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『サーキットの狼』池沢早人師による書き下ろし注目作!──フェラーリF40 空前絶後の金字塔【前編】

6/28(水) 22:02配信

GQ JAPAN

漫画『サーキットの狼』の池沢早人師先生による書き下ろし注目作!! 『スーパーカー値千金──フェラーリF40 空前絶後の金字塔』を公開。今回はその前編を届ける。

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■登場人物と物語の背景について

誰よりも深く“クルマと対話”できることが唯一の取り柄であるモータージャーナリスト冴気芯也(さえきしんや)32歳。彼はその真摯さゆえ、スーパーカーコレクター故・南沢元司(みなみさわもとじ)からコレクションの管理を任され、南沢の孫娘である陽菜乃(ひなの)19歳のドライビングの先生役をつとめる日々を送っていた。女心にウブな芯也を、先生として尊敬しながら、時にからかい、困らせる陽菜乃。それは、彼女の胸の内にひそかに芽生えた恋心の裏返しでもあった……。

■chapter 1

指先でつまんだチョークで、その抜けるような青空に何か絵でも描きたくなるような天気だった。

ここ南沢邸のガレージ前には、専属メカニックである飯島義男の手によって、フェラーリF40が運び出されていた。その乾いたアイドリング音は、澄み切った空気に亀裂を入れているかのようだ。

「陽菜乃ちゃん、めずらしく緊張しているみたいだね」

南沢陽菜乃のドライビングの先生役をつとめるモータージャーナリスト冴気芯也が、固まっている彼女を見て言った。

「だ、だってF40よッ! ずっとガレージの中で観るだけだったフェラーリF40を、今日、生まれて初めてドライビングできるんですもの!」

陽菜乃は声までも上擦っていた。

「陽菜乃ちゃんの運転も、だいぶ上手くなってきたからね。そろそろF40に挑戦させてもいいかなと思って」

一抹の不安を抱きつつも、それを振り払うように、冴気芯也は明るい声で言った。

「きゃっ。ソレって、あたしのドライビングセンスを認めてくれたってことよね?」

嬉しいーっと叫びながら陽菜乃は、芯也の腕を両手でつかみ、身を寄せた。彼女の胸の感触が腕に伝わってくるのを感じた芯也は、思わずドキッとしてしまう。

ふたりのやりとりを見ていた先輩モータージャーナリストであるチャオ西崎が、ゴッホンというわざとらしい大きな咳払いをしてみせた。「芯也よー、本当にいいのか!?」

陽菜乃にキッと睨まれながらも、彼は言葉をつづける。

「なんてったってスーパーカー中のスーパーカーだぜ、F40は! このオレ様でさえ、愛するフェラーリの中から自分の愛車として選んだのは、普段使いの乗りやすさからF355だっていうのに。それがこのお嬢さまにF40だなんて……ああ、恐ろしい、恐ろしいィ~~」

そう言ったチャオ西崎は、自身の肩を抱くようにして身を震わせた。

「もうー、チャオ太郎さんは、あたしをビビらせるためにここに来たんですか!」

陽菜乃はチャオ西崎にぐっと顔を近づけ、詰め寄った。

「この可愛い陽菜乃ちゃんの顔を久しぶりに見たくなって寄っただけさ。芯也から今日行くって聞いたからね。それにしても、怒った顔も素敵だなあ、陽菜乃ちゃ~ん」

間近に見る陽菜乃の顔は本当に魅力的で、チャオ西崎の声は軽く裏返っていた。

「チャオ先輩の言ってることは本当だよ。見送りがてらチョットだけ顔出すってね」すかさずチャオ西崎のフォローをする芯也。

「あーっ、もう行かなくちゃ! 成田からイタリアに飛ぶんだ。なんせオレって国際的に売れっ子な国際的モータージャーナリストだから」カルティエの腕時計を見たチャオ西崎は、アルマーニのスーツの裾を翻し、愛車であるF355に向かった。

「オレが顔出したのは、ふたりがいよいよF40のドライビングレッスンをするって言うから、オマエらに万が一のことがある前に一目あっておこうって思ったのさ」

クルマに乗り込みながら、ヒャッハハハと笑い飛ばすチャオ西崎。

「チャオ太郎さんたらっ! もうーっ!」

追いかける陽菜乃から逃れるように、チャオ西崎はF355をスタートさせていた。

「ホント、イヤな人っ! ……あたしだって本当は怖くって、昨夜は寝られなかったくらいなのに」

肩を震わせ、陽菜乃は涙で目を潤ませる。

そんな彼女にそっと近寄り、芯也が言った。「大丈夫。オレがついている」。

「芯也さん……」胸元に身を寄せる陽菜乃。

「あのう、おふたりさん。いいところを悪いが、もうF40の暖機は充分なんだけどね」

飯島義男メカニックの台詞に、芯也と陽菜乃が顔を赤らめて振り返った。

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最終更新:6/28(水) 23:15
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