ここから本文です

都議選「自民大敗」で麻生「ワンポイント首相」の可能性

6/27(火) 6:00配信

新潮社 フォーサイト

 

 日本の政治に再び喧騒の季節が巡ってきた。6月23日告示、7月2日投票の東京都議選である。森友学園問題に続き加計学園問題で苦境に立たされた、安倍晋三首相と自民党に逆風が吹くが、野党第1党の民進党は追い風どころか失速のきりきり舞い。小池百合子都知事の率いる「都民ファーストの会」(都民F)が強い追い風を独り占めしている。都議選後の政局は「ポスト安倍」を加速するのか、その時の日本の経済運営や外交は――。にわかに積乱雲が地平線に巻き起こる。


■「都民ファースト」勝利予測で蘇る記憶

 選挙マニアに人気のサイト『初めての選挙』によれば、都議選(定数127議席)の情勢分析はこんな具合だ。都民F47、自民40、公明23、民進6、共産10、生活者ネット1。仮にこの予想通りとすると、都民ファーストはほぼ全員当選となる。自民は選挙前から16議席も減らし、リクルート事件まっただ中の1989年の都議選で記録した43議席をも下回る。大阪府議会同様の1議席か、大阪市議会並のゼロ議席を危惧されている、「限界集落」ならぬ「限界政党」民進には、「6議席も」と自己欺瞞の安堵が漂うかもしれない。

 予想は専門家に任せるほかないにせよ、小池知事は強運の人である。春先には都民Fの過半数獲得がささやかれながら、東京五輪の費用負担問題や築地市場の豊洲移転問題で失速。一時は自民に水をあけられた感じもあったのに、蕎麦屋ではないが「もり」の次に「かけ」が飛び出したことで、今度は安倍政権が失速。民進党が世論の相手にされないなかで、濡れ手で粟で浮動票を獲得しようとしている。

 どこかで見た感じ。小池氏が政界入りした際の日本新党ブーム、自らが刺客として兵庫から東京に乗り込んだ小泉郵政解散、あるいは無手勝流で挑んで大勝をもぎ取った前回の都知事選。どこかしらすべて当てはまる。自民党にとっては1989年のリクルート選挙(参院選)、2007年の消えた年金選挙(同)、あるいはその直前の都議選だろうか。だが、5月以降に行われた海外の国政選挙の方が、むしろ今の日本の雰囲気を照射しているように思われる。


■都議選に重なって見える「仏下院選」

 6月18日に決選投票が行われたフランスの下院選挙。定数577議席のうち、エマニュエル・マクロン大統領の率いる新党「共和国前進」が308議席を獲得して、単独で過半数を確保。選挙協力している中道政党と合わせ350議席と、全体の6割の議席を獲得した。一方、第5共和制の下で政権を交互に担ってきた中道右派と中道左派はともに激減し、共和党は113議席、中道左派の社会党に至っては29議席に凋落した。先の大統領選挙でマリーヌ・ルペン党首が決戦投票に勝ち残った極右政党「国民戦線」は、8議席にとどまった。

 フランスの選挙制度は2回投票制で、小選挙区制なので、相対第1党に有利に出る。しかも共和党のニコラ・サルコジ、社会党のフランソワ・オランドと続いた陳腐な大統領に、フランス国民は辟易していた。積極的にマクロンが選択された訳ではないことは、42%台という過去最低の投票率が、雄弁に物語っている。

 翻って都議選の投票率はどうなるか、注目される。「共和国前進」が左右両派の寄せ集めで、政治の素人ばかりというのは、都民Fを彷彿とさせるからだ。

 大統領選に続き、下院選でも勝利して、マクロン大統領は安定政権の基盤を固めた。日本のメディアがそうヨイショしようと思った途端、4人の閣僚が辞任する羽目になった。連立を組む中道「民主運動」党首のバイル法相、同党のドサルネズ欧州問題担当相、同党のグラール国防相、共和国前進のフェラン国土整備相が、次々と辞任に追い込まれたのだ。

 民主運動の閣僚たちの辞任理由は、公設秘書給与のゴマカシ問題で辞任し、実刑を下された日本の野党幹部のようだった。党スタッフが欧州議会関連の業務に携わった、とウソの申告をし、不正に給与を受け取った疑いが浮上したのだ。フェラン氏はパートナーだった女性に事業上の便宜を図った疑い。フェラン氏自身が幹部を務めた団体に対し、所有する物件にこの女性を入居させるよう働きかけたというのだが、これまたどこかの国で聞いたような話である。

