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日本とスペイン、インテンシティーの相違が生まれる理由。育成年代における戦術の叩き込み

6/30(金) 10:20配信

フットボールチャンネル

 6月22日、Jリーグとスペインのラ・リーガが連携協定を結んだことが発表された。記者会見の後にはトークセッションが行われ、エイバルの乾貴士が登壇。スペインサッカーの特徴について議論がなされたが、そのなかで日本と比べてスペインはインテンシティーが高いということが話題に上った。このプレー強度の違いは何に由来するのだろうか。(取材・文:小澤一郎)

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●日本サッカーの課題。インテンシティー問題

 22日、Jリーグがスペインのラ・リーガとの戦略提携協定を結んだことを発表した第二部のトークセッションでSDエイバルの日本代表MF乾貴士が口にした「インテンシティー」についてのコメントが複数のメディアで取り上げられた。

 日本と欧州では練習からインテンシティーの差があるという認識をラ・リーガで2シーズンを過ごした乾は示し、論調としては「日本のインテンシティーは欧州と比較した時に低い(緩い)」というものであったが、果たしてこの差というのはどこから生まれて来るのだろうか。

 国民性、文化、気候、など様々な要因が複雑に絡み合って生じている差ではあるが、敢えて言わせてもらえば大きな原因は「指導者」にあると筆者は認識している。

 トークセッションで乾が説明した通り、エイバルのメンディリバル監督は練習中にある選手が削られても、削った選手を別に怒らない。それどころか「早く立て」と倒れている選手に厳しい要求を出すという。

 悪意を持って削りにいくような選手が出ないように一定のコントロールとジャッジが必要であることは言うまでもないが、指導者が示す基準によって選手やチームのインテンシティーは高くもなれば低くもなる。

 欧州トップレベル、世界と比べた時に「低い」と言わざるを得ないインテンシティーやハイプレッシャー下での技術発揮が日本サッカー界の長年の課題であった。14年ブラジルW杯での日本代表の敗退も重なり、ここ数年は育成年代の指導者も含めて日常の練習からインテンシティーを高める取り組みが増えつつあり、その成果は確かに目に見えるようになってきた。

 Jリーグでも近年は、松本山雅FCの反町康治監督、湘南ベルマーレのチョウ貴裁監督がスプリント回数や走行距離で上位の数値を叩き出し、インテンシティーの高いサッカーと躍動感溢れるチーム作りを実現している。昨年末、反町監督を取材した際、次のような話しをしてくれた。

「インテンシティー、インテンシティーと言っても、練習でそれをやらなければ試合で出せない。日本代表がハリルホジッチ監督になって『デュエル、デュエル』と言っているけれど、それも練習から。試合でいきなりデュエルは強くならないから。

 でも、日本の指導者はちょっと選手がぶつかるだけで止めるし、怪我を怖がって練習時間を短くしたり、スライディング禁止にしてしまう。それをやってしまうとインテンシティーもデュエルも生まれてこない」(フットボール批評issue14より引用)

●重要になる負荷のコントロール。疲労回復の設定

 実際、反町監督の松本山雅FCは高いインテンシティーでトレーニングすることが当たり前となっているため、練習参加に来る選手は往々にして松本のハードな練習に付いていくことができず、中には練習中に嘔吐してしまう者まで出るという。

 ただし、反町監督のように高いインテンシティーを日常から求める指導者ほど、負荷のコントロールと疲労回復のための休みをしっかり設定することが求められる。昨季の松本山雅FCでは予算の都合上、GPSで負荷を管理したり、採血をして乳酸値をチェックすることはできず、反町監督やフィジカルコーチの経験に基づいた部分で負荷のコントロールを行っていたという。

 育成年代でもハリルホジッチ監督が発した「デュエル」というキーワードによってインテンシティーの高さや球際の厳しさを要求する指導者が着実に増えつつある。

 しかし、試合から逆算した負荷のコントロールや疲労回復のための休みの設定をきちんと行っている指導者はまだ少なく、逆に「やり込む」ことを善として選手を過度に追い込む指導者が育成年代において微増した印象も受けている。

 少し脱線するが、そもそも日本の育成年代の年間カレンダーにおいて「オフシーズン」がないことは異常だ。

 筆者はこれまで欧州の育成年代の大会に参加する日本のチームを数多く見てきたが、常に1、2学年下の年代に見えるほど総体的に日本人選手は華奢で、フィジカル的な「ひ弱さ」をゲームで見せることが多い。

