」

 試合に出場できないからといって不満を漏らす人間はチームにはいないが、この26歳も気落ちすることなく、現状打破には何が必要かを考えていた。

「サッカーをやっている上で、レギュラーで出ている時もあればベンチに座ることもあるので、全く慌てる必要はない。ベンチから出るメンバーがいいプレーをすると、チームにとってもプラスになるし、練習でしっかりアピールしてレギュラーを取るというこの循環は非常にいいものだと思う。

 常にメンタルを平常心に保っていないと、出番が回ってきた時にいいプレーができない。自分のキャリアの中でそういうこともあったし、酸いも甘いもたくさん経験してきたので、慌てる必要はないとわかっていた」

 自身の置かれた状況に一喜一憂せず、フラットな気持ちで日々を過ごすことは決して簡単ではない。だが、アダイウトンはそれを実践してきた。だからこそ今の活躍があるのだろう。

●「自分がボールを持った時に一番『矢』になる」(中村俊輔)

 練習後のクールダウンで、アダイウトンと中村俊輔が通訳を交えてコミュニケーションを取る姿がある。磐田の新たな10番は、加入当初からこのブラジル人アタッカーのスピードとパワーに着目していたようで、リーグ戦開幕直後にこんな言葉を口にしている。

「(昨シーズンの)ジュビロのゴール集を見ても、センタリングやCKからジェイの頭、アダが抜けてというシーンが多かった。自分がボールを持った時に一番『矢』になるのが、今のところアダかなと」

 動き出しのタイミングについて的確なアドバイスを送ることで、特徴を最大限まで引き出そうともした。

「相手最終ライン(付近)にいていいよ、そこでヨーイドンしたら絶対にお前の方が速いから、と。プルアウェイしてくれれば足元に出せるよ、とか。そういうことはランニングしながら伝えた。アイツはゲームを決められるし、動かせるから」

 アダイウトンも、中村俊輔とのコンビネーション確立に意欲を示す。自身のパフォーマンスを得点という結果に繋げるためには、パスの出し手と呼吸を合わせることが不可欠だからだ。その言葉には、天才レフティへの敬意が込められる。

「僕自身の意見を言ってもしっかり聞いてくれるし、お互いの考えをすり合わせる関係性が築けていると思う」

 スタメン復帰となった柏戦の前半早々、10番のスルーパスに抜け出してGKと一対一の局面を作った。フィニッシュは相手守護神・中村航輔のファインセーブに阻まれたが、互いのイメージは共有されていた。

「シュンさんが振り向いて顔を上げた時に自分が走り出せば、必ず裏を突けるという話をしていた。シンプルだけど非常に有効な、直接シュートに持ち込めるようなプレーだった」

 今のところ、中村俊輔のアシストから奪ったゴールは第7節・サガン鳥栖戦の1点にとどまる。今後、2人の関係からの得点が増えればチームの成長曲線もさらに上向くはずだ。

●ブラジル人選手が日本で遂げた飛躍的な成長

 堅守をベースに前線の選手をシンプルに活かすという戦い方がハマる中、アダイウトンは“駒”としてのミッションを遂行しながら気持ちよくプレーしている。守備時の持ち場が明確になったことで役割が整理され、攻撃に出た際の迫力で相手に脅威を与えている。『今、何をすべきか』がわかっているから局面、局面で100%の力が発揮できる。

「自分だけの努力ではなく、周囲の協力があってこその自分の結果だと思う。努力は嘘をつかないな、としみじみ感じている。本当にやり続けることが大事だと思うと同時に、これで天狗にならず地に足をつけてこの先を突き進んでやっていきたい。

 これからもきっとハードなマークが来るのかなと思っているけど、自分はスピードと強さがある選手だとわかっている。その中で、シンプルにボールを叩くなり裏へ抜けるなりと、そういうプレーを心がけていけば、フリーでボールをもらった時には果敢に前に突き進むことができる。そうすれば相手は困惑や迷いが出てくると思う。今後もそういうところを突き詰めたい」

 FC東京戦後、3戦連発に浮かれることなく気を引き締めていた。

「ここから2、3年で十分にサッカーを覚えていけばいい」という名波監督の下、ブラジルからやって来たひとりのプレーヤーは日本で飛躍的な成長を遂げていると言えるだろう。

 ベンチを温める日々が続いても焦ることなく自身と向き合い、捲土重来の機会をうかがってきた。壁を打ち破り重要な戦力へと返り咲いたアダイウトンは改めて、サックスブルーに欠かせない存在となった。

(取材・文:青木務)

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