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業績が悪化!給料カットができない時、会社はこうする --- 尾藤 克之

6/28(水) 16:36配信

アゴラ

「会社の業績が悪いから給料一律20%カット…仕方がない?」(https://lmedia.jp/2017/06/22/80048/)これは「シェアしたくなる法律相談所」というサイトの記事で、法律家がライティングしている。しかし、これでは少々誤解を招きかねない。おそらく多くの読者は、「給料カット → 違法だからできない → 大丈夫」と思ってしまうだろう。

■給料カットは次のように進行する

この記事に書いてあることは正しい。労働契約における重要な要素である賃金を使用者が一方的に減額することは許されない。だから会社は様々な手段を講じる。多くの会社では、労組の役員経験者は管理職への道となっている場合が多い。労使双方の考え方を理解させておくためである。しかし、労組を毛嫌いする会社も多い。

会社は業績が悪化すればコストをカットする。ここに本稿用に作成したケースを提示する。ABC電器(仮称)は東証に上場する国内トップクラスの電器メーカーである。電化製品の売上は堅調だが、半導体事業が停滞し大幅損失を計上しており黒字化の目処がたたない。このままでは債務超過に陥ってしまう。社長は全社に「緊急事態宣言」を発令した。

<ABC電器(仮称)のケース>

総務部部長の高橋さんは3年間にABC電器に転職した。当初から上級管理職(部長代理)だったが、キャリアのほとんどを総務畑で過ごしている。現在の給料は月額60万円である。昨年、豊洲の高級マンションを35年ローンで購入した。子供は2人いるが、長男は来年大学受験でなにかと物入りでお金がかかる。

そんななか、上司の井上役員に呼び出されて、異動の辞令が通達された。通達の際、横には人事部の山下部長も同席していた。高橋さんは、給料などの諸条件について確認をした。そこで、社長直轄の特命プロジェクトとして新規開拓部が新たに設立されたこと。各部門のエース級10名が異動になることを聞かされた。

新規開拓部では、頑張った社員はより多くの報酬が受け取ることができると説明された。給与制度は報酬部分が厚い。シミュレーションによれば基本給は20万円だが、売上によっては、月給が数100万円を超えるようだ。高橋さんは不安を感じながらも説明を聞いていた。職務規定上、社員は異動を拒否することはできない。

異動してから3ヶ月が経過した。異動した10名のうち3名が退職した。現状7名の人員だが、売上がないので基本給20万円のみである。営業リストも配られず名刺の肩書きもなかった。新規開拓部は社内の他の部門とは異なり、地下の倉庫を改装した場所にあった。高橋さんは自分がリストラ候補であることをはじめて理解した。

■労使双方が交渉するってどんな感じ

高橋さんは労組を通じて不利益変更を受けたとして会社に団体交渉を要請した。会社は団体交渉を拒否すれば不当労働行為が成立するので受けざるをえない。このような場合、次のようなやり取りがおこなわれる。
※これは本稿用に作成したケースです。

会社
就業規則に基づき人事異動を命じています。社員は拒否できません。

労組
これは不利益変更なので認められません。給料も所属も元に戻してください。

会社
指摘の不利益変更ですが、以前よりも給料は上がるはずです。新規開拓部は成果をより評価する制度を設けました。売上の1%が報酬に還元されます。1億円売上れば、100万円の報奨金を手にできます。10億円の売上なら1000万円の報奨金です。毎月10億円の売上があれば年収は1億円を超すことになります。こんな魅力的な制度はありません。

労組
高橋さんは、前職のメーカーで役員の立場にありました。その点を評価し一定勤務後に役員に就任させるという合意があったので転職をしたと聞きました。3年経過しましたがその約束はどうなりましたか。

会社
役員就任は株主総会の決議事項です。会社が勝手に役員就任のオファーを出せるわけありません。高橋さんは前職で役員の立場にある優秀な方でした。そのため採用し、今回の異動も決定したのです。優秀ですから高い成果を上げるでしょう。期待しているのです。

※このような応酬があり団体交渉は終了する。2回目の団体交渉は2ヵ月後に設定された。翌日、高橋さんは特命プロジェクト担当、人事部の山下部長に呼び出された。

山下
高橋さん、今日から、新宿の高層ビル街に行って、○○ビルの最上階の会社から1社ずつ飛び込み営業をすること。ちゃんと名刺をもらってくるように。同じ場所だから交通費はいらないね。君の実力なら1時間に10社は飛び込める。8時間あれば80社だ。1週間で80社×5日の400社。社長も君に期待しているよ。会社の命運がかかっている、頑張ってくれ!

このように、じわじわと迫りやめさせるのがいまのパターン。仕事をしても、成果があがらなければ業務命令違反として懲戒にし最終的に懲戒解雇をおこなうケースが多い。

■労使双方の言い分を理解する

私の場合、人事専門のコンサルティング会社にいたので、人事部や労組はお客様だった。顧問契約をして労使双方の問題について解決に導く仕事をしていた。そのため、今回のケースであげたように、使用者側や労働者側の一員として同席する機会が多かった。

労働問題はいたるところで発生しているが、それぞれの言い分や考え方がわからなければ、防ぐことも交渉もできない。正社員は既得権により守られていると言われる。期限の定めが無い雇用契約であるから、よほどのことが無ければクビにならない。解雇されても法律で定められた要件を満たさない限り会社が負ける可能性が高い。

また、正社員と非正規社員は同じ仕事をしていても、非正規社員は給料が低く解雇のリスクがついてまわる。使用者側は、弁護士、社労士などから情報収集したり勉強会を開催することが多い。しかし、労働者側はその機会が圧倒的に少なく知識もない。「酷いことをされた」「パワハラをうけた」と憂いたところで誰も助けてはくれない。

労働者側も労働問題に起因する事件やケースなどについては知っておいたほうがいいだろう。会社には会社の言い分がある。それは働く上で知っておかなければいけないことでもある。正社員の権利を守ることは法令遵守の観点では大切なことであることは間違いない。しかし、自らの立場が優遇されていることを理解することも必要ではないかと思う。

尾藤克之
コラムニスト

尾藤 克之

最終更新:6/28(水) 16:36
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