 日本人の骨格や欧米人と比較した時に体の成長曲線が遅い部分は確かにあるのかもしれないが、根本には「オフなくサッカーをやり込みすぎて肉体的な成長を阻害している」点があることも言及しておきたい。

●アグレッシブさと緻密な守備戦術

 指導者の問題でもう一つ触れておきたいのが育成年代における戦術指導だ。日本ではいまだに「ジュニア年代からの戦術指導は必要か?」といった議論があるが、サッカーをプレーする上では年齢・レベルに関係なく「問題を解決する行為」にあたる戦術は必要不可欠なものである。

 しかし、筆者がよく知るスペインの育成年代と比較した時に、日本の現場での戦術指導は「ないに等しい」ボリュームとレベルだ。

 クラブの予算規模からすれば1部残留で御の字のエイバルがラ・リーガにおいて昨季10位フィニッシュという大躍進を果たした背景には、メンディリバル監督のアグレッシブかつ緻密な守備戦術があった。

 当たり前だが「アグレッシブにハイプレスをかける」という守備戦術を採用したとしても、通常前線の選手は相手の最終ラインに対して数的不利を強いられるわけで、前の選手ほど相手を2人、3人とつかまえる中間ポジションを取る必要がある。

 乾がラ・リーガ2年目で飛躍的に向上させたのがこの守備のポジショニングだ。例えばエイバルでの乾は左サイドハーフを定位置とするが、逆サイドにボールがある時には中に絞りながら相手の右CB、右SB、ボランチ(インサイドハーフ)という3人をつかまえる中間ポジションを常に取り続けている。乾自身、「その3人の中心にポジションを取るよう監督に言われています」と明かしている。

 今季初ゴールとなったビジャレアル戦で見せたように、タイミングと角度が合えば思い切って右CBやボランチにアプローチをかける守備もする。

 乾がスペインへ渡ってからよく口にする「スペイン人の賢さ」、「戦術理解度の高さ」とは「=守備におけるポジショニング」と同義であり、スペインではチームを構成して年間リーグを戦う7歳、8歳からそうした守備のポジショニングを指導者が細かく指導している。

●育成年代、10年以上の時間で生まれる土台の差

 もともとサッカー的なセンスと知性を備えていた乾はスペインに渡ってから飛躍的に戦術理解度を高めているが、スペインの選手たちはジュニア年代から優秀な指導者の下で細かなポジショニングや駆け引きを覚え、それを試合で実行してトライ&エラーを積み重ねている。

 育成年代でそれを10年以上積み重ねた選手が戦術メモリーという土台を持ってプロの世界に飛び込むことが当たり前の欧州と、育成年代での細かな戦術指導が抜けた日本で選手育成において大きな差がつくことは当たり前なのだ。

 インテンシティーというテーマ一つとっても、指導者が単に「インテンシティー」、「デュエル」を叫び、プレー強度を上げようとしても肉体を司る頭脳がなければ実現できない。日本の育成年代の試合で指導者がよく発する「球際」、「(プレスに)行け」といった言葉を受け、選手たちは忠実にハイプレッシャーを実行している。

 しかしながら、戦術という具体性がなく、個人の感覚任せで無鉄砲に突っ込んでいくプレスに終わっているため、結果的には簡単にパスやドリブルではがされるような現象が育成年代における仕上げのカテゴリーである高校、大学のトップレベルでも散見される。

 出発点として指導者がインテンシティー、デュエルを強調することが重要ではあるのだが、それと同時に、同じ重要度を持って「高い強度で知的に相手からボールを奪う守備戦術」を指導者がしっかり選手に教えなければいけない。

 UEFAのコンペティション(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)でスペインのクラブがここ数年いい結果を残していることからも明らかなように、欧州の中でもスペインは戦術レベルの高い国、リーグで特に育成年代におけるインテンシティーの高さと戦術指導の緻密さは群を抜くレベルだ。

 スペインのラ・リーガで最も活躍した日本人選手としてそうしたレベルの高さを日々体感する乾の言葉だからこそ、もう少し重く、深く受け止める必要があるのではないか。

〈取材・文:小澤一郎〉

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