 マクロン大統領は、働く人に手厚い労働規制を緩め、フランス経済の競争力の回復を訴えるが、労働組合が強く反対するのは目に見えている。この山を越えられなければ、与党に6割の議席を与えた有権者の失望を買うことになるだろう。

 小池知事の場合は、舞台は国政ではなく都政であり、五輪予算や豊洲移転などの懸案をひとまずやり過ごした。しばらくは厄介な問題を避けて通ればよいと思うのだろう。だが、首相の座という野心が頭をもたげるとき、五輪や豊洲とは比べ物にならない難題に直面することになる。


■英メイ首相「二都物語」の敗北

 英国の総選挙はある意味で第2のBREXIT騒動といえよう。4月に抜き打ち解散に踏み切ったときには、メイ首相率いる保守党の圧勝と思いきや、結果はよもやの過半数割れ。定数650議席のうち、保守党は318議席(改選前330議席)にとどまった。労働党は262議席(改選前229議席)を獲得し、選挙前に比べて議席を伸ばした。

 コービン党首は民主社会主義者を自任し、政権公約でもサッチャー前に時計の針を戻すかのような、郵便・鉄道の再国有化を唱えている。なんと大時代がかったと労働党を見くびった英国の世論調査機関の多くは、またまた読みを外した。前回の総選挙、スコットランド独立を問う住民投票、欧州連合(EU)残留か離脱かを問うた国民投票に続き、4回連続の大外れである。

 今回、保守党優位と予測して外れたのは、労働党支持率の高かった若い層は選挙には行かないだろうと読んで、生のデータに補正をかけたせいだった。実際には彼らは、投票所に足を運んだ。キーポイントは若者の失業率である。1~3月の16~24歳の失業率は、ピークより低下したものの依然12.5%。この層の失業者は56万2000人にのぼり、1年以上の長期失業者は、若年失業者全体の15.4%を占める。メイ首相は彼らの怒りを読み誤ったようである。

 メイ首相にとって、悪いときには悪いことが重なる。ロンドン市街のケンジントン地区の高層マンションで起きた火災は、さながら「タワーリング・インフェルノ(そそり立つ地獄)」の光景を醸し出した。出火箇所は住民の冷蔵庫とされるが、死者行方不明者79人を出す惨事となったのは、燃えやすい部材を使った外壁の修理が原因との見方が多い。しかもその外壁工事が、隣接する高級住宅街からの見栄えをよくするためではないか、と囁かれるに及んで世論の怒りは沸騰した。

『二都物語』。労働党のコービン党首は、ディケンズの名作の表題を使って、「2つの都があるようだ」と英国の格差問題を鋭く突いた。メイ首相も火災当日に事故現場に駆け付けたのだが、安全上の理由から被災者たちとは会わなかった。この初動の遅れが決定的となって、政治生命は事実上断たれようとしている。


■若者の「憤懣」で左派勝利の韓国

 2014年4月に韓国で起きたフェリー転覆事故での、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の初動の遅れが、政権基盤を侵食したことが想起される。彼女の側近政治への国民の不満に火が付き、サムスンなど一握りの財閥企業に富と権力が集中する格差社会が、今年5月の大統領選にもうねりとなって表れた。左派の廬武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の懐刀だった文在寅(ムン・ジェイン)氏が大統領に選出されたのも、韓国社会を覆う閉塞感が背景だった。ここでも目を引くのは、文候補を押し上げたのが若年層の圧倒的な支持だった点だ。

 韓国の雇用統計では15~29歳を若年層としているが、その失業率は2016年には9.8%と10%近い。全体の失業率は3.7%なのに対し、若年層の失業率は際立っている。しかも4年制大学以上を卒業した若年層の失業率は、11.1%に達する。日本以上に学歴社会の韓国で、「大学は出たけれど」の悲哀を味わう若者たちの憤懣は察するに余りある。かつての日本の日教組のように、左派勢力が教育現場を牛耳っていることもあって、北朝鮮に宥和的な大統領が誕生したのだ。


