ここから本文です

バラバラ事件発生!! ──ディオール オム 2018年春夏コレクション

6/29(木) 12:51配信

GQ JAPAN

緑の芝生の頭上には、きらきらした黒い短冊がきらめいている。いや、短冊ではなく長いテープだ。そう、音楽カセットに使われるテープが、フリンジとなって頭上でまたたく。イメージは若者が初めて行く、夜フェス。

そして、モデルの首にもテープが。いや、細いベルトのようなものが首に。また、なぜかテーラードジャケットの袖が首に、からまりついているものもある。さらにジャケットの上にレイヤードされたシャツ。まったくモコモコしないのが不思議。繰り返すがシャツの上にジャケット、ではなく、ジャケットの上に重ねたシャツ、である。

一見、すごく複雑だ。だが、実はたいへん明快である。

すなわち、スーツは全ていったん分解。バラバラにされているのである。そのうえで、再構築されている。思いもかけない方法で。

首に、マフラー状に巻かれていた袖。それは、「袖の形をしたマフラー」だ。冗談のように聞こえるが、両端が、本物の袖のように作られている、袖風ディテールの帯状の布だ。首に巻いてもよし、腰に巻かれてもよし。

また、裏返しに見える燕尾服は、本当に裏返しに作られている。いわゆるインサイドアウトの手法だが、背中は斜めにカットされ、アシンメトリーなスワローテイルだ。そして、ジャケットの上に重ねたシャツが、自然。もし本当に重ねて着たら、上半身が盛り上がって大変なことになる。

つまり、これは、トロンプルイユ。いわゆる「だまし絵」の手法である。たとえば真っ赤なポロシャツの下にのぞく、ジャケットの裾は、裾だけ、である。ポロの下や、コットンシャツの裾のところに、ジャケットの裾を縫い付けたのだ。

とはいえ、そうか、なーんだ、簡単なんだ、と、思ったらそれは大間違い。なぜなら、Tシャツ地とスーツ生地を縫い合わせる、というのは至難の業だから。厚さと質感のまったくちがう布を、接ぎ合せるには技術が必要だ。いや、そうとうの技術をもってしても、片方の重さで生地はよれたりつれたり、美しく縫製できることは、まずない。なにしろ、ニットの職人や機械と、スーツのそれとはまったく別ものだ。

それが、なんなくできてしまっているのは、優れたメゾンのサヴォア フェール(ノウハウのフランス語。「やり方」に関する知恵や知識といった意味)のおかげである。ゆえに、クリス ヴァン アッシュは今回、そんなメゾンの職人技に敬意を表して、仮縫いのようなステッチや、アトリエのアドレスが書かれたリボンを使った。

彼がアーティスティックディレクターに就任して10年。初めての展示会も美しかったが、今はそれをはるかに上回る軽やかさだ。熟練とはまさに、このことだろう。

Words: Chiyumi Hioki

最終更新:6/29(木) 12:51
GQ JAPAN

記事提供社からのご案内(外部サイト)

GQ JAPAN

コンデナスト・ジャパン

2017年9月号
2017年7月24日発売

600円(税込)

『ベイビー・ドライバー』主演、アンセル・エルゴート登場/クルマが恋人の若者たち/10トップワールドニュース/三越ワールドウオッチフェア“明日”のヴィンテージ時計