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ファーナスの“ノックスビルの休日”――フミ斎藤のプロレス読本#034【全日本プロレスgaijin編エピソード4】

6/29(木) 9:00配信

週刊SPA!

 199X年

 ノックスビルは、ダグ・ファーナスが学生時代を過ごした町だ。故郷オクラホマのハイスクールを卒業し、フットボール奨学金を取得してテネシー州立大ノックスビル校に入学したのが1979年の夏だから、この町にはかれこれ13年も住んでいる。

 学生時代の仲よしグループのみんながほとんど引っ越してしまったいまでも、ファーナスはノックスビルで暮らしている。このテネシーの田舎町にはファーナスにとって忘れられないなつかしい香りが漂っている。

 全日本プロレスの『世界最強タッグ』のツアーから戻ってきたあと、ファーナスはアメリカ国内では試合のスケジュールを入れず、もっぱらジム通いの生活をつづけている。

 トレーニングを終えたあとは、ほとんど毎日のように大学の同級生のフィルさんとビッキーさんの夫婦の家を訪ね、まだ幼い彼らの子どもたちの遊び相手をしながら午後のひとときを過ごす。

 ファーナス自身もいちどは結婚をしたことがあるが、いまはシングル・アゲイン。独身の気楽さといい意味での無責任さでフィルさんのキッズのおじさん役を楽しんでいる。

 ノックスビルでの日常と全日本プロレスでのツアー活動は、ファーナスにとってはまったく異なるふたつの生活なのだという。

「日本にいるときは毎朝7時に起きて、ゆっくり朝食をとる。夜は早く寝るし、1日じゅうプロレスのことだけ考えているから毎日、緊張している。こっちに帰ってくると夜は遅いし、朝も遅い。リラックスしすぎるくらいリラックスしちゃってるのかな」

 母校テネシー大ノックスビル校はフットボールの名門。ファーナスは1年からランニングバックのレギュラー・ボジションで活躍し、オフシーズンはパワーリフティングにほとんどの時間を費やした。

 大学を卒業してパワーリフティングで生計を立てるようになったファーナスは、スクワット985ポンドの大会レコードをはじめ、合計29個の世界記録をつくり、全米のプロ・コンテストに出場するようになったが、住み慣れたノックスビルを離れることはなかった。

「ノックスビルの町には、フットボール・シーズンの最初の公式試合の朝みたいな、なんだかわくわくするような、じっとしていられないような空気があるんだ。たぶん、口でいくら説明してもわかってもらえないかもしれないけれど、朝起きて、ベッドルームの窓を開けて外をながめると、なんだか元気が出てくるみたいな、そんな気持ちになるんだ」

 オクラホマの農場育ちのファーナスには、日本でのツアー生活がひじょうにテンポの速いものに感じられるのだという。ノックスビルの田園風景と東京の都市空間とではあまりにも視覚的な落差が大きい。

 だからこそ、全日本プロレスのリングに上がっているときは心身ともにプロレスのことだけに集中できるのだろう。

「シリーズが終わってノックスビルに戻ってきた翌朝は、大学のキャンパスのまわりをひとりでゆっくり散歩することにしているんだ。1カ月近くも家を空けていると、木々の色がすっかり変わったりしていることがあるんだ」

 全日本プロレスでのタッグ・パートナー、ダニー・クロファットが遠くカナダのモントリオールに住んでいるのも仕事とプライベートをきっちりと区別するのに役立っている。

 ノックスビルにはレスラー仲間はほとんど住んでいない。だから、行きつけのジムでいっしょにワークアウトをするのは顔見知りの地元の若者ばかりだ。この気どりのなさがファーナスにとってはこのうえなく心地よい。

「日本に行く1週間くらいまえになると、フィリップ(クロファットの本名)に電話をかけて次のツアーについていろいろな話し合いをすることにしている。彼もオレもそうすることでシリーズへ向けてのテンションを高めるように心がけているんだ」

 次期シリーズは4週間のロング・ツアー。ファーナスがまたノックスビルに帰ってくるころにはテネシー大学のキャンパスの芝生が緑色に変わっているだろう――。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:6/29(木) 9:00
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