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パリ協定だけではない、トランプ政権の「ぶち壊し」

6/29(木) 17:33配信

オルタナ

今月は、トランプ大統領のパリ協定脱退宣言が世界の耳目を集めたが、相前後して看過できない動きが米国で起きていたことにお気づきだろうか?テーマは、ここ最近日本でもよく耳にするようになったESG投資である。(一般社団法人SusCon代表理事=粟野 美佳子)

トランプ大統領の声明の前日、米国のNGO「Ceres」*が、快哉の声を上げた。因縁のエクソンモービル社で、気候変動が事業に与える影響を開示せよとの株主提案が、初めて過半数の支持を得たのである。これまでも提案はされてきたが、支持は四分の一止まりだった。

しかし今年は、ESG投資を重視する運用機関が賛成に回り、環境課題が投資判断材料として重要であることを投資家も明確に示したのだ。
*アラスカ湾でエクソンモービル社のタンカー「バルディース号」が起こした油流出事件をきっかけに誕生した

だがその一週間後Ceresは、歓喜とは真逆の抗議のプレスリリースを出す憂き目にあう。共和党が出したある法案が米国下院を通過したからだ。その法案の名前は「金融選択法案」。日本でもトランプ政権の金融規制改革として報道されているものである。

紛争鉱物に関する情報開示義務を定めたドッド・フランク法の廃止、と受け止めている方もいるだろう。だがこの法案、その程度では済まない。わずか1ページながら、ESG投資の手を縛りあげるような内容を含んでいるのである。

内容は極めて簡単だ。株主提案資格の金額条件を廃止し、保有期間も長くする、ただそれだけのことだ*。これが具体的には何を意味するかを、アップルで見てみよう。現在はアップルの株式を2000ドル分、一年間保有していれば、例えば中国の工場における労働環境改善について株主提案が可能だ。

しかし、この法案が成立すると、なんと75億ドルのアップル株を三年間持っていなければならない。こんな大金の株を保有できるのは、ごく一握りの著名投資家や、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような巨大年金基金ぐらいだろう。
*これに加え、否決された提案の再提出条件や、株主の代理提案についても厳しくなっている

問題は要件の厳格化だけではない。法案説明文書のものの言い方がひどいのだ。社会環境課題への取り組みを株主として要請するのは「奇行」。2000ドル程度の株保有で提案を出す輩は「総会屋」。企業は株主に利益をもたらせばそれでいいのだ、と言わんばかりである。

トランプ政権が環境と経済の両立を真っ向から否定していることは、環境保護庁の長官人事と大幅予算削減、大気浄化法見直し、パリ協定離脱と、立て続けに出された政策からわかってはいた。しかし、その「ブラックリスト」にESG投資も載っていたとは。こうなると、この先何がこのブラックリストから飛び出してくるか、分かったものではない。

これまで株主提案を通じて企業にプレッシャーをかけてきた米国のNGOは、もちろん反発している。法案自体、上院でこのまま採択される見込みは薄いと言われている。しかし、法案を修正することになったとしても、果たしてこの部分は葬り去られるだろうか?

成立すれば、パリ協定や大気浄化法と違い、株主提案に実体的影響が出ることは必至だ。ESG投資にはダイベストメントや対話といった他の手法が勿論ある。だが、NGOがこの手段を自ら取ることは難しい。つまり、この共和党政権によるESG投資ぶち壊しの動きに対抗するには、機関投資家の役割がこれまで以上に重要となるのだ。

法案の行方がどうであれ、ESG投資はもうルビコン川を渡っている。遅れていた日本といえども同じこと。投資家も企業側も、時代錯誤のトランプ政権に惑わされてはいけない。世界の見本になるくらいの自負をもって、エンゲージメントを進めてほしい。全ての道がローマに通じていたように、「サステナビリティ」を目指さない道は無い。その道を早く辿った者が勝者となる、それが21世紀なのだから。


粟野 美佳子:
一般社団法人SusCon代表理事
早稲田大学大学院政治学研究科修了(国際政治専攻)。1990年よりWWFジャパン職員。パンダマークのライセンス事業や、企業とのパートナーシップ業務に従事。2009年7月より自然保護部門に移り、ビジネスと生物多様性問題及びREDD(途上国における森林減少・劣化からの排出の削減)プログラムを担当。2016年にWWFを辞して一般社団法人SusConを設立。環境省の「環境報告書の記載事項等の手引き第3版」の検討委員を務める等、情報開示関連活動も多い。

最終更新:6/30(金) 11:45
オルタナ

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