■最も低い日本の「若年失業率」

 安倍政権が直面する難局も、原因は森友、加計といった国内問題のようにみえて、グローバルな政局の混迷と無縁ではない。フランス、英国、韓国のなかで、どのケースが日本に近いかといえば、フランスの下院選のようにもみえる。何よりも、小池知事がマクロン風を演じるのに成功しているからである。直近まで自民党籍を持っていたことから明らかなように、彼女は左派の政治家ではない。が、外交・安全保障ではタカ派に属するが、「変革」の雰囲気を醸し出すことのうまさは、小泉純一郎元首相ばりのポピュリストでもある。

 ならば、英国や韓国のように、左派が日本で伸びる気配はないのか。これまでの記述で想像がつこうが、日本は失業率、なかでも若年失業率が際立って低いのである。失業率は2.8%と3%を下回り、主要先進国では最低。15歳から24歳までの若年失業率は5.0%と、これまた主要国では最も低い。「10%前後の若年層の失業率を、4年で半減させることを目指す」と自民党は2012年暮れの総選挙で公約し、政権を奪取した。民進党やリベラル派のメディアは「不都合な真実」に口をつぐむが、政治の基本は雇用の創出である。

 若年層の失業率の低下は、18歳、19歳と20歳代の若年層で、内閣支持率と自民党支持率が目立って高いことと符号する。「最近の若者は新聞やテレビを見ない」「政治問題や社会問題への関心が低い」「変化を嫌う保守的な心理が蔓延しているのは嘆かわしい」――大手メディアに蝟集する団塊の世代のオジサン、オバサンたちは、上から目線でそんな説教を繰り返す。

 だが若年層の男女は肌身で感じている。「自分たちの前の世代よりも就職が容易になった」と。「雇用が増えているのは非正規だけ」「雇用は増えても賃金は増えない」といった超越的な批判もいいが、自分たちが政権の座にあったときの失業率(なかでも若年失業率)がいくらだったかと比べてから、モノをいうべきだろう。民進党や共産党に大きく票が流れることはないにせよ、自民党が都議選で議席を大きく減らせば、2018年に総選挙を控えた党内はざわつくはずである。


■内閣改造前倒しも

 安倍一強支配のなかで抑え込まれていた党内の非主流派の不満が噴き出すことは避けられまい。自民党総裁である首相が都議選の街頭演説に出られないような逆風が、選挙後も収まらないとすればなおさらである。

 首相は2018年の通常国会での憲法改正案の審議を経て、衆院選と憲法改正国民投票のダブル選挙を念頭に描いている。そのためには、秋の臨時国会会期中にも、自民党の改憲案を衆参両院の憲法審査会に提出する、と首相はいう。それに対し、社会党に先祖返りしたような蓮舫民進党は、共産党と組んで改憲阻止を前面に打ち出すだろう。特定秘密保護法、集団的自衛権を盛り込んだ安保法制、そして共謀罪の趣旨を盛り込んだ刑法改正と同様に、いやそれ以上に国会審議は波立とう。

 憲法学者の多くが自衛隊違憲論を唱えるような事態を解消するために、首相が改憲を真正面に訴えようとする気持ちは分かる。その際、誰よりも首相の「援軍」となるのは、北の独裁者だろう。一方で、南の大統領が北にベタ折れするような宥和路線を鮮明にするならば、日本の同調者たちも核・ミサイルの脅威などなかったことにして、南を見習えとばかりに、改憲反対の声を高めるだろう。

 問題は、森友に次ぐ加計問題で政権が世論の支持という浮揚力を失っていまいか、という点である。とどまるところを知らぬ文科省からの情報漏洩は、官邸に人事権を奪われた霞が関の反乱のようであるが、もっぱら打撃を受けるのは官邸である。

 役人の逆恨みほどねちっこいものはない。その光景は、10年前の第1次安倍政権で、消えた年金問題で叩かれた社会保険庁からヤケクソ気味に情報漏洩の洪水が起きたときのようだ。

 安倍政権にとって女性票の離反は痛い。いきおい自民党内の主導権争いは激しさを増す。首相は内閣改造の時期を早め、小泉進次郎氏の入閣を促して局面打開を図るかもしれないが、政権の息が切れそうになったときには、麻生太郎副総理が満を持してワンポイントで首相に返り咲くことも考えられる。2017年は人気映画『アウトレイジ』の抗争劇さながらに、全員悪党による暑い夏になりそうである。

 

 

青柳尚志