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藤井聡太四段の快進撃を支えた、母のまなざし 口を出さずに、見守るだけ

6/28(水) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 既報の通り、14歳の藤井聡太四段が史上最年少、かつ前人未到の29連勝を達成した。

 藤井四段に限らず、偉業が達成される要因は自身の才能と努力によるものであることは言うまでもない。だが、そこと切っても切り離せないものが、家族のサポートである。

 つい最近、囲碁史上最強の棋士である李昌鎬の自伝を読むと次のような言葉があった。才能を生み出す要素が何か、たった一行の中に凝縮されている。

「才能とは、家族の関心と愛を糧に育つ木です」

 彼の一家については、藤井四段が小6のころから筆者はずっと取材・家族ぐるみの付き合いを続けている。

 初めて愛知県瀬戸市にある藤井家を訪れたとき、筆者が参考にした書籍がある。米長邦雄著「人生一手の違い」(祥伝社)である。同書の冒頭に、著者が谷川浩司名人(当時)の実家を訪れる場面が出てくる。

 あらすじをかいつまんで説明すると、こういうことだ。

 谷川浩司が21歳で名人になった。自分はタイトルも手にしたが一番ほしい名人には四十代後半になった今も手が届いていない。試しに米長邦雄と谷川浩司の将棋をそれぞれ三百局ずつ並べてみたが、実力的には変わらない。むしろ自分のほうが手厚い。一体どういうことなのか。これはきっと実家に秘密があるに違いない。

 ここからは、故米長会長の言葉をそのまま引用しよう。

 谷川名人、そしてご両親と対座しながら、私は思った。

「家の空気が丸い」(文庫版、34ページより)

 谷川浩司の父・憲正は寺の住職で、結婚以来一度も怒ったことがなかったという。そして息子が将棋を覚え、道場に通い始めると、ずっと外から見守っていたという。

 あるとき、毎日外で待っている憲正氏に「あなたも相当将棋が好きですね」と話しかけた人がいた。(中略)

「私、将棋は知らないんです」

 それを聞いた人は不思議そうに言ったそうだ。

「将棋を知らないで、そんなことしていても面白くないでしょう?」

 憲正氏の答えは簡単であった。

「いいえ、子どもが喜んで将棋を指しているのを見るのが、楽しいんです」(同書 38‐39ページより)

 筆者は同書に記されている「将棋が強くなる子供の家庭」を基準に、藤井家がどのような構成になっているか拝見することにした。  

◆将棋の有段者が一人もいない藤井家

 まず一つ目に押さえておきたいのは、藤井家には将棋の有段者が一人もいないということだ。藤井四段を除き、全員辛うじて駒の動きがわかる程度だ。ここで重要となるのが、母・裕子さんの存在だ。きちんと本人に聞いたことはないが、裕子さんの愛読書は間違いなく「月刊将棋世界」である。

 彼女は現在将棋界で誰がタイトル戦に登場して何勝何敗か、今年C級1組からB級2組に昇格した人の師匠が誰で、最近四段としてプロデビューした人の出身地と最終学歴はどうなっているか、すべて把握している。

 そのうえで裕子さんが素晴らしいのは、息子の将棋に一切口を出さないということだ。もちろん、もはやプロなのだから素人に口を出せない領域だというのはあろう。しかし、世の中にはアマチュアの親がプロの子供に余計な口を挟む事例があまりにも多い。

 象徴的な場面を一つ思い出す。2015年末に一度、筆者は藤井親子に拙宅へ泊まってもらったことがある。

 その際に昼食を共にして、これから藤井聡太はプロ棋士三人と筆者の家で対局という流れになっていたが、筆者が「対局中、お母さんはどうします?」と聞いたのだ。

「せっかくの東京ですし、上野と浅草も近いですから、少し観光しようかと思います」とのことだった。

 しかし、裕子さんは観光に行くことはなかった。我が家は狭く、客人全員に椅子を用意できないくらいだが、彼女は階段に腰かけ、まばたきすらせずに対局する息子の背中を見つめていたのだ。

 もう一度繰り返すが、藤井聡太を除いて藤井家に将棋の有段者はいない。だから、あのとき裕子さんが「今日はプロ同士の腰掛け銀のねじり合いが見たい」とか「矢倉対振り飛車穴熊のなんとかかんとか」と考えていたことは絶対にありえない。そして何気なく彼女の視線の先を見ると、そこに将棋盤はなく、あくまでも対局に集中する息子の背中に集中していた。そのときに筆者は悟ったのだ。ああ、この母親の眼差しこそが彼の強さなのだと。

<文・タカ大丸>

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。

雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